芸人のなだぎ武さんが文部科学省で行われた「全国いじめ問題子供サミット」で自らの体験談を語りました。小中学生150人に語ったこととは?その要旨をまとめました。
<今とは逆のタイプだった自分>
吉本興業でデビューして35年ぐらい経ちました。今こうやって芸人をやっていますけれども、そこまでに至る経路をね、少しお話しします。私、昔はね、本当にもう逆の性格というか、もう人前でこうやって喋るようなタイプでは全くなかったんですね。中学1年の頃にいじめに遭いまして、結構ひどかったんですよ。
そのときに誰に頼ることもできず、相談することもできず先生に話すこともできず、ずっと1人で我慢をしていたんですけど、そういういじめもありまして、大きく言うとそれがきっかけで高校にも行かなかったんですね。
それで何をしていたかと言うと、引きこもってたんですね。部屋から出てこない。親は部屋から急に出てこなくて大丈夫か?どうしたんや?とびっくりしてたと思うけれども、いじめがあって、もうね、学校に対してというか、また、例えば高校に進学してこういう目に遭うのはつらいなって、怖くなってきたんですね。自暴自棄というか。そこで進学したくないって親に相談したら、「わかった」と。でも何もしないわけにはいかないんで、どうするんや。働くしかないよなってなって、一応、就職はしたんですよ。
<就職に失敗しひきこもりに>
でも就職したけれども15歳ですわ。子供ですよね。一応就職したんですけど、もう周り大人ばっかりで、その中で15歳の子供がうまく立ち回れるわけない。やっていけるわけないね。面白くもない。おいしくもない。窮屈な時間があって、わずか3ヶ月で辞めてしまいました。で、ずっとそこから引きこもりの生活ですね。
何もしないひきこもり。自分の部屋だけの世界で、テレビを見て映画を見て、好きな漫画を読んで、好きな音楽を聞いて、もうなんてこんな素晴らしい時間が訪れたんだろうと、自分1人の時間を謳歌してたんですけど、その生活が1年2年ぐらい続いたときに、楽しかった、有意義だったはずの生活が、何か自分の中でこれでいいのかなって感じですね。こんな人と喋らない生活、誰とも話せない毎日。自分1人だけの時間をずっと自分だけ使ってていいのかなって。何かそういう疑問が出てきたんですよ。
<映画を見て一人旅へ>
そのときにある映画をね、見たんですね。その映画が私の一つの人生の分岐点になったんです。みんなは趣味があるかな?自分の好きなことに対しては自信を持ってください。それが自分のエネルギーになったり将来自分を後押ししてくれたり、武器になるかもわからないんで。誰に指さされようと、自分が好きなものに対しては自信を持って繋がっていってほしいとは思いますね。僕に関してはテレビや映画が好きだったんです。で、ある映画を観て、自分の人生の分岐点になったなって今思える過去があるんですね。それは「男はつらいよ」という映画でした。今でいうニート、当時はフーテンって言われてたんですよ。そういうフラフラしている人が一人旅をして、旅先でいろんな人と出会って、いろんな恋愛をして、実家の団子屋に帰ってきて、妹のさくらから小遣いもらって、また一人旅に行く。最低の大人なんですね。ですけど、なぜかね、この人の周りにはいつも人が集まるんですよ。うん。何かすごく人間味のそして人間力のある主人公なんですね。当時、私はもう人間力のかけらもなかったんで。コミュニケーション能力もなかったし、誰とも喋れないし、そんな自分がその主人公を見たもんやから。そのときの自分に全くないものを持ってる人になるためにどうしたらいいか。でも無理なんですよね。無理なんですけど、何かちょっとでも近づくためにできることって何だろうって考えた。こんな外にも出ない、人とも喋れない自分が見ず知らずの土地に行った。そんなとき、どうなるんやろっていう何かちょっとやってみたくなり、生まれて初めて人生で、17歳ですね、一人旅をやったんですよ。
