スポーツ選手の“背景”どこまで知りたい?“片手だけで”高校野球に挑んだ 元高校球児のパラリンピック・やり投げ・山﨑晃裕選手と考える【news23】
甲子園夏の大会、準決勝で惜しくも敗れた県立岐阜商業。中でも注目を集めた選手の一人が、左手のハンデを乗り越え活躍した横山温大選手です。現在、パラリンピックやり投げで活躍する山崎晃裕選手もかつて、“片手だけで”高校野球に挑みました。スポーツそのものと、選手の境遇やバックグラウンドをどこまで結び付けて応援するのか、山崎選手と一緒に考えます。
快進撃!ハンデを乗り越え甲子園に
小川彩佳キャスター:
今大会で注目を集めた県立岐阜商業は準決勝敗退となりました。なかでも、左手の指がないというハンデを乗り越え出場した、横山温大選手の大活躍は素晴らしかったですね。
藤森祥平キャスター:
東京パラリンピック・パリパラリンピック男子やり投げで7位に入賞された、山﨑晃裕さんにお越しいただきました。
右手首から先がない山﨑さんも高校球児で、甲子園を目指していたということです。こうした横山選手の活躍ぶりは、胸に迫るものがあったのではないですか。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑晃裕 選手:
本当に自分事のように見てしまいました。片手であることが注目されていますが、本当にない“両手”を全部使ってプレーされていたので、感覚がすごく優れているんだなと感じました。
藤森キャスター:
どうやっているのか、教えてもらっていいですか。
私から打球が飛んできたとします。山﨑選手、打球を捕ります。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
ここから普通は右手で投げるんですけど、逆に持ち替える。グローブを持ち替えないといけない。ですから、1回緩ませないといけないですよね。
藤森キャスター:
「緩ませる」というのは、ボールを取りやすくするように?
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
1回ボールを掴んで、そこから手の形をパーにしないといけない。じゃないと、ボールが(手のひらに)転がってこないので、それをグローブ抜く瞬間にコントロールするという技術がすごく大事になってきます。
藤森キャスター:
繊細な動きを、しかも全速力で捕りに行きながらですからね。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
早回しに次のプレーを考えないといけないので、やっていることはもう全く別のスポーツをやっていると思います。
小川キャスター:
ボールを捕る位置というのも関係してきますよね。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
肘で持ち替えるわけなので、もちろん体の近くで捕らないといけない。そういったところで空間の意識も大事になってきます。
藤森キャスター:
そんな横山選手は「ハンデがあっても、みんなと同じようにできると示したい」と話をしています。
横山選手は右手欠損というハンデを抱えながら、メジャーリーガーとして活躍していたジム・アボット選手に希望を持ったと伝えられています。この選手は、生まれつき右手首から先がないですが、MLB通算87勝をあげています。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
僕もアボット選手に希望をもらいました。光があるからその方向に進めるのと一緒で、幼少期からずっと夢を持ち続け、きっかけになりました。
藤森キャスター:
ヤンキースのピッチャーとして、1993年にノーヒットノーランまで達成している選手ですが、このアボット選手が「障害者だとレッテルを貼られるのは嫌だった。ひとりの投手として認められたいと思っていた」と言っています。
この気持ちはわかりますか。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
もちろん僕も同じ気持ちでしたね。本当に「1人の選手として」っていうことだったので。高校野球をやるときも「1人の選手として特別扱いしないでください」と申し出て始めたので、全く同じですね。自分の障害のことは一切関係ない、「勝負の世界だ」と思ってトライしてました。
藤森キャスター:
伏せるまででもないですけど、ハンデがあることをあまりことさら自分から言わなかったってことですね。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
障害がある・ない、ハンデがある・ないというのは自分の問題なので、高校野球においては全く関係ないので、そこを乗り越えていくということが大事ですね。
周りの選手も、特に対戦相手はびっくりして「片手だ」って言われるんですけど、自分はそれも一つの特徴だと思っているので、それを研ぎ澄ませていくっていうことが大事だと思います。
小川キャスター:
「1人の選手として」という言葉がありましたけれども、スポーツを観戦する側はこうした選手の皆さんの境遇や、生い立ちなどのバックグラウンドをどうご覧になっているのか、街で聞いてみました。
選手の“背景”どこまで?「応援したくなるきっかけの一つ」「活躍を見たい」
女性(20代)
「選手がどれくらい頑張ってきたかは、みられないじゃないですか、普段。金メダルをとるために頑張った過程とかを知れて嬉しい」
男性(50代)
「サイドストーリーがあると、純粋に(競技を)楽しみたいと思っても、つい引っ張られちゃう。期待をかけられる方もかけられすぎると、萎縮したりして可哀想じゃないかなって」
女性(60代)
