娘の遺体を「隠さなあかんと思った」 京都アニメーション放火殺人事件で犠牲・・・女性の母・兄が語った“崩れ去った日常”と悲痛な思い【前編】

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2025-11-01 08:04
娘の遺体を「隠さなあかんと思った」 京都アニメーション放火殺人事件で犠牲・・・女性の母・兄が語った“崩れ去った日常”と悲痛な思い【前編】

2019年7月、36人の尊い命が奪われた京都アニメーション放火殺人事件。

【写真を見る】女性の母・兄が語った“崩れ去った日常”と悲痛な思い

犠牲者の1人、渡辺美希子さん(当時35)の母・達子さん(75)と兄・渡辺勇さん(46)が、講演でその経験と想いを語った。

「『隠さなあかん』と思ったんですよ」

変わり果てた娘と対面した時のことを、母・達子さんはこう振り返る。娘の尊厳を守らなければいけないという、母親としての悲痛な思いだった。家族の日常が突然奪われたあの日から、残された家族は何に直面し、どのような現実を突きつけられたのかーー。
(「全国犯罪被害者支援フォーラム2025」より)

「おかあさん、エラいことになってる」

2019年7月18日。日常は一瞬にして崩れ去った。

渡辺達子さん
 「事件のあった日ですけれども、京都アニメーションの社屋が燃えてるというニュースがテレビの中で報道されていると。この人(勇さん)のお嫁さんですよね。『おかあさんエラいことになってる』って、それで知ったんです」

娘の美希子さんの携帯電話に何度かけても、繋がらない。居ても立ってもいられず、達子さんは家族のLINEグループに「京都に行きたい」と書き込んだ。

渡辺達子さん
 「お母さんはもう行きたいって。とりあえず様子を見に、京都に行きたいって(LINEに)流したら、上の娘から連絡がきて、『お母さんのことやから状況わからなくても、とりあえず行きたいって叫び出すやろうと思った。区切りのいいとこまで仕事を片付けて、もうちょっとしたら家帰ってあげるから。お母さん1人で行くのは危険やから待ってなさい』って。そう言われて、上の娘の一声で家で待ってたんですよね」

気が動転したまま、達子さんは美希子さんの姉と2人で京都へ向かった。

渡辺達子さん
「電車の中で京都のどこ行くんや、という話になって。現場は消防車もいっぱい来てるみたいやし、邪魔になるだけやろうし。会社行こうかという話になって、京アニの本社に行きました。電車の中で、どういう可能性があるかなって、いらん想像して思わず口から出て、娘に『お母さんいらんこと言わないの』って怒られてしまいました」

京都アニメーションの本社に着き、扉を叩く。

渡辺達子さん
「会社の前まで行ってトントンってして『みっこの母と姉ですわ』と言ったら、『待ってください』って。開けてくださった途端に中から聞こえてきたのが、嗚咽ですよね。はっきり泣いている。それも1人じゃなくて何人か泣いているのはわかったので、電車の中でいらんこと言った一番悪いケースなのかもしれないと思いました」

最悪の事態が頭をよぎる。しばらくして、社長が戻ってきた。

渡辺達子さん
「社長は現場におられたみたいで、だいぶ経ってから帰ってこられた。私と娘がいる部屋まで上がってこられて、無言で座られて。娘は気丈にも聞いたんですよね。『病院に行ってる人の名前は全部わかってますか?』って。で、『わかってる』とおっしゃった。『みっこはその中に名前ありますか』って聞いたら、『いない』という動作をなさっただけでした」

病院に運ばれていない。そのことが厳しい現実を物語っていた。

「僕も飛んで行きたかった」 動けなかった兄の葛藤

美希子さんの兄・勇さんは事件を家族からの連絡で知った。

渡辺勇さん
「あのときなんですけど仕事中でして、事件を知ったのはグループLINEですね。家族のグループLINEで知ることになります。最初はちょっとボヤぐらいかなって思ったんですけど、そうではないということをだんだん知ることになって。母が現地に行くっていう話になったときに、僕も飛んで行きたかったんですけれども」

