出撃当日に届いた終戦・・・死を覚悟した16歳の特攻兵は「頭が真っ白に」 最後の語り部が語る戦争のむなしさと思い「平和ボケでいい」

シリーズ「戦後80年を超えて‥パイロット「生きる」ことの尊さ」【第3話】
特攻。
第二次大戦下、航空機や小型艇に若き命を乗せ、敵軍に体当たりをする特別攻撃だ。
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特攻は若き兵士たちの「志願」によって敢行された。6000人以上が国のためだと命を捧げ、散っていった。
特攻に志願した兵士の中には、成人に満たない少年たちまでもがいた。
その体験を語り継ぐ人は少なく、今なお証言ができる貴重な当事者の声に耳を傾けた。
突如訪れた出撃の機会「お前を伍長にする」 迎えた8月15日
1945年8月13日、明け方。起床時刻にはなっていないはずだったが、上野熊辰さん(97)さんは整備兵に突然、起こされた。
この時、福岡県の陸軍大刀洗飛行場にいた。隊員は、部隊ごとに飛行場そばの集落にある農家に分宿していた。
「別の隊に特攻の出撃命令が出たが、パイロットが足らんから、上野を呼んでこいと言われた」
上野さんは、言われるままに、別の部隊に合流し待機をした。作戦命令を受けた。
出撃直前になって、上官から伝えられたことがある。昇進していた兵長から、さらに伍長に昇格すると。
「兵長は兵隊だから、そのままでは出せない、お前を伍長にする」
しかし、さらに待機命令が出た。8月15日になった。15日は、出撃予定だった。しかし、また待機命令が出る。すると・・・
「頭が真っ白になった」終戦で行方を失った“死への覚悟”
正午。特攻隊員12名が戦隊本部に集合させられた。外には特攻機が並んでいた。だが、そこで行われたのは「詔勅」を聞くことだった。
終戦の詔勅。玉音放送と言われる、ラジオによる国民への、天皇陛下による終戦宣言だ。
上野さんは放送を聞いた印象を「最初は、励まされたのか、終わったのか、分からなかった」と振り返る。しばらくして、隊長が告げた。
戦争は、終わったんだ。
上野さんに、「その瞬間、どう感じましたか」と尋ねる。
「頭が真っ白になりました。今日は死ぬつもりでしたから」
行き場のない感情を抱え、竹を切り、暴れ回る仲間もいた。飛行場の機体は燃料を抜かれ、滑走路には障害物が置かれた。独断での行動を阻止するためだ。私物は書類ごと、すべて焼却されていた。
今も消えない、亡くなった仲間の顔 戦友は「家族と同じ」
「軍服と、飛行服だけで帰りました」
8月18日、復員。上野さんは、叔父の家へと戻った。
97歳の上野さんに聞く。
「上野さんにとって、戦友とはどんな存在だったんですか」
上野さんは少し考えてから答えた。
「家族と同じですね。生死を共にしましたから。今でも忘れられません」
亡くなった仲間の顔は、今も消えない。一方で、生き残った戦友は年々少なくなっている。
「今は、その息子さんたちと話すことが多いです。それでも家族みたいなものです」
戦争とは「むごたらしくて、むなしいもの」 “最後の語り部”の言葉
戦争についての思いを問われると、上野さんはこう語った。
「むごたらしくて、むなしいものです。一番苦しんだのは町の人、国民です」
「戦争はやらないでください。平和ボケでいい。80年間戦争をしなかったから、日本はここまで来たんです」
静かな口ぶりだったが、その言葉の一つひとつは、確かに今へとつながっていた。
【第1話】16歳の“子ども”が一人で空へ…97歳の元少年飛行兵が語る「死への覚悟」“最後の語り部”の記憶
【第2話】「飛び立ったら、もう帰れない」16歳の少年はなぜ特攻を“熱望”したのか 紙一枚で迫られた選択と“最後の語り部”明かす死への覚悟
【上野辰熊さんプロフィール】
上野 辰熊(うえの たつくま)さん 97歳
1928(昭和3)年3月、山口県生まれ。
1943(昭和18)年10月、陸軍少年飛行兵として大刀洗陸軍飛行学校に入校、基礎訓練。
1944(昭和19)年4月、正式に任官し、京城教育隊へ配属。「赤トンボ」による飛行訓練。
1944(昭和19)年8月、九九式襲撃機の搭乗員となり、訓練や特攻機輸送などに従事する。
1945(昭和20)5月、鹿児島県の万世飛行場で沖縄航空作戦中の飛行第66戦隊に転属。
沖縄戦が終結したため、7月に大刀洗北飛行場へ転属。 8月、終戦を迎える。
終戦後、部隊は解散し、山口県の叔父の家で生活を送る。
現在は、飛行第六十六戦隊会連絡事務局長、万世特攻慰霊碑奉賛会(万世特攻平和祈念館・鹿児島県南さつま市)常任理事、陸軍少飛平和祈念の会 会長を務める
写真:帰還者たちの記憶ミュージアム 所蔵
今江大地(STARTO ENTERTAINMENT)が特攻隊員を演じる舞台「パイロット」。特攻隊員の目線で平和をテーマに、大戦中と現代の日本を表す。2月18日(水)から24日(火)まで、東京「赤坂 RED/THEATER」で。