通信の“生命線”を守れ!海底ケーブル最前線 日本メディア初・台湾警備隊に密着 日の丸企業が挑む「究極のクレーンゲーム」【ニッポン経済の現在地③】【news23】
3夜連続でお伝えしている「ニッポン経済の現在地」。日中の緊張が高まる中、注目が集まる台湾ですが…台湾沖では今年、人々の通信を支える海底ケーブルが切断される事件がありました。実は海底ケーブルの分野で鍵を握っているのは日本の企業なんです。「経済安保」にもつながる“ニッポンの技術力”に迫ります。
【写真で見る】太平洋を横断する海底ケーブルが敷かれている様子
日本メディア初 台湾警備隊に密着
台湾南部にある港。
2025年12月、私たちは台湾の沿岸警備隊のパトロールに、日本メディアとして初めて同行が許可されました。
記者
「出港に向けた準備が行われています」
はるか前方に見えるのは、台湾海峡です。
ここは緊張する中国と台湾のまさに最前線。パトロールを強化するその理由は、海の中にあるケーブル。人々の通信を担う「海底ケーブル」を守るためです。
台湾海巡署 阮仲慶 船長
「インフラ施設がある海域のパトロールを以前よりも強化しています」
すると、目の前に現れたのは…
記者
「こちらの船が2025年2月、海底ケーブルを切断したとして拿捕された船です。外壁は完全に錆びついていて、かなり古い船です」
この船が2025年、台湾に大きな衝撃をもたらしたのです。
暗闇のなかで照らされる船体。「不審船がいる」と通報を受け、駆けつけた沿岸警備隊。
船名を掛け替えられるような枠も?
台湾海巡署隊員
「これから不審船に乗船し検査をします」
乗組員は全員、中国人。呼びかけても立ち入り検査に応じません。
並走すること、6時間。夜が明けて、ようやく隊員が乗り込みました。
台湾テレビ局 アナウンサー
「台湾と澎湖諸島を結ぶ、海底ケーブルが切られました」
逮捕された中国人船長は「海底ケーブルを切断するために、禁止海域で錨を下ろした」として、懲役3年の判決を受けました。
船をよく見ると、前方には「HONG TAI」とありますが、後方には…
記者
「これ『SHAN MEI』と書いてるけど、これでいいのかな」
カモフラージュのためでしょうか。よく見ると、船名を掛け替えられるような枠があるように見えます。
台湾周辺の海底ケーブルは、この3年間で20本も破損。中国人船長は中国政府の関与を否定しています。しかし、台湾の沿岸警備隊・ナンバー2は…
台湾海巡署 謝慶欽 副署長
「(中国の)政治的な意図がある可能性は排除できません。戦争など緊張が高まったとき、(中国は)ケーブルを切断する可能性があります。海底ケーブルは、台湾の“生命線”だからです」
日本が「カギ」握る 海底ケーブルの世界
私たちが普段、何気なく使うGoogle検索、InstagramにYouTube。私たちのスマホを世界とつなげているのは、海底ケーブルです。
約40年前、わずかだった国際通信はインターネットの登場で利用が急増。
世界各国を結ぶケーブルは、距離にすると地球37周分。実に、国際通信の99%は海底ケーブルが担っています。
いわば、現代の“糸電話”。さらに、近年ではAIの登場で、爆発的に需要が増えているのです。
その世界で、カギを握るのが日本。NECは国内で唯一海底ケーブルの製造を担い、フランス・アメリカの企業に次ぐ、世界第3位のシェアを誇っています。
NECグループ・OCC 川上浩 社長
「これ重いんですよ。『ダブルアーマー』といって」
ケーブルの中には、通信の要である光ファイバーが。一本は髪の毛の細さほどです。束にまとめることで、海底ケーブル1本の通信量はギガの100万倍の「ペタ」単位。衛星160機と同じ通信量をまかないます。
そして、この光ファイバーを保護するため、鉄線を何重にも巻きつけるのですが、驚くのがその「長さ」。
NECグループ・OCC 川上浩 社長
「(このタンク)1つに巻く量は90kmと思ってください」
しかも、ケーブルはねじれるため、巻いていく作業は全て人力。
NECグループ・OCC 川上浩 社長
「中継機を接続して接続して、結局1万Km、そういう距離になる」
大海で挑む“究極のクレーンゲーム”
日本とアメリカを結ぶ海底ケーブルは、約1万2000km。ケーブル100kmごとに中継機を接続することで、太平洋を横断しているのです。
とてつもなく長いケーブルは一体、どのように敷かれるのか。
日本にたった5隻の専用船。海底ケーブルの保管場所です。ここでもまた、ねじれを防ぐため、人力で巻きなおします。
NTTワールドエンジニアリングマリン 桜井淳 船長
