「日本ウェルビーイング研究会議」設立を発表 働く幸せと生活の充実を可視化する新プロジェクト
公益社団法人日本青年会議所と、株式会社博報堂のシンクタンク「博報堂100年生活者研究所」は3月6日、都内で記者会見を開き、共同研究プロジェクト「日本ウェルビーイング研究会議(Japan Well-being Research Council=JWC)」の設立を発表しました。プロジェクトは同月20日に正式発足します。
ウェルビーイング研究が担う役割
ウェルビーイング研究とは人生の多くの時間を「働くこと」に費やす現代社会において、働く人の喜びややりがいといった実感が、個人の生活や組織の幸福、さらに地域社会の活力へとどのようにつながるのかを明らかにするのが目的です。
今回発足する日本ウェルビーイング研究会議では、企業や働く人々の現場の声を集め、データによって「見えにくい幸せ」を可視化。ウェルビーイングを理念にとどめず、企業経営の判断材料として活用できる新たな指標づくりを目指すといいます。


「広告事業だけではなく様々な分野を研究する博報堂には共通する理念が存在します。それが『生活者発想』です」
そう話すのは博報堂の執行役員宮澤正憲氏です。
この理念は人を単なる『消費者』や『顧客』として捉えるのではなく、一人の生活を営む主体として理解するという考え方です。
従来のビジネスでは、商品やサービスを購入する人を「消費者」として分析することが一般的でした。しかし実際には、人は商品を買うためだけに生きているわけではありません。家庭があり、地域社会があり、さまざまな人間関係や役割の中で生活をしています。その生活全体の文脈の中で商品やサービスを選択しているという視点が「生活者発想」の基本です。
「この考え方は企業組織のあり方にも関係します。企業で働く人も、単なる『社員』ではなく、その前に父であり母であり、地域の一員でもある生活者だ。こうした側面を無視して働き方改革や組織改革を進めると、どこかに歪みが生まれる可能性があります。
そのため博報堂では、企業の組織開発を支援する際にも『ひとりの生活者としての社員』に着目し、働きがいや組織の活性化とビジネス成果の両立を目指した取り組みを進めています」(宮澤氏)
日本青年会議所とは
「本プロジェクトは、地域の若手経営者とともに、ウェルビーイング経営を実装することを目的に立ち上げました」
そう語るのは、日本青年会議所社会開発会議議長の下坂大夢氏です。

日本青年会議所は1951年に設立され、全国665の青年会議所に約2万5000人が所属する団体です。行政、企業、教育機関、市民団体など多様な主体と連携し、地域課題の解決に取り組んできました。
また同団体は、社会のリーダーを数多く輩出してきたことでも知られています。国内外の政財界や文化界で活躍する人物の中には、青年会議所の活動経験を持つ人も多く、海外では、ジョン・F・ケネディ元米大統領や、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏といった世界的リーダーの名前も挙げられます。


第75代会頭である加藤大将氏は、「真の心が生み出す幸せな国日本へ」を2026年度の基本理念に掲げ、地域社会の活力や家庭の幸福を重視した活動を進めています。
同会議では「幸せの行動指標」を広げる取り組みも展開しているといいます。仲間や家族とのあいさつや称賛を促す「グッドタッチでGO!」、食を通して感謝を伝える「スマeat」など、日常の行動を少し変えることで幸福感を高める活動を全国で進めています。
ウェルビーイング研究第一線の博報堂100年生活者研究所

「私たちは“人生100年時代のウェルビーイング”を研究するリビングラボです」
そう説明するのは、博報堂100年生活者研究所の所長大高香世氏。
同研究所は、企業や自治体、大学、メディアなどと連携しながら、新しい社会のあり方を探る研究を行っています。新規事業開発の支援や、自治体と連携したウェルビーイングを軸にした街づくりなども手掛けています。
背景にあるのは、日本社会が抱える課題です。日本は世界有数の長寿国でありながら、「高齢になっても生きたい」と考える人の割合は、諸外国と比べて低いという調査結果があります。

こうした状況を変えるため、同研究所は「人生100年を前向きに生きる社会」をテーマに研究を進めています。その一環として、玩具メーカーのタカラトミーと共同で「100年人生ゲーム」を開発。お金ではなく「ウェルビーイング」を多く獲得した人が勝つというユニークなルールのボードゲームとして話題になりました。
ウェルビーイングとは何か
近年、世界中で注目されている「ウェルビーイング」という概念は、単なる幸福感だけを指す言葉ではありません。
身体的・精神的・社会的に満たされた状態を意味し、健康、仕事のやりがい、人間関係、生活の満足度など、人生全体の質を総合的に捉える考え方です。
従来の経済指標であるGDPでは測れない「人々の豊かさ」を評価する概念として、国際的にも議論が進んでいます。
今回の研究プロジェクトでは、企業におけるウェルビーイングを『仕事』『生活』『組織』という三つの側面から分析する点が特徴です。 社員の家庭生活や地域活動など、企業の外側の生活が企業の生産性や成長にどのように影響するのかをデータで明らかにします。
「100年企業」の共通点とは

プロジェクトに先立ち、日本青年会議所の会員を対象にプレ調査が実施されました。調査では経営者373人、社員103人、配偶者などパートナー119人から回答を得ました。

過去3年間業績が好調で、かつ長期的な経営判断を行っている企業を「100年企業」と定義したところ、回答者の約28%が該当しました。
調査から見えてきた特徴は次の通りです。
1 経営者の志と幸福感
100年企業の経営者は、自分の志や生活の幸福が企業成長につながると考える傾向が強かった。
2 社員の共感
100年企業では社員の7割以上が企業ビジョンに共感しており、仕事の成長実感も高い傾向があった。
3 パートナーの理解
経営者や社員のパートナーが、相手の夢や幸せの価値観を理解している割合が高かった。
4 志と弱みの共有
100年企業の経営者は、パートナーと志だけでなく弱みも共有している割合が高かった。
これらの結果から、企業の持続的な成長には、経営者や社員だけでなく家庭や人間関係の支えが重要である可能性が示唆されたといいます。

専門家「生活を含めたウェルビーイング研究は新しい」

武蔵野大学ウェルビーイング学部長の前野隆司教授は、企業経営におけるウェルビーイングの重要性を次のように説明します。
「世界の研究では、幸せな社員ほど生産性や創造性が高く、企業の利益率や企業価値も高いという結果が数多く報告されています」
また、「業績が良いから幸せになるのか、幸せだから業績が良くなるのか」という議論についても、「研究では両方向の因果関係が確認されています。幸せだから生産性が上がり、生産性が上がることでさらに幸せになるという循環です」と指摘します。
さらに今回の研究の特徴について、「これまでのウェルビーイング研究は“働く幸せ”に焦点が当たることが多かった。しかし今回のプロジェクトは、生活全体の幸福まで含めて研究している点で非常に新しい試みです」と評価しました。

幸せと利益が循環する社会へ

日本青年会議所の加藤大将氏は、日本社会が直面する課題についてこう語ります。
「若者が将来に希望を持ちにくいと言われる時代だからこそ、社会全体の豊かさや幸せのつくり方そのものが問われています」
そのうえで今回のプロジェクトについて
「個人や家庭の幸せが企業の成長につながることを証明し、日本中に幸せと利益が循環する新しい経営モデルを広げていきたい」と意気込みを語ります。
研究会議のロゴには、仕事と生活の境界を越え、人生が一体となって流れるイメージが込められているといいます。
働く幸せと生活の充実。その両方を高めることが、日本社会の持続的な成長につながる——。
日本ウェルビーイング研究会議は、その可能性を探る新たな試みとして注目されそうです。