「私は絶対的にバック(背景)を教えてもらうことがありがたい。そういうのをみて、涙流しながら見る方が入り込めて楽しい」
男性(19歳)
「ストーリーより、この選手がこういう活躍をしたというのがみたい。選手がどういった動きをするとか、自分だったらこうするかなみたいなのを考えながらみれる」
男性(30代)
「応援したくなるきっかけの一つにもなる。本人がどう思うのか、そういう報道を見てどう思ってるのかに尽きるのかなと」
小川キャスター:
「ストーリーを伝えて欲しい」という方、「それに引っ張られ過ぎるのはどうなのか」という方、さまざまいらっしゃいましたけれども、どうご覧になりますか。
教育経済学者 中室牧子さん:
私がアメリカに住んでいたときに思ったのは、アメリカのスポーツは野球やアメフトなど、すごい量のデータが公開されていてデータ重視。一方、日本のスポーツは選手の背景や環境に注目が集まる傾向があります。
これは多分、スポーツだけではないのではないかと思います。例えば、裁判の情状酌量も日本を始めとする東アジアの国々は、背景や環境を重視するけれども、アメリカは本人の人格などが重視されるということなので、やはり文化的な環境の違いみたいなものも影響しているのかもしれませんね。
選手のため…何が最善?スポーツの魅力とは
藤森キャスター:
山﨑さんはパラリンピアンとして、こうした注目をされる中で障害について伝えられることは、どのように捉えていますか。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
僕はすごく喜ばしいことだと思います。スポーツにおいては結果が全てだという言葉もあるとは思うんですけれども、それよりも選手の背景、見えない部分を伝えることが、その人の魅力を引き出し、心を惹きつける条件になるかなとも思っています。
もちろん応援してくれる人も増えると思いますし、大事なことだと思っています。
藤森キャスター:
ただ、「障害には触れて欲しくない」という選手や、こういうバックグラウンドを扱って欲しくないという人たちもいっぱいいると思います。そういうところはしっかりと守りながら伝えていくのは当たり前ですよね。
教育経済学者 中室牧子さん:
心理学には、「ステレオタイプの脅威」という言葉があります。何かというと、例えば「女子は数学が苦手」、「勉強ができる人は運動ができない」みたいな感じで、ステレオタイプが知られると、それが自分の行動に影響してきてしまうという話があります。
選手についての報道があるときは、例えば「障害を持っている選手は何々だ」みたいなレッテルを貼るということに繋がらないようにすることは、とても大事じゃないかなと思います。
藤森キャスター:
最初から意識してレッテルを貼ろうとして伝えてはいないと思いますが、無意識のうちにそっちばかりに気がいってしまうことは、本当に気をつけなければいけない。
小川キャスター:
どんどんそのイメージが膨らんでいってしまうというところもありますし、ひとくくりにしないということでしょうね。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
やっぱり人それぞれだと思うので、そこに寄り添っていくことが大事かなと思います。
藤森キャスター:
選手の皆さんにとってのスポーツの伝え方の最善の形は、他にどんなことを考えていますか。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
やっぱり人それぞれだと思うので、素直に当事者の思いや考えていること、どんなことをしていったかというのを素直に正しく伝えていくことが大事かなとは思っています。
藤森キャスター:
試合に集中できなくなってしまうような伝え方というのは、もちろんもってのほかですし、逆に集中力や力に変える伝え方ができればいいなと思っています。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
個人的な意見としては、パフォーマンスや試合に関しては報道とは全く別物だと考えていて、選手は結果を出すことに全てをかけなくちゃいけないので、僕みたいにそこまで気にしていない選手もいると思います。
小川キャスター:
山﨑さんご自身は、報道の仕方によって左右されるということはないんですね。
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞 山﨑選手:
ただ気にしちゃう選手もいるとは思うので、そこは人それぞれですよね。
小川キャスター:
本当に個々の選手の皆さんにリスペクトを持って見ていく、そして伝えていくということが全てでしょうね。
スポーツ選手のストーリー(人柄や境遇)について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『スポーツ選手のストーリー(人柄や境遇)』について「みんなの声」を募集しました。
Q.スポーツ観戦で選手のストーリーは必要?
「より面白くなる」…52.2%
「純粋に競技として楽しみたい」…10.1%
「最小限でよい」…22.1%
「一切必要ない」…12.2%
「その他・わからない」…3.4%
※8月21日午後11時15分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは22日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
山﨑晃裕
東京・パリ パラリンピック 男子やり投げ入賞
生まれつき右手がない 高校時代は甲子園を目指す
中室牧子
教育経済学者 教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」