「(ケーブルを船に積み込むだけで)1か月半くらいかかりますね。例えば2000km、誰かがそこを歩いているわけですから、太平洋の真ん中まで誰かが歩いているのと同じことですから」
出港すると、船からケーブルを海の中に落としていきます。浅瀬の岩場では、人が海に潜って作業。前もって設置された保護パイプに、ケーブルを慎重に入れていきます。
この先、太平洋の彼方まで続いていくのです。
さらに大変なのは、ケーブルが深い海で切れたとき。一体、どのように直すのでしょうか。
NTTワールドエンジニアリングマリン 桜井淳 船長
「(Q.これを深海に沈める?)これを富士山の2倍くらいのところから海底におろして、ホースくらいのケーブルを引っ掛けて、これで巻き上げて」
例えば、太平洋の真ん中、水深8000mの場所でケーブルが切れた場合。
まず、GPSで海底ケーブルの位置を特定し、その真上から6時間かけて海底に錨を落とします。ロープの先に取り付けた錨で、海底ケーブルを引っ掛け、さらに半日かけて引き上げる。
まさに、“世界一難しいクレーンゲーム”です。
中でも最も大変なのは、せっかく引っ掛けたケーブルが途中で外れてしまった場合。
NTTワールドエンジニアリングマリン 桜井淳 船長
「(Q.失敗したらどうする?)やり直しです。24時間を無駄にしてしまう」
世界最先端の通信を支える作業は、思いのほかアナログなのです。
NTTワールドエンジニアリングマリン 桜井淳 船長
「人力で巻かなければいけないですし、DX、DXといいながら、“デラックス”とはなんだという世界です」
ケーブル破損の半分以上は漁業や船の錨など、人の活動がその理由。ただ意図的に切断しようとした場合、防ぐのは困難だといいます。
“生命線”海底ケーブル どう生かす
高市早苗 総理大臣
「海底ケーブルなどのデジタルインフラについて、一気通貫での支援により、国際競争力を強化してまいります」
高市内閣は、経済安全保障の重要分野に指定。海底ケーブルの拠点として、日本が重要な場所に位置していると専門家は指摘します。
慶応義塾大学 土屋大洋 教授
「アメリカ西海岸から繋がっているケーブルは、直接、日本の千葉県や茨城県に繋がります。さらにそこから台湾、香港、東南アジアの方に海底ケーブルが繋がっていき、日本はアジアの“ゲートウェイ・玄関口”になってるわけですね」
“玄関口”にはさらに課題が。
海底ケーブルで世界のトップを走るフランス・アメリカ、そして急激にシェアを伸ばす中国の企業は、少なからず政府の支援を受けているといいます。
現在、日本だけが製造から修理まで、民間に任せきりなのです。
慶応義塾大学 土屋大洋 教授
「海底ケーブルというのは、不可欠な重要インフラなわけですね。これがなくなってしまうことによって、私達の生活に大きな影響が出てしまう。日本政府がこれは市場の問題だと言って放置しておくと、必ずしも競争に勝てないかもしれない」
海底ケーブルは日本の「経済安全保障」
小川彩佳キャスター:
取材した記者によりますと、世界の海底に国際通信のケーブルは約570本埋まっているということです。
トラウデン直美さん:
数で見ると、そんなに多くないなと思います。全て人力で巻いて引っ掛けているという作業に驚きました。
藤森祥平キャスター:
世界を繋ぐ生命線である海底ケーブルの世界シェアですが、日本は現在3番目につけています。ただ、フランスやアメリカは国が関与する市場です。
【海底ケーブルの市場シェア】
フランス・ASN 40%
アメリカ・サブコム 31%
日本・NEC 21%
中国・HMN 8%
小川彩佳キャスター:
そうした中で、日本政府もようやく支援策に動き出したということです。日本は島国でもありますし、経済安保の観点からも、日本が自前で技術を保持する重要性というのが高まっています。
トラウデン直美さん:
今までは、海底ケーブルを切断する人なんていないという性善説にも似た前提のもと、どこにケーブルが引かれているか公開されていたと伺いましたが、世界的にそのままでいいのかというのを話し合うべきなのかなと思いました。
やはり現代、通信がないと様々な事柄が破綻してしまうと思うので、ライフラインとして、安全保障という観点で、しっかりとケアされるべきものだと改めて感じます。
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<プロフィール>
トラウデン直美さん
Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満」受賞
趣味は乗馬・園芸・旅行