<尾道での出会い>
一人旅に出たら、いろんなことがあったんですね。ざっくり言うと、広島に行ったんですね。大阪から広島に1人で広島に来て尾道っていうところに行きたかったんで。それで広島名物の牡蠣を食べた。それがあたってしまいました。近くの公園で倒れてたんです。脱水症状になって。そしたら1人の女性が声をかけてくれたんですね。その人が病院まで連れて行ってくれて、事情を説明したら、「わかった」とその人が言ってくれて。連れて行ってもらったところが旅館だったんですよ。つまりその女性が、旅館の女将さん。「今日もう何も考えなくていいから、ゆっくりしなさい」と。お腹にやさしいね、おかゆとかも出してもらって。その日はこのまま帰るのはちょっと本当に忍びないんだと、申し訳ないんだ思って、翌日、「何でもいい。雑用でもなんでもいいから、恩返しをして手伝わせてください」とお願いしたら、普通はね「そんな子どもが」と言うと思ったら、その申し出を「わかった。今日はしっかりと働いてもらおうかな」って。なんかね、その遠慮しない感じが、めちゃくちゃ嬉しかったんですよ。それまで自分は気を遣って、いじめられて、っていう生活をずっとしてきたので、何か遠慮せず、声をキャッチしてくれたというのが、めちゃくちゃ嬉しくて。人の優しさに応えるために今日はしっかりと働こうと。いろんな雑用をしてね。そしたら、女将さんが「もう1日よかったら泊まっていくか」と言ってくれて、宿の大将がね、まかない料理を作ってくれて、皆さんと食べたんです。
<初めての経験で号泣>
そしたらねなんかすごい人と楽しく笑いながらご飯を食べるという。それまで経験がなかったので。自分の家族とも。僕はもう自分の部屋で1人で食べるタイプだったんで、家族で団らんして楽しくご飯を食べたこともなくて、ましてや赤の他人となんか笑いながら食べるっていうのが経験がなかったもんで。なんかね、なんだろう。人とご飯食べるってこんなに美味しいんや、人と笑いながら食べるってこんなに温かいんだって。今までつらかったことを思い出してご飯を食べながら号泣してしまったんですね。そしたら大将が私に言ってくれたことが、すごくなんか自分が嬉しかった言葉だったんです。「そんなに涙が出るくらい俺の料理うまいか?」と。なんかねちょっと感動してしまったんです。同じ目線で常に喋ってくれている感じがなんか嬉しくて。親以外の人にそんな優しくしてもらったことって今までなかったんで。すごく一人旅をしてよかったなというのがあったんですね。また自分の中でいろいろ考えて、人と時間を過ごす。お話をするってことは本当に大切なんだなと改めて思ったんですよ。
<過去を乗り越えられた“人との出会い”>
つらい過去があったけれども、でもその経験があったからこそ、今自分の未来に繋がってるのかなと思える。嫌だった過去も精神面での成長につながるんですよね。完璧を求めすぎず、失敗や挫折を経験して、その経験を成長の一つとして楽しめる大人にみんなもなってほしいなってちょっと思う。コミュニケーション能力ゼロだった人間が、人との出会いによっていろんな経験によってコミュニケーション能力をつけられた。それでピン芸人の大会で優勝することができたんですね。とにかく勇気を持って第一歩を踏み出してほしい。直観でいいです。
<挫折や失敗も楽しめる人に>
まず挫折や失敗を自分の成長の一つとして楽しめる人になっていけば、何か心も豊かになっていくんじゃないなんか。人とのふれあいで人が大きくなる。やっぱりね、僕も人が嫌いで、どうしようもなかったんですけど、でも結局、人は人との繋がりで成長していくんだなって。そういう思いがあるので、皆さんも何か武器を持って、好きなことに自信を持ってどんどん行ってほしいと思いますね。簡単に答えを求めるのではなく、いろいろな人に質問する。それをどんどん楽しむようになれれば、感性も豊かになるのかなって思います。ありがとうございました。