知られざる悲しみ「遠因死」6434人だけでない喪失 「父と一緒に死にたかった」母が“自死” かけた言葉に抱いた後悔 阪神・淡路大震災30年【news23】

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2025-01-18 14:47
知られざる悲しみ「遠因死」6434人だけでない喪失 「父と一緒に死にたかった」母が“自死” かけた言葉に抱いた後悔 阪神・淡路大震災30年【news23】

「6434人が犠牲となった」。阪神・淡路大震災を語る際に繰り返し語られる言葉ですが、人生を喪った人たちはこの数に留まりません。直接死や災害関連死とは認定されていない「遠因死」とされる人たちがいます。遺族の知られざる悲しみを取材しました。

【写真を見る】一つの区切りをつけたいとモニュメントに祖父の名前を刻む

阪神・淡路大震災から30年 知られざる遺族の悲しみ「遠因死」

12月、神戸市の「慰霊と復興のモニュメント」に新たに銘板を掲げた女性がいました。切り絵作家のとみさわかよのさん。銘板に刻まれているのは、祖父の多田英次さんの名前です。

神戸大学で教鞭を執っていた英次さんは長年、神戸市東灘区で暮らしていました。

とみさわかよのさん
「明治生まれなのに英文学を専攻するだけあって、“ハイカラ爺さん”でしたね。朝ごはんは紅茶とイギリス風のトースト、そんな人だったので、ひと昔前の“神戸らしい人”の典型みたいな人だったかもしれません」

心臓や大動脈に病気を抱えていた英次さん。阪神淡路大震災で自宅が損壊し、住み慣れた神戸を離れ、宝塚市の親族の家に身を寄せることを余儀なくされました。

とみさわかよのさん
「震災がなければ間違いなくずっと神戸で暮らして人生を終えた人。元気づけようと思って、昔よく行ったあのお店も移転したらしいよと、移転して頑張ってるみたいだから今度また場所確かめておくから一緒に行こうとか言っていたんです。結局果たせなかったんですけどね」

震災発生から1年後、英次さんは大動脈瘤が破裂し、この世を去ります。

とみさわさんは切り絵作家として、被災後の神戸の街を描き、震災と向き合ってきました。ただ、英次さんの死については、「神戸を離れたことによる体の負担や心労が死期を早めた」と思う一方で、複雑な感情を抱え続けてきました。

とみさわかよのさん
「家族にすれば『震災がなければもっと生きていてくれたはずだ』という思いがすごくある。でも、その日(1月17日)いきなり亡くなった方のことを思うと、私の家族も震災で亡くなったんだととても言いにくい」

しかし、震災30年を迎え、祖父の死に対する感情に一つの区切りをつけたいとモニュメントに名前を刻むことを決めました。

とみさわかよのさん
「本当に神戸が大好きな人だったから、もっと早く神戸に帰ってきたかったかもしれないなと思いながら“祖父の名前が残る神戸の街に残る”という実感が湧きました」

震災発生から5年後に生まれた「慰霊と復興のモニュメント」。

当初、銘板を掲げることができたのは、建物の倒壊などによる「直接死」や負傷の悪化などで死亡した「災害関連死」と公式に認められた犠牲者のみでした。
しかし、3年後からは震災の影響が少なからずあったと遺族などが考える、いわゆる「遠因死」の人々の銘板も掲げることができるようになりました。

両親に抱かれることないまま…生後45日でこの世を去った赤ちゃん

遠因死として名前を刻まれた1人、廣畑帆乃香ちゃん。生後わずか45日で亡くなった赤ちゃんです。数年に及ぶ不妊治療の末、震災発生の6日前に生を受けたものの、心臓に病気を抱えていました。

地震で人工呼吸器が一時的に停止し、病状が悪化。両親に抱かれることのないままこの世を去りました。

廣畑帆乃香ちゃんの両親
「生前、保育器の中に手を入れて指を差し出すと、小さな手で優しく握り返してくれました。緊急車両に乗せてもらい、なきがらを抱いて自宅に帰りました。まだ温かかったのを憶えています。天国に召された我が子が、短い間ではあってもこの世に存在していた証、生きていた証が欲しいと思いました。銘板の掲示がひとつの区切りになった気がします」

「父と一緒に死にたかった」 5か月後、母親が自死

「遠因死」とされるのは、病気の悪化などで亡くなった人だけではありません。

神戸市東灘区の山下准史さん(63)さん。

震災発生当日、両親が暮らしていた実家は2階部分が1階を押し潰す形で全壊。母の芙美子さんは何とか脱出したものの、父の金宏さんは帰らぬ人となりました。

山下准史さん
「2階が落ちてきて、(父・金宏さんが)『わしはあかん…』みたいな話をひと言ふた言したようで、それ以降、声が聞こえなくなったので、父はもうダメだったんだなとおそらく母はわかったと思うんですね。とにかくずっと泣きながら『お父さんが、お父さんが』と、なかばパニックの状態で言っていましたね」

