いのちを想う③ ~マナーニの動物介在教育(後編)~

2025-01-31 13:15

「犬からの学びをいかして、友だちと仲良くなるヒントを見つけよう」 2024年10月末、大田区立中萩中小学校。体育館に響く3年生の児童たちの元気な声で、マナーニのふれあい学習の授業が始まりました。 この日、講師を務めたのは […]

「犬からの学びをいかして、友だちと仲良くなるヒントを見つけよう」

2024年10月末、大田区立中萩中小学校。体育館に響く3年生の児童たちの元気な声で、マナーニのふれあい学習の授業が始まりました。

この日、講師を務めたのは一般社団法人マナーニの理事で、プログラムの開発にも携わる須﨑 大先生(以下だい先生)。

授業は、犬と人間の大きさの比較や寿命の違い、犬にも人間と同じように感情があることなどを学ぶ「導入」。続いて、犬の体を観察し、実際に温もりを感じていのちを知る「ふれあい」。そして、学習を通して感じたことを発表する「まとめ」へと進みます。

仲良くなるヒントは、まず、お互いの違い正しく知ること

「犬たちは、みんなに会うためにたくさん勉強してきました。今日はどうしたら仲良くなれるか、犬たち一緒に学ぶことで考えていきましょう」

よく通るだい先生の声に惹き込まれるように、子どもたちの視線がだい先生に集中し、体育館の空気がひとつにまとまりました。

「導入」ではだい先生が、子どもたちに目を閉じるよう促し、「はい、目を開けて。こんにちは!」と、大きな手の模型教材を子どもたちの頭上にかざします。大きな手は人間、児童は犬という設定で、子どもたちに犬と人間の大きさの違いを実感させ、犬の気持ちを想像させるのです。

だい先生が児童に「どうだった?」と尋ねると、子どもたちは「こわい」や「びっくりした」と答えます。「君たちが犬だったらどうするかな?」と尋ねると、「吠える」や「咬む」といった答えが返ってきます。

「人間は、犬がかわいいから手でなでようとしただけなんだよね?」

「何か良い解決策はないかな?」

そう、この授業は、だい先生が子どもたちに一方的に教えるのではなく、常に問いかけから始まり、子どもたちが考えて自分たちの言葉で発表する「双方向」の授業になっています。「どう思う?」→「そうだよね」→「じゃあ、こうしてみよう」と、子どもたちが自発的に考え行動することを大事に進めていきます。

笑ったような表情の犬と、唸っている犬の写真を見せる場面では、児童に笑った顔と怒った顔を真似するように促します。

そして、その表情がとても似ていたことを元に、「犬にもみんなと同じような気持ちがあるんじゃないかな?」と、さりげなく犬にも感情があることを、児童に気づかせます。

また、犬時間と人間時間を表す、動く速度の違う2つの時計を使って、「犬の寿命は人間よりもずっと短いもので、犬たちの時計は君たちの時計よりも何倍も早く進んでいるんだよ。だから、この授業の時間は犬たちにとって、とても貴重な時間なんだね」ということを、数字での頭の理解ではなく、視覚的に実感できるよう、伝えていきます。

犬との「3つの約束」を守って、正しくご挨拶

この日は、トイ・プードルやゴールデン・レトリーバーなど、小型犬と大型犬合わせて6頭の介在犬が授業に参加。犬と人間の違いを学んだあとは、いよいよふれあい学習となるのですが、その前に、犬と初めて相対するときに守ってほしい「3つの約束」を唱和します。

<初めてあいさつする時の約束>

  1. 急にさわらない
  2. 急に走らない
  3. 大きな声を出さない

この「3つの約束」は大人にもぜひ知っておいてほしいもの。初対面の犬に対していきなり頭の上に手を出したり、急な動きをしたり、大きな声で犬に話しかけたりする大人は、意外と多いのです。私たち大人も相手の立場になって、犬の気持ちを考えてみるべきですね。

子どもたちは、先ほどの頭上の大きな手によって、犬の気持ちを経験しているので、相手を「こわがらせない」「びっくりさせない」ために「3つの約束」を守るということを、すんなりと受け入れられたようです。

