猫になってこの世界を見たら、どんなふうに映るのだろう―ふとそんな夢想にとらわれたことがあるかもしれません。猫と人間では、五感の面で大きな違いがあります。今回は、どう違っているのか、5つの感覚に分けて解説します。ぜひ最後までおつき合いください。
1.暗いところがよく見える(視覚)
猫の視力は、0.1~0.2ぐらいで、人間に比べると近視寄りです。解像度にも乏しく、たとえ止まっているモノでもぼんやり程度にしか見えません。
一方で、動体視力に関しては、人間の約4倍と言われています。素早いネズミの動きもコマ送りのようにとらえ、1秒間にたった4mm動いただけでも、「獲物がいる!」と察知できます。「だるまさんがころんだ」のオニ役としては最強です。
視覚の面で人間と最も異なるのが、暗闇でもよく見えることです。驚異的な能力の秘密は、人間にはない「タペタム(輝板)」が鍵を握っています。
「タペタム」とは、網膜の後方にある薄い膜のことで、取り込んだ光を反射板のように、網膜に照り返す役割を果たしています。
目いっぱい開放できる瞳孔(より多く光を取り入れる)と「タペタム」があるおかけで、猫は、人間には真っ暗としか思えない場所もスムーズに歩けます。ちなみに、夜道、ライトに照らされて猫の目が光るのは、「タペタム」の作用です。
2.音から獲物の「現在地」をとらえる(聴覚)
人間と違って、猫の耳は実によく動きます。約180度、変幻自在の動きです。顔は正面を向いているのに、耳だけが、沖縄のカチャーシーの手の形のように、別々の向きになることもあります。
可聴域(聞こえる周波数の範囲)で言えば、人間が約20~2万ヘルツに対し、猫は約60~6万ヘルツです。単純計算では、人間よりも約3倍も広く音を拾えることになります。
猫の聴覚は、特に高音域の聞き分けが際立っています。なぜかと言うと、獲物となる虫やネズミ、鳥たちは、すべて周波数の高い音を立てるからです。命をつなぐために、聴覚を高度に発達させてきた猫の歴史があります。
ひるがえって、現在の飼い猫たちは、狩りの代わりに、別の場面で耳の良さを活かしています。飼い主さんの帰宅時やごはん前が典型例です。飼い主さんの足音やフードの開封音を聞きつけるや否や、まっさきに飛んできます。
昔も今も、自分にとって「良いこと」を聞き分けるために、猫たちは自慢の聴覚を使っています。
3.匂いで安全性をチェックする(嗅覚)
猫は、食べ物を前にすると、安全なものかどうか確認するため、しきりに匂いを嗅ぎます。腐っているもの、毒性のあるものを食べれば、身体の具合がおかしくなり、最悪の場合、命の危険も避けられません。匂いチェックの習性は、野生時代の名残です。
猫の嗅覚のすごさは、飼い主さんも日頃から実感していることでしょう。フードだけでなく、新規のモノに対しては、とりあえず匂いを嗅いで、どんなものか判断を下します。
猫の場合、匂いセンサーとして機能する「嗅上皮」の大きさが、人間の約5~10倍あります。嗅細胞そのものは約2億個、実に人間の40倍です。センサーの精度が高い分、より多くの匂い情報を収集、分析できます。
さらに、匂いの嗅ぎ分けで大切な役割を担っているのは、かわいらしい鼻先です。正確には「鼻鏡」と呼ばれるものですが、常に湿っているため、空気中に漂う匂い物質が吸着しやすくなっています。
猫の匂いチェックは、フードの安全性だけでなく、たとえば、同居猫同士の挨拶にも使われます。お互いに鼻先を合わせ、匂い情報を交換。お尻の匂いも丹念に吟味した後、その流れで、いつもやさしい飼い主さんに親愛を込めて鼻チューします。
4.機能性豊かなヒゲ・センサー(触覚)
猫のヒゲは、「上唇毛」をはじめ、「眉上毛」や「口角毛」「頬骨毛」などの種類があります。見た目的にも立派なものですが、「障害物の有無を知る」「身体のバランスを保つ」「空気の流れや匂いをキャッチする」などの重要な役割を果たしています。
猫が暗くて狭いところ(高いところ)をスルスルと移動できるのも、ヒゲがあればこそです。猫のヒゲは別名「触毛」とも言われ、その根元には神経と血管が集まっています。「触毛」の言葉通り、まるで人間の指先のように敏感です。
猫の前脚辺り(正確には手根球)の近くに、まわりの毛とは明らかに違う長い毛があるのはご存じでしょうか?あの飛び出した毛もまた触毛の一種で、「手根触毛」と言われ、距離感を測定するなどの役割がある、と考えられています。
人間の場合、猫の「手根触毛」に似たものでは、「福毛」があります。極端に長く、細くて白っぽいのが特徴です。別名「宝毛」とも呼ばれ、縁起物とされています。なお、シニア男性特有の飛び出す耳毛は、吉兆のサインではなく、単なる加齢の影響です。
5.甘みを捨てた猫のグルメ事情(味覚)
私たち人間は、甘味をはじめ、苦味、酸味、塩味、旨味、5つの味覚に従って、食べ物を味わいます。猫の場合は、甘味を感じることができないと言われています。猫党、かつ、甘党な飼い主さんとは大違いです。
味センサーである味蕾細胞に関しても、人間が約1万個に対して、猫はたったの約500個に留まります。かなり振り切った味のシステムです。
雑食性の人間と違って、猫は本来、穀物はもちろん、野菜も果物も食べません。人間と暮らすようになってからも変わらず、一貫して肉食派です。先祖から続く伝統的食性を頑なまでに守り通しています。
食べ物の良し悪しを判断する際、猫が最も重視するのは、酸味と苦味です。多くの場合、酸味は腐敗臭、苦味は毒性を表し、そういったものを誤って食べてしまうと、下手すれば命を失います。猫が柑橘系の匂いを嫌うのも、苦手な酸味を思い出してしまうからです。
みなさんが大好きなお鍋にたとえると、猫は、肉や魚は食べますが、春菊には絶対に手をつけようとしません。誰かが気を利かして、スダチを絞ろうものなら、ただちに激怒します。
まとめ
猫は、暗闇を平気で歩きます。高音域に強い聴覚を持ち、匂いに敏感です。飾り物のように見えるヒゲもまた、重要な触覚として活躍し、味覚に関しては、甘みを捨て、酸味と苦味をもとに食べるかどうか判断します。
今回の記事でもわかるように、猫の五感は、すべて単独のハンター、というライフスタイルによって培われたものです。食性も生き方も違う人間には絶対に真似できません。
おうちに暮らすようになったイエネコも、野生時代から続く鋭い五感を持ち合わせています。愛猫の姿や行動を通して、人間とは異なる感覚、世界が存在することに気づけば、その分、飼い主さんの世界も豊かになるかもしれません。
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