三井情報「AssetWatch」が挑むインフラ維持のDX――東京都水道局とのAI×専門家による共同検証
食品工場のラインやビルの空調、そして社会インフラ――。
心臓部とも言えるモーターやポンプが回り続けることで、文明の利便性は維持されています。つまり私たちの日常は、まさに「回転機器」に支えられているといってもいいでしょう。それらがもし機械の故障で停止してしまったら……?
特に生活に直結するインフラの停止は深刻です。蛇口をひねれば当たり前のように水が出る日常は、現場の徹底した監視が支えているのです。
しかし今、この「当たり前」が、設備の老朽化と熟練者の不足という二重苦により揺らぎ始めています。
この「静かな危機」にどう立ち向かうべきか。東京都水道局と三井情報が挑んだ実証実験から見えてきたのは、AIによる高度な解析と、専門技術者(CME)の知見を融合させた「ハイブリッド型監視」という新たな提案。そこに登場したのが、回転機器予兆検知診断ソリューション「AssetWatch」です。
水道局「インフラ維持」の課題に挑む「AssetWatch」の役割

ICT事業を展開する三井情報が提供する「AssetWatch(アセットウォッチ)」は、伴走型支援を特徴とする回転機器の故障予兆検知・診断ソリューションです。
その仕組みは、AIと専門家の知見を融合させた「ハイブリッド型」にあります。IoTセンサーを設備に設置するだけで、AIが24時間体制で稼働状況を把握。さらに、振動解析の高度な知見を持つ専門家「CME(Condition Monitoring Engineer:状態監視技術者)」がデータを精査し、原因分析から具体的な保全アドバイスまでをセットで提示します。
この「AssetWatch」を活用した技術検証に踏み切ったのが、都民の生活を支える東京都水道局でした。将来的な担い手不足を見据え、給水所のポンプ保全業務におけるデジタル技術の活用可能性を追求。2025年10月から約1か月間にわたり、4台のポンプから得られるデータの継続的な収集・解析が進められました。 そしてこれは、水道局が「止まってはならないインフラ」として求める厳しい基準に対しての、三井情報の挑戦でもありました。
AIと専門家が連携「ハイブリッド監視」の仕組み
「AssetWatch」の最大の意義は、異常検知の先にある納得感。「熟練の目」を持つCMEの知見との融合で、AIのみでは実現できない“現場に寄り添う形”が早期かつ高精度に提供されます。

【AI領域】複雑な異常音を高速にデータ化(FFT解析)
膨大なデータに対し、機械学習モデルを用いたリスク度判定を実施。人間では処理しきれない膨大な振動データを24時間休まず監視し、微細な「増減傾向」からリスクをいち早く抽出します。
【ヒト領域】専門家(CME)による精度の高い伴走
AIが検知したリスクに対し、周辺データを含めた総合的な判断を下すのがCME(状態監視技術者)です。AIでは判断が難しい、ベテラン監視員さながらのノウハウを込めたアドバイスを提供。安定稼働に必要な「生きた知見」を現場へ届けます。
【連携】チャット形式が生む強固なパートナーシップ
「具体的に何が起こりそうか」「どんな対応をすべきか」。これらの回答は、クラウド内のチャット機能を通じてダイレクトにやり取りされます。クライアントとCMEの連携をより簡単かつ強固にすることで、現場の心理的なハードルを劇的に下げます。
担当者が語る――デジタル化の先にある“人間の役割”

「早めに気づいて、計画的にメンテナンスできる余裕が生まれる。今回の検証を通じて得られた最大の効果は、現場にこの『安心感』を提供できたことだと思います」
今回の実証実験を主導した三井情報の荒谷勇生氏は、そう振り返ります。これまでの現場は、ベテランが長年の経験に基づき点検・修理を行うスタイルが中心でした。しかし、将来的な人手不足への懸念、そして「止めてはいけないインフラ」として突発的な故障をいかに防ぐかという課題が常にありました。
「今までと変化がないように見えても、実は徐々に状態は変わっているんです。機器の微細な変化を24時間体制で捉え続けること。それが『将来も止まらないインフラを維持する取り組み』の核になります」(荒谷氏)

一方、同社の當眞氏は、現状のデジタル化における別の壁を指摘します。
「単にシステムを導入しても、データを見てもどうしていいかわからないという課題が現場にはありました。だからこそ、AssetWatchはセンサーと監視、さらに専門家のアドバイスまでをワンパッケージにしています」
他社のAI監視システムとの決定的な違いは、その「アウトプット」の質にあります。
「この設備のこの部位でこういうことが起きている、とピンポイントで言える。そこまで踏み込んで初めて、現場は迷わず動くことができます。AIはデータ処理が得意ですが、最終的な判断を下すのは人間。その判断材料として、CMEが常に横にいるようなイメージを持ってほしいですね」
インフラメンテナンスの質を変えるのは、AIの効率性とヒトの知見の融合。當眞氏が「結局、最後は人間なんです」と語る通り、システムが「判断する人間」を支えるパートナーとなることで、新たな安心の形が作られようとしています。
水道局から全ての産業へ――日本の「心臓」を守り抜く三井情報の挑戦

回転機器は、水道だけでなく鉄鋼、食品、化学など、あらゆる製造現場で「心臓」として機能しています。
三井情報が次に見据えるのは、人口減少が深刻な地方の自治体や、インフラ維持の難易度が増しているエリアへの展開です。
物理的な距離や人手不足を理由に、これまでメンテナンスが十分に行き届かなかった場所へこそ、遠隔監視と専門家のアドバイスがセットになったこの仕組みが必要とされています。
また将来的には、オフィスビルや商業施設といった都市部のライフラインを支える設備への導入も視野に入れているといいます。
「結局、最後は人間」という、信頼の形。 人手不足に悩む日本の多くの現場を救う、確かな答えとなるはずです。

三井情報 公式サイト:https://www.mki.co.jp/
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<取材・撮影・文/櫻井れき>