高市政権の右旋回とポピュリズム~国会審議で見えた正体~【調査情報デジタル】

高市早苗内閣総理大臣にとって初の本格的な国会対応となった第221回国会が終わる。衆院選での大勝を受け、高市政権はこの国会でどう動いたのか。永年にわたって日本政治をウォッチしてきた星浩氏(TBSスペシャルコメンテーター)による論評をお届けする(冒頭の写真は7月15日の党首討論での高市総理)。
高市早苗政権が衆院選での圧勝を受けて臨んだ特別国会が、150日間の当初の会期と8日間の延長を終えて7月25日に閉幕。国会論戦を通じて、政権の正体が浮かび上がってきた。
国会終盤では皇室典範が改正され、高市総理が十分な説明のないまま男系男子による皇位継承にこだわった姿勢が顕著となった。政策面で高市総理は「財政出動」をアピールし、食料品の消費税減税を進める。外交では、自らの台湾有事発言で反発を受けた中国に対する強硬姿勢を崩さない。
政策に共通するのはポピュリズム(人気取り)だ。野党との国会論争も大幅に減り、重要政策や総理周辺が絡む疑惑への説明責任も果たされたとは言えない。頼みの内閣支持率が低下し始め、消費税減税問題などを抱える秋の政局は波乱含みとなってきた。
終盤国会は皇室典範改正で混迷
2月に召集された特別国会では、衆院選で大勝した自民党の圧倒多数を背景に、総額122兆円の政府予算案や関連法案が次々と可決、成立した。だが、会期末に向けて混乱が続いた。
要因の一つは高市総理周辺に絡む疑惑である。週刊文春は、2025年9月の自民党総裁選と26年2月の衆院選で高市氏の事務所が対立陣営を中傷する動画配信に関与していたという疑惑を報道。高市氏は関与を否定したが、週刊文春は高市氏の秘書と動画の関係者との会議の模様などを報じた。
高市氏は一連の経緯について秘書の「陳述書」を国会に提出するという考えを表明したが、野党側は納得せず、高市氏のさらなる説明を要求。国会審議が空転した。
高市政権は、連立のパートナーである日本維新の会が成立を求める(1)衆院の定数削減を与野党協議が整わない場合、1年後に比例区で45議席を削減する法案(2)大阪都構想を念頭に置いた「副首都」を設置するための法案――の会期内成立をめざしたが、野党側が強く反発。与野党協議の結果、(1)高市総理が党首討論などに出席する(2)衆院の比例区定数削減は先送りとする――などで歩み寄り、国会審議は正常化した。
高市氏は7月22日、秘書の陳述書を提出したが、「記憶にない」
また副首都関連法案は、少数与党の参院で採決をめぐって与野党協
男系男子の皇位継承に固執する自民
終盤国会で政府・与党は、皇室典範の改正実現を最優先とした。もともと衆参両院の正副議長が、「皇位継承を男系男子で続けるか」「女系女性天皇も容認するか」といった本質的な議論はわきに置いて、皇族数を確保する方策について各党代表と話し合った。
その結果、(1)女性皇族が結婚後も皇室に残ることが出来る(2)旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える――という案が「国会の総意」としてまとめられた。この養子には皇位継承権がないが、その子供の継承権は明確にしなかった。
ところが、森英介衆院議長が養子の男子には皇位継承権が生じると発言。政府が公表した典範改正案でも、養子の男の子には継承権があることが明確になった。
中道改革連合(中道)や立憲民主党など野党側は「だまし討ちだ」「国会の総意ではない」と反発したが、高市総理は修正を拒否。改正案は政府提出の内容のままで可決、成立した。中道など野党側は明確な対抗策を示すことができず、非力さを露呈した。
一連の経過で明確になったのは、高市自民党が男系男子の皇位継承にこだわる姿勢である。最近の自民党政権は、男女共同参画を掲げてきたが、今回の皇室典範改正をめぐる自民党の動きを見る限り、男尊女卑という時代錯誤の体質は改まっていないことが分かる。さらに高市総理が、国の根幹をなす皇室の在り方について、国民に向かって丁寧に説明する機会を設けることはなかった。
現行憲法で「象徴」と位置付けられた天皇制は、国民の理解に重きを置いてきた。歴代の天皇陛下をはじめ皇室の方々は戦争の慰霊のために各地を巡り、被災地を慰問。国民との触れ合いを重ねてきた。側室制度はすでに廃止され、生前退位も法制化された。時代に合わせて見直されてきたのである。
日本政治がいま、皇位継承という重い課題に直面した時、政権を担っている高市総理が、ジェンダー平等の時代とは程遠い「男系男子による継承」にこだわる右派的体質を露呈したといえるだろう。
終盤国会では、自民、維新両党が提起した「国旗損壊処罰法」も成立した。日本の国旗を傷つけたら刑事罰を科す内容で、「不快感や嫌悪感を抱かせる」といった恣意的な規定もある。多くの憲法学者や野党の中道などは表現の自由や思想信条の自由を侵害する恐れがあるとして反対した。