渡辺勇さん
 「当時1歳の子どもがいるような状態で、妻も身重な状態やったんですね。自宅で待って、情報を待って、何かあったときに動けるような形だったんですけど・・・。結構これもしんどくてですね。やることって情報を集めることばかりになってくるんですね。で、情報を集めるとどういうことになるかというと、いい情報はほぼ流れてこない。嫌な情報ばっかり流れてきて、不安と、何かいろんなものに苛されるとかそういう感じですね」

渡辺勇さん
「最終的に最も望まない結果の連絡をもらうような形になります。これを聞いたときに自分が感じたことのない感情に襲われました」

「隠さなあかん」 美希子さんとの対面

母・達子さんたちは、事件の翌日、DNA型鑑定のために警察学校へ向かった。そこで目にしたのは、報道陣の姿だった。

渡辺達子さん
「警察学校に行ったら、もうマスコミの方が脚立組んで。何でここにいるん?って。ここも記事にする必要あるん?とか。ものすごいクエスチョンマークは飛びましたよね」

DNA型の採取が終わり、達子さんはすぐにでも美希子さんに伝えたい言葉があった。しかし、どこに安置されているかさえ、わからなかったという。

渡辺達子さん
「『私いま鑑定してもらうようにDNA採ったから、もうちょっと待っとり。もうちょっと待ってたら迎えに来るからね』ってあの子に言ってやりたかった」

鑑定結果は約1週間後に出た。達子さんたち家族は、ようやく美希子さんと対面した。

渡辺達子さん
「あの子に出会ったとき、夫は『骨格が美希子や』って言ったんですよね。この人(兄の勇さん)は『むごい』と。私は『隠さなあかん』と思ったんですよ。かわいかったあの子を親戚の人とか友達に、この姿を見せるわけにはいかんと思った途端、隠さなあかんと思ったんですよね。これが最初に美希子に会ったときでしたね」

心と体に刻まれた傷、今も続く影響

日常を奪われた影響は、心と体、そして家族関係にも暗い影を落とした。

達子さんは、事件直後からメニエール病を再発。6年が経った今も、耳鳴りが止むことはない。

渡辺達子さん
「ご存知の方も多いと思いますけど、耳鳴りは厄介ですね。耳鳴りだけはあれから1回も鳴り止んだことがないですよね」

達子さんと夫の間には、時折、摩擦が生じるようになった。

渡辺達子さん
「夫も、私も、どっちが悪いとかじゃなくて、きつめに言ったら、もう喧嘩になりそうみたいな雰囲気になることが何回かありましたね。人様から聞いたことあったんですけど、『これがそれか』っていうふうに思いましたよね」

兄の勇さんは当初、カウンセリングを断っていた。

渡辺勇さん
「理由は自分が崩れていくのが怖かったというか認めたくなかったんですね。みんなしんどい状態になってるので、僕はちょっと凛としてみようと思っていたという感じですね」

だが、勇さんの体は悲鳴をあげていた。37度5分以上の熱が続く。

渡辺勇さん
「コロナが来たときの流れもあって、人と出会うこともできなくなって。子どもが1歳、身重の妻がいる、70代の両親は隣にいるみたいな、そんな状況でまた心が潰されそうになりました」

渡辺勇さん
「いろいろわらをもすがる思いで心療内科に行ったりとか、カウンセラーさんもお願いして。精神的なショックがあると、体温が上がることがあるっていうことを教えていただきました。それを聞いた瞬間、熱下がったんですね。心が体に与える影響というものが、多大なものなんだなということを、そのときに感じました」

過酷な現実に直面した家族。渡辺さん一家は、「家族思い」だった美希子さんが突然命を奪われた、その理不尽さとどう向き合ったのか。そして、裁判で聞いた加害者の言葉とは——。【後編】では、家族の葛藤と、社会への「願い」を詳報する。

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