番記者が見た2025年の大谷翔平「進化した二刀流」【調査情報デジタル】

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2025-12-13 08:00
番記者が見た2025年の大谷翔平「進化した二刀流」【調査情報デジタル】

今や「地球上最高の選手」などと称されるメジャーリーガー・大谷翔平。今年もワールドシリーズ連覇、4度目の満票によるMVP受賞という実績をあげ、日米のファンを魅了した。投手として復帰しつつ打者として自己最多の本塁打を記録。2年ぶりの二刀流には投打それぞれに進化が見られた。スポーツニッポン新聞社のMLB担当で大谷番記者の柳原直之氏による特別寄稿をお届けする(冒頭の写真はナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦で先頭打者本塁打を放つ大谷)。

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2025年シーズンの大谷は主に1番に座り、地区4連覇、ワールドシリーズ連覇へドジャースをけん引した。昨季を1本上回る自己最多&球団記録の55本塁打を放ち、打率・282、102打点、20盗塁で、自己最多146得点を挙げた。

投手としても6月に2年ぶりに復帰し、14試合に登板し1勝1敗、防御率2・87。47イニングで62三振を奪った。結果だけ見れば順風満帆。ただ、これらは変化を恐れず取り組んできた準備と練習の成果にほかならない。今季の変化を投打に分けて解説する。

2つの新「相棒」で戦った2025「打者・大谷」

今季開幕直後の「打者・大谷」は昨季よりも1インチ(約2・54センチ)長い、35インチ(約88・9センチ)のバットを使い始め、途中からは34・5インチ(約87・6センチ)をメインで使い続けた。重さはともに32オンス(約907グラム)で昨季より0・5オンス(約14・2グラム)重く、打球速度と飛距離が増す要素を含んでいた。

23年から使用する米国メーカーのチャンドラー社製バット。身長1メートル93の大谷のように大柄な選手なら、広いストライクゾーンをカバーできる利点がある。同じく同社製の35インチを使用するのは、身長2メートル1でア・リーグMVPのヤンキースの主砲ジャッジら数人しかいない。

外野手コンフォートは「2人とも大柄。(使いこなすには)力強さとスイングスピードを兼ね備えた打者である必要がある」と分析。主軸のT・ヘルナンデスが「長すぎるんじゃないか」と笑うなど、メジャーリーガーにとっても規格外のサイズだった。

長尺バットは、操作が難しい一方、遠心力でヘッドが走り、より鋭い打球を飛ばすことが可能になるメリットがある。9月2日のパイレーツ戦で新人右腕チャンドラーから放った46号本塁打は、自己最速の打球速度120マイル(約193・1キロ)。今季メジャー全体でも3番目の痛烈な当たりだった。

大谷は開幕直後にこの長尺バットを使う理由を問われると、詳細は伏せ「もっともっと良いバッティングを求める中で、こっちの方がいいんじゃないかと思ったら変えますし、短い方がいいんじゃないかと思ったらそれに対応していければいいんじゃないかと思います」と話すにとどめた。

シーズン終盤には今季は試合用バットだけでなく、練習用バットも変化を加えていたことも判明した。

ブルワーズとのナ・リーグ優勝決定シリーズ第3戦の前日練習。大谷は今季初の屋外フリー打撃を敢行し、黒バットの先端半面が銀色に塗装された練習用の特製バットを、公の場で初めて披露した。昨オフの左肩手術後、左腕が後ろに引っ張られる動きを避けるために今季から使い始め、アーロン・ベイツ打撃コーチは「スイング軌道を正しく保つことが目的。銀色の部分でボールを捉える意識を持ってスイングしている」と説明した。

この練習用特製バットは34・5インチ、32オンスで試合用と同じながら、視覚的にスイング軌道を確認できる効果があるそうで、「バットを外から内に出すのではなく、ゾーンの中を真っすぐ通す感覚を身につけるためのもの」と同コーチ。「打者・大谷」は新たな2つの「相棒」で戦い抜いたシーズンだった。

コンディション面では、シーズン161試合目のマリナーズ戦を欠場したことが、ポストシーズンでのフル出場に大きく寄与した。

3年連続本塁打王へ、ナ・リーグトップのフィリーズ・シュワバーに2本差に迫る中で欠場したことについて、大谷はその後の会見で「チーム全体のボリュームとして、また自分のボリュームとして最後に休みを挟んだ方がいいのではないかな、と。ポストシーズンに向けてっていう判断ではあると思う。特に後悔はない」と理由を説明した。

初めて本塁打王争いを繰り広げたエンゼルス時代の21年のシーズン終盤は「もちろん(本塁打王を)獲りたい。個人的には意識しながらやりたいなと思っている」と語っていただけに、環境、立場、心境などここ数年で目まぐるしく変わった変化を感じることができた。