不思議を発見して違いを知り、”いのち”を実感する

いよいよ犬とのふれあい。グループごとに1頭の介在犬と1人のハンドラーがふれあい学習にあたります。介在犬は充分にトレーニングを積んだ犬で、ハンドラー(主に飼い主)も、犬と一緒にトレーニングを積んでいるので、子どもたちも安心してふれあうことができます。

グループごとのふれあい学習では、犬の体を観察したり、おやつを使って犬の嗅覚の鋭さを学んだり、犬の体に触れて体温を感じたりして犬を知り、犬との「距離」を縮めていきます。

「肉球って、ポップコーンみたいな匂いがするんだよ!」「えええ~っ?!」

「犬の体温は37℃くらいなんだよ」「あったかーい!」

というような、本やネットでは体感することができない経験を交えながら、子どもたちの好奇心を刺激する話術には感心させられてしまいます。

そして、要所要所で「はーい、おへそをこちらに向けてください」とだい先生。「どうだった?」という問いかけから始まる児童とのやり取りで一つひとつをまとめていくテンポの良さに、学んだことがこちらの頭にもストンストンと収まっていくような気さえします。

犬を怖がっていた子もいつしか笑顔に

白い帽子を被った児童のグループは、事前のアンケートで「犬に対して恐怖心がある」と回答した子どもたち。ちょっと怖がりな子たちを担当するのはポメラニアンの「とらきち君」。くりっとした目と小さめの耳がかわいい7歳の男の子です。

はじめこそ、緊張気味で少し腰が引けたような感じの児童もいましたが、時間が経つほどにゆとりのある表情となり、最後は全員が笑顔でとらきち君に触れることができました。

とらきち君のかわいらしい表情や、家にいるかのような落ち着いた雰囲気が、子どもたちの「怖い」を解かしてしまったのでしょう。

あっぱれ、とらきち君!

犬から教わったことをこれからの生活に活かす

「ドクンドクンドクン」

「ドークン、ドークン」

これは、心音計拡声器から聞こえてくるリアルな心臓の鼓動。

前者の心音は男子児童のもの。みんなの前に出て緊張しているせいか、少し早めです。

後者は、ゴールデン・レトリーバーの「リロ君」の心音。ゆったりと落ち着いた音でした。

心臓の鼓動は生きている証。犬も人もお互いに「生きている」ということを実感することは、とても大切なことです。心音計拡声器から流れる心音を聞いた子どもたちの記憶には、きっと、“いのちの音”が刻まれていることでしょう。

犬たちとふれあったあとは、学んだことを確認して感じたことを発表する時間です。

「学んだことを今後の生活に活かせるかどうか、みんなで話し合ってみよう」と、だい先生。子どもたちはその言葉に素直に反応して、真剣な表情で話し合いを始めます。

「はーい、では、こちらにおへそを向けてください」

「犬たちから学んだことをどう活かしたいと思いましたか?」

だい先生の問いかけに子どもたちは「人は言葉が分かるから、もっとお話をして仲良くなりたい」や「お友だちが嫌がることをしないようにしたい」と答えていました。

他人と仲良くなるためには自分のことだけでなく、相手の気持ちも考えることがとても大切なことだということが、子どもたちにちゃんと伝わったんですね。

どうやら、犬たちから学んで、「友だちと仲良くなる」ヒントが見つかったようです。

まとめ

「こども笑顔ラインプロジェクト」は、犬とふれあった子どもたちの表情がポジティブな方向に変化したことがきっかけになっており、道徳の内容で小学校低学年を対象にしてスタートしました。

子どもたちに”いのち”の営みを「他人事」ではなく「自分事」としてとらえてもらうことが、このプロジェクトの目的となっています。

現在は小学生を対象としていますが、今後は、さまざまな年齢に合わせたプログラムを開発して、誰もが”いのち”の大切さを「自分事」としてとらえる社会を目指しています。

ペットフード協会は、これからもこのような活動に注目し、皆さんと一緒にペットと人が仲良く暮らせる社会づくりに貢献していきたいと考えています。

◎写真:ほりまさゆき(風の犬たち)

記事の監修
獣医師
徳本一義
  • 一般社団法人ペットフード協会 新資格検定制度実行委員会委員長
  • 一般社団法人ペット栄養学会 理事
  • 有限会社ハーモニー 代表取締役
  • 日本獣医生命科学大学、帝京科学大学、ヤマザキ動物看護専門職短期大学非常勤講師

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