教員だった山下さんは神戸に残り、芙美子さんは大阪の親族の家に身を寄せることになりましたが、夫を失った悲しみが癒えることはありませんでした。

山下准史さん
「とにかく“父と一緒に死にたかった”とずっと言っていましたので、『せっかく救われたんやから死にたいなんか言うたらあかん』とつい言っていた。“つらいよね”ぐらいね、もうちょっと声のかけ方があったのかなと思いますけどね」

震災発生から5か月が経った6月17日、芙美子さんは行方不明に。翌日、神戸で亡くなっているのが見つかりました。大阪の親族の家から神戸へ向かい、自ら命を絶ったとみられています。

山下さんはモニュメントに遠因死の人の銘板も掲げられるようになると、芙美子さんの名前も刻もうと決めました。

山下准史さん
「あの日がなければ、おそらく父も母も生きていたのは一緒でしょうし、“震災で亡くなった”というのは間違いないと思っています。“(父と)一緒にいたかった”、ずっとそういう思いがあったはずなので、あの空間に一緒に名前を貼らせていただくというのは母の思いに応えることにもなるのかなと」

モニュメントの運営を担う堀内正美さん。表に出ない喪失も公共の空間で共有することに意義があると考えています。

モニュメントの運営を担う 堀内正美さん
「パブリックの場で慰霊と復興のモニュメントで涙を流していれば、それを見つめてくれる方がいるし、誰かが心を寄せてくれる場になっている。“寄り添える場”としてあのような場があることはとても大事なんじゃないかなと」

あの日から30年を迎えた神戸・東遊園地。父親を震災で直接亡くし、その後、母親を「遠因死」で亡くした山下准史さんの姿もありました。「慰霊と復興のモニュメント」に掲げられた母親と父親。それぞれの名盤の前で手を合わせました。

山下准史さん
「(モニュメントに)名前が刻まれている方は直接死で亡くなった方、震災の影響で亡くなった方、いろいろいるけど、残された者としてその人を思う気持ちはみんな一緒だと思うので、(30年の)節目でこのあと人の足が遠ざかっていくのかもしれませんが、ここに、私を含めて来る人はすごく思いが詰まっているので、これからも大事な場所として残っていってほしい」

「『6434』という数字が震災の被害に線を引いている」

上村彩子キャスター:
「遠因死」という言葉を今日初めて知りましたが、遠因死としてモニュメントに名前を残している方は何人くらいいらっしゃるんでしょうか?

毎日放送報道センター 松本陸記者:
現在、このモニュメントには合計で5070人の方の銘板が掲げられているんですが、そのうち、「遠因死」で亡くなったとされる方の銘板は約300人にのぼります。

私自身、大阪のテレビ局の記者として阪神・淡路大震災の報道に関わる中で、毎年、死者6434人という数字を繰り返し報道してきたんですが、その無機質な数字が、この震災の被害に線を引いているというふうに感じてきました。

この大震災の爪痕の深さは「6434」という数字で語れるのか、その数字の外にいながらも人生を奪われた方々の悲しみや苦しみが見過ごされていないか。そういった疑問が、今回の取材を始めた原点です。

喜入友浩キャスター:
ただ「遠因死」という言葉はあまり耳にしないですよね。

松本記者:
現実的には、阪神・淡路大震災以外の災害で遠因死が語られることはあまりありません。例えば、その後の災害で自死された方が「関連死」として、認められるといった例も出てきてはいるんですが、遠因死の方を「関連死」の枠内に広く入れていくという状況にはなっていないと思います。

災害の死者を考えるときに、どこかで線を引くことは必要です。しかし、その線の中にいる人だけではなく、その外側や周辺にいる人々の悲しみや苦しみにも寄り添うことがメディアや社会には求められていると思います。

上村キャスター:
今回は震災30年という節目でしたが、どんなことを感じられましたか。

松本記者:
取材をしていても、年月の長さというのはかなり実感します。記憶の鮮明さや正確さという意味でも、かなり限界がきているという部分もありますし、生々しい記憶から歴史に変わっていくといった声も上がっているのは事実です。ただそれでも、震災で人生を奪われた方々の無念や、残された遺族の悲しみが完全に癒えることはないですし、繰り返しになりますが、そういった悲しみや苦しみに寄り添っていくことが我々には求められていると思います。

==========
<プロフィール>

松本陸さん
毎日放送報道センター記者
「阪神・淡路大震災」をめぐるテーマを継続取材

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