尚、盗塁は昨季の自己最多59から今季は20に大幅に減らした。大谷は盗塁の減少について、6月中旬に「いや、どうですかね。打ったのがほとんどホームランになっているので。逆にフォアボールを取ったりとか、前にランナーがいるというシチュエーションだったりとか、そこまでいく必要がない場面で一塁にいることが結構多い。必然的に減っている印象ですね」と語っていたが、周囲の印象は違う。ロバーツ監督は「体に負担をかけないように、自分で調整している。昨年なら走っていただろうが、今は違う」と分析している。

異例!実戦での“リハビリ登板”で復帰した2025「投手・大谷」

急転直下の投手復帰だった。6月15日の試合後にドジャースの公式SNSが、16日の大谷先発を発表。当初は7月15日の球宴後に復帰する方向だったが、負傷離脱が続く投手陣の苦しい台所事情に加え、大谷本人の強い意向も加わり、直前に復帰登板が電撃的に決まった。

「1週間に1回投げつつ、イニングを伸ばしていけたらブルペンの負担が少し減る。チーム状況も加味して。僕にとってもそっちの方がスムーズにいけるという判断だった。ライブBP(実戦形式の打撃練習)で4、5回を投げられるようになってから試合に入るパターンと、今日みたいに短いイニングを試合のレベルで投げるという2通りのパターンがあり、後者を取った感じでしたね」

打者出場も続ける二刀流にとって規則上、負傷者リスト(IL)入りが必要なマイナー戦でのリハビリ登板は困難。ここまで3度のライブBP登板も試合開始4~5時間前の実施で、ロバーツ監督は「本人にとってはダブルヘッダーくらいの感覚だったようだ」と、大谷の負担をより軽減することも突然の復帰の一因とした。

大谷は23年9月に2度目の右肘手術を受け、公式戦登板は23年8月23日以来、663日ぶりとなったこの6月16日のパドレス戦で1回を28球で2安打1失点だった。

直球は最速100・2マイル(約161・2キロ)と以前と変わらぬ力強さを披露。降板後はDHとしてプレーを続け、2本の適時打で自身の黒星を消し、逆転での3連勝に貢献した。これこそ二刀流の本領発揮だった。

大谷はキャンプイン時点で投手復帰の時期について「どのタイミングで投手復帰するかは(ポストシーズンの)10月までの計画をベースに考えたい」と語った通り、ポストシーズンでは投手として制限なく登板することができた。

ポストシーズンでは4試合、20回1/3で2勝1敗、防御率4・43。投手として初めて挑んだワールドシリーズでは第4戦で93球、6回0/3を投げ、中3日で第7戦の先発を務めるまでに状態が戻った。何より急転直下の投手復帰から当初の計画通りに戻したのはさすがだった。

メジャー移籍後最速の投球も~進化した「投手・大谷」~

大谷は同じ6月16日に「そこまでメカニクス(投球フォーム)に関しては気にしてない」と話していたが、復帰後は目に見えて投球フォームが変わった。テークバックの際に右肩を落とし、左肩が上がるような形から始動。以前は本塁方向に突き出していた左腕の動きが、コンパクトに。グラブを左胸の前でキープしてから、左脇に巻き込むような動きになった。

大谷のアームアングル(リリース時の右腕の角度)は20年の45度から年々下がり、今季は35度。直球の平均球速は23年の96・4マイル(155・1キロ)から25年は98・1マイル(約157・8キロ)にアップ。

投手復帰3度目の先発となった6月28日のロイヤルズ戦では、公式戦ではメジャー移籍後最速となる101・7マイル(約163・6キロ)をマークした。球速だけをみても、ただ復帰するだけでなく、パワーピッチャーであることのこだわりを捨てず、進化して帰ってきた。

そのほか、今季は左足を引いてから投げるノーワインドアップを採用。キャンプ初日の12日に「優先するのは自分の投げやすさだったり、動きやすさ」と説明した。

反動を使うことで、これまでのセットポジションよりも上半身の負担が減ることにもつながる目的があるようで、マーク・プライアー投手コーチも「少しエネルギーを生み出し、腕にあまり負担をかけないようにしている」と語った。動作に一呼吸入ることで、ピッチクロック対応での負担も減らすことを可能にした。

また、ウォームアップ、ルーティンにも変化を加えた。エンゼルス時代の21年からキャッチボール前のルーティンにトレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」考案のプライオボール(重さの違う6種類のボール)を使った「壁当て」を取り入れてきたが、今季は開幕直後から軽いゴムのような素材の白い特殊ボールで「壁当て」を行っていた。球団関係者によれば、肩肘への負担軽減を考慮したもので、2度の右肘手術を担当したニール・エラトロッシュ医師も推奨しているそうで、再発防止に余念はなかった。

大谷自身が24年オフのインタビューで右肘の手術について「現実的に見れば、やはり2回目くらいまでが投手としては理想なのかなと思う」と語ったように、3回目の手術は現実的ではなく、これが投手としては最後の挑戦になる可能性が十分ある。

