世界はインフレ警戒態勢に、「景気か、物価か」深まる日銀の苦悩【播摩卓士の経済コラム】

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2026-03-21 14:00
世界はインフレ警戒態勢に、「景気か、物価か」深まる日銀の苦悩【播摩卓士の経済コラム】

アメリカ・イスラエルによるイラン攻撃で、中東のエネルギー関連施設への攻撃の応酬が続く中、3月第3週には、主要国中央銀行の政策決定会合が相次いで開かれました。中東情勢と原油価格の先行きがはっきりしないため、「とりあえず様子見」と、いずれも金融政策は現状維持でした。日銀も次の一手が見通せなくなってきています。

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米パウエル議長「利上げも排除せず」

17、18日に開かれたアメリカFRBの決定会合では、政策金利の据え置きだけでなく、今後の見通しでも、「年内の利下げは1回」という参加者の予想中央値が明らかにされ、基本路線に変化がないことが示されました。

しかし、経済見通しでは、今年末の物価上昇率を、前回12月時点の2.4%から2.7%へと、大幅に上方修正しました。参加者の政策金利の見通しでも、「年内の利下げなし」とした参加者が19人中7人もいることが明らかになり、インフレ懸念が強まっていることが示されました。

パウエル議長は記者会見で、「原油高を非常に懸念している」、「インフレの落ち着きに進展が見られなければ、利下げは行われないだろう」と、発表内容よりもタカ派的な発言が目立ちました。さらに、パウエル議長は「次が利上げになることも議論された」と明らかにした上で、「メインシナリオではないが、その可能性も排除しない」とまで述べたのです。

原油高の長期化がインフレを大きく加速させることへの強い警戒感を示したもので、金融市場では利下げ期待が後退し、この日、ダウ平均株価は768ドルも下げました。

ECBも「物価上振れリスク」

ECB・欧州中央銀行も、19日に理事会を開き、6回連続となる政策金利の据え置きを決めました。ラガルド総裁は「物価の上振れリスクが生じている」と言明しました。ラガルド総裁は、今後の金融政策の方向について「特定の経路は確約しない」と、利上げ、利下げ双方の可能性に含みを残しましたが、利下げを「打ち止め」にしてからすでに6会合を経っていることから金融市場では、次に動くとすれば、「利上げ」との見方が強くなっています。

先進国の中では、オーストラリアの中央銀行が17日、「すでに2025年後半からインフレは再加速に転じた」として、2回連続となる0.25%の利上げを決めました。このように主要先進国の中央銀行の間では、急速にインフレ警戒感が高まってきています。

現在の中東・ホルムズ海峡危機は、かつての「オイルショック」に匹敵する危機にまで大きくなる危険性がある以上、それは当然のことでしょう。ましてや、2022年のウクライナ侵攻によるインフレへの対応で、引き締めが遅れた反省があるのですから、なおさらです。

日銀は景気と物価の両睨み 

これに対して、日本銀行の植田総裁のスタンスは、少し違います。インフレ警戒だけを前面に出すのではなく、むしろ中立的なニュアンスが強かったように、私は受け止めました。

18、19日に行われた日銀の政策決定会合は、大方の予想通り、金利据え置きでした。今後についても、「経済や物価が見通し通りであれば、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と、これまでと同じスタンスでした。

記者会見で植田総裁は、焦点の原油価格高騰の影響について、景気下押しのリスクと、物価上昇のリスクの両面があるとして、「どちらに重点を置いた政策を行うか、一概に答えるのは難しい」と述べました。

原油価格高騰で幅広いモノのコストが上がれば、景気が一気に悪化し、その際には景気下支え、すなわち緩和的な政策をとる必要があります。一方で、エネルギー価格の上昇が人々のインフレ予想を高め、基調的物価が上昇していくのであれば、引き締め的な政策が必要になるわけです。植田総裁は、他の先進国のトップよりも、景気悪化のリスクを心配しているように思えます。

あくまで「基調的物価」を重視

また、植田総裁は、物価の判断を行う際に、基調的な物価を見るという姿勢を、依然として強調しています。つまり、一時的な原油価格の変動などの要素は、できるだけ除いて、物価上昇の内在的な力を見たい、と言っているわけですから、その分、目の前の物価上昇には、少し寛容な印象を受けます。

植田総裁は、決定会合での議論では、「物価の上振れリスクを重視する人の方が、景気の下押しリスクを重く見る人より多かった印象もある」と、わざわざ議論の過程を紹介しましたが、「自分としてはもう少し動きを見て判断したい」と、自らの考えを明言しませんでした。

原油や海外の影響を受けやすい日本経済

このように植田総裁が先行きの方向性に慎重な姿勢を示しているのは、原油の中東依存、なかんずくホルムズ海峡依存が、他の先進国より際立って高い日本では、ショックがより大きくなる可能性が高いからです。また、かつてのリーマンショックの時のように、グローバル経済危機が起きた場合には、海外依存度の高い日本経済のダメージが、時に、発生国以上に大きくなるといった、過去の例もあるからです。

インフレ懸念は感じつつも、石油ショックが起きた際に、日本の景気悪化リスクは大きいと認識しているのでしょう。

また、次の利上げに向けた高市政権との調整が、まだついていないという事情もあるかもしれません。2月12日に総選挙後初めて、植田総裁が高市総理大臣を訪ねた際に、「高市総理は追加利上げに難色を示した」と、毎日新聞が報じました。それはまだイラン攻撃前の話です。仮に報道が正しければ、原油価格が実際に急騰している今は、「難色」といったレベルではないでしょう。

中東情勢の安定化が見えてこなければ、現実的には、次の利上げに動くことは、難しいかもしれません。

「周回遅れ」が「2周回遅れ」に?

しかしその一方で、あまり「様子見」を続けると、「後手に回る」リスクも高まります。もし、他の先進国が、新たな利上げサイクルに踏み込み、日本が「様子見」を続ければ、為替市場では、これまでとは比較にならない円安圧力がかかることになります。

そもそも日本は、「周回遅れ」でした。他の先進国がウクライナ侵攻後に急速に利上げした際も、動きませんでした。そのことが、円安を引き起こした一つの原因です。そして、その円安は、今、日本の物価高に跳ね返ってきています。

その後、他国はいったん利下げに転じ、今や、次の利上げサイクルを視野に入れるところまでやってきました。それでもなお日銀が利上げに動かなければ、日本は「2周回遅れ」になってしまいます。

かつてデフレ経済下では、危機の時には景気下支え最優先で、日本は何も心配することはありませんでした。しかし、今はインフレの時代です。日本の金融政策は、まさに「景気か、物価か」という、当たり前の苦悩を深める事態に直面しています。

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