“グリーンランドの次”はアルゼンチン?「南極の玄関口」に向かうトランプ外交

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-02-24 06:30
“グリーンランドの次”はアルゼンチン?「南極の玄関口」に向かうトランプ外交

南米アルゼンチン最南端の都市ウシュアイア。人口は約8万人で「世界の果て」とも呼ばれる。南極を目指す観光客の“憧れ”でもある小さな港町が、いま大国間競争の「最前線」として注目を集めている。

【写真を見る】グリーンランドで行われたトランプ政権に対する抗議デモ

今年1月、アメリカ議会の与党議員らが突然、この町を視察に訪れた。ウシュアイアには「海軍基地」の建設計画があり、地元の市民からは「米軍の拠点化に向けた地ならしではないか」という疑念の声が挙がっている。

中南米への影響力を強化し、グリーンランドの領有を主張するなど、“西半球戦略”を加速させるトランプ政権。なぜいま「南極の玄関口」に目を向けるのか。専門家インタビューから、その戦略的重要性を読み解く。

世界が注目する南極の資源と重要航路

ウシュアイアは南米大陸の南端に位置し、南極に最も近い主要港の一つとされる。南極観測船や補給船の出発拠点であり、資源開発や研究活動の拠点として各国が注目してきた。

アメリカの安全保障と海洋政策に詳しいアメリカン大学のギャレット・マーティン教授は、その地理的重要性が高まっていると指摘する。

「南極の氷床の下に膨大な資源が存在する可能性がある。気候変動や砕氷技術の向上もあり、将来を考えればウシュアイアは非常に重要な場所と言える。アルゼンチン政府は、南極開発にむけたインフラ整備の面で隣国・チリに後れをとっていると考えていて、なんとかして拠点の整備を急ぎたいと考えている」

さらに、ウシュアイアは海上交通の要所・マゼラン海峡にも近い。パナマ運河を通航できない大型船が利用する代替ルートとして知られ、近年その価値が再評価されている。世界各地の紛争によって主要航路の安定性が揺らぐなか、南米南端ルートの戦略的重要性は増しているという。

アメリカとアルゼンチンの蜜月

こうした地理的条件に、アルゼンチンの政治的転換も重なった。

2023年に就任したハビエル・ミレイ大統領は、外交方針を大きく転換した。前政権が進めていた中国やBRICSとの関係強化から距離を置き、アメリカとの連携を外交の中心に据えたのである。

中国は、アルゼンチンにとって重要な経済パートナーであり、特にインフラ投資での存在感は非常に大きい。しかしミレイ政権は、中国企業による重要インフラへの関与に慎重姿勢を示し、防衛・資源分野ではアメリカとの協調姿勢を示している。

一方、トランプ大統領は第2次政権で、西半球の戦略的重要性を前面に打ち出している。移民や麻薬問題だけでなく、安全保障と資源供給の観点から地域への関与を強めている。

マーティン教授は次のように指摘する。

「アメリカは、アルゼンチンのような国が北京ではなくワシントン寄りにとどまることを重視している。パナマで中国企業の排除に動いたように、アルゼンチンとの関係強化も地域の覇権争いの側面がある。少なくともアルゼンチン海軍との協力拡大は既定路線とみられていて、ウシュアイアの基地に興味を示すことは驚くようなことではない」

今回のアメリカの与党・共和党の上院議員をトップとする議員団の視察は事前通告がなく、アルゼンチンの野党は政府に説明を求める事態となっている。

現地メディアによると、議員団は米軍機でウシュアイアに入ったという。私たちは現場を訪れたアメリカの共和党議員に取材を申し込んだが、これまでのところ返答はない。アメリカ大使館は訪問の目的を「環境問題の視察」などと説明している。

さらに、アルゼンチンの地元ジャーナリストに話を聞くと、「アメリカの興味が海軍基地にあるのは公然の秘密。漁師たちは、米軍が展開することで漁業できなくなったり生活が制限されたりすることを恐れている。ミレイ大統領は、自分の利益のために基地をアメリカに差しだそうとしているという批判の声もあがっている」と教えてくれた。

マーティン教授によれば、フォークランド紛争を経験したアルゼンチンの世論は、外国の軍隊に対する警戒感が強く、今後、この海軍基地が大きな政治問題となる可能性もあるという。

グリーンランドとウシュアイアの共通点

トランプ政権の地政学的発想は北極にも及び、“グリーンランド領有”問題はヨーロッパとの緊張関係が高まっている。気候変動によって海氷が減少した北極海航路のアクセスが飛躍的に改善した。アメリカは資源開発や航路確保の観点から、ロシアや中国の活動拡大に対する警戒を強めている。

北極圏のグリーンランドと、南極への玄関口であるウシュアイア。一見無関係に見える二つの地域は、「極地をめぐる戦略拠点」という点で共通している。

南極では1961年発効の南極条約により、軍事活動や領有権主張が凍結されている。しかし、国際秩序を支えてきた枠組みが大きく揺らぐ中で、今後も現在のルールが維持される保証はない。

マーティン教授は、各国が“万が一“に備えた場所取りを始めていると分析している。

「勢力圏は地理だけで決まるものではない。もし南極が西半球安全保障の一部として認識され始めれば、政治的な意味は大きく変わる。国際秩序が弱まる中で、現在の状況がいつまで維持できると誰が断言できるだろうか。条約は“紙”にすぎず、関係国が順守する意思があって初めて機能するものだ」

「世界の果て」が国際政治の“最前線”に

長らく「世界の果て」と呼ばれてきたウシュアイア。しかし、トランプ政権は、この町を南極開発の拠点、海上交通路の要所とみなし、影響力を強化しようとしている。

「北極圏ではロシアや中国の軍事活動への懸念が現実的であり、現時点ではグリーンランドの方が安全保障上の緊急性は高い」とマーティン教授は断ったうえで、こう強調しました。

「中国にとってもウシュアイアは南極開発の重要な拠点だ。世界的な大国を自認するなかで、この場所で存在感を示すことは象徴的な意味を持つ。この問題は単なる地域問題ではない。南極の未来と国際秩序そのものをめぐる覇権争いの最前線となりつつある」

ワシントン支局・大橋純
サンパウロ通信員・山口貴史

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