今夏のオールスター戦前日会見では、「二刀流をずっと続けますか?」という米メディアからの質問に「プレーヤーとしてももちろんそうですし、どちらか1つやっていたとしてもどこまでできるかっていうのは分かることではない。もちろん長く続けたいなと思っています」と答えていた。

「Don’t take it for granted」(当たり前だと思わないでほしい)。20~22年途中までエ軍で指揮を執ったジョー・マドン元監督が大谷の二刀流について、口酸っぱく話していた言葉だ。

大谷は来年7月に32歳を迎える。番記者としては、マウンドで躍動する「投手・大谷」を「当たり前」だと思わず、一挙手一投足を追い続けていきたい。

2026年は投手本格復帰でサイ・ヤング賞にも挑戦へ

大谷にとってサイ・ヤング賞など個人タイトルが狙えるほどの本格的な投手復帰、そして勝負の年は2026年になる。ワールドシリーズ第3戦の延長11回の走塁時に右脚のけいれんを発症しながら出場を続け、さらに翌日の第4戦に先発登板。下半身をかばって投げて肩肘に負担がかからないか、気が気ではなかった。

一方、第3戦の前日会見では規定投球回に唯一達した2022年でさえ「どこか思い通りにいかないなという違和感がありながら投げたりしている時期もあった」とも語り、現状には「今はそういうことはなく、本当に自分のやりたいように体がついてきている」と語るなど、投手・大谷の天井はまだ見えないから末恐ろしい。

イチロー氏は19年3月の現役引退会見で大谷について「投手として20勝するシーズンがあって、その翌年に50本打ってMVPを獲ったら化け物ですよ。サイ・ヤング賞の翌年には本塁打王。そんな可能性ある選手、この先に出てきますか?」などと話していた。その「化け物」は昨季54本塁打、今季は自己最多55本塁打で3年連続4度目のリーグMVPを全て満票受賞した。

開幕から万全の二刀流で迎える来季はチームとして3連覇、個人としては山本と争うことが期待されるサイ・ヤング賞とMVPの同時受賞が現実的な目標となる。「来年はもちろん頭からいくつもり。先発投手としてしっかり一年回るのが目標」。5年間でMVPを4度受賞し、22年も次点。バリー・ボンズに並ぶ歴代最多7度受賞まであと3度、その先の4度も決して夢ではないだろう。

WBC2連覇、ワールドシリーズ3連覇へ

MVP受賞から約2週間後の11月24日には来年3月の第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に出場する意思を自身のインスタグラムで表明。日本ハム時代の17年の大会直前に右足首痛で参加を断念したことを振り返り、「前回初めて出場したけど、それまでいろいろなタイミングで出場できなくて。(出場)したいなって気持ちと裏腹にできてはいなかった」と語った。

前回大会は投打で日本代表をけん引し、決勝・米国戦で抑えも務めるなど優勝に貢献しMVPに輝いた。

06、09年以来、2度目の連覇へ「前回以上に来年のWBCも素晴らしくなるのではないか。選ばれること自体光栄なことなので楽しみにしたい」と笑みを浮かべた。

注目の二刀流出場の可能性については「投げたパターンと投げないパターンで、何通りかプランは持っておくべきだと思う」と自身の考えを説明した。

今季は打者出場を続けながら、マイナー登板なしでメジャーで投手復帰する異例のリハビリプログラムをやり遂げた。来季の照準は二刀流を一年間完遂すること。大谷の言う〝投げないパターン〟は、大会中はDHに専念し、練習で「ライブBP(実戦形式の打撃練習)」登板などを複数回こなしてメジャー開幕に臨むプランとみられる。

〝投げたパターン〟では何かしら制限がかかる可能性はあるが、WBCで二刀流プレーし、投打で世界一を目指す。いずれにせよ2年連続で異例の試みとなるが、「ドジャースと話しながら開幕に向けてどう入っていけばいいか、そのプランに沿って選んでいけばいい」と力を込めた。

WBC2連覇、そしてワールドシリーズ3連覇なるか。大谷はいつだって想像を超えてくる。26年シーズンも信じられないような結末が待っている気がしてならない。

〈執筆者略歴〉
柳原 直之(やなぎはら・なおゆき)
1985年9月11日生まれ、兵庫県西宮市出身。
関西学院高等部を経て、関西学院大学では準硬式野球部に所属。
2008年、三菱東京UFJ銀行入行。
2012年、スポーツニッポン新聞入社。遊軍、日本ハム担当を経て2018年からMLB担当。大谷翔平を取材して来季で13年目を迎える。
著書に『大谷翔平を追いかけて 番記者10年魂のノート』(ワニブックス)、『大谷翔平への17の質問—取材現場で記者はどんな葛藤と戦いながら質問をするのか—』(アルソス)がある。

【調査情報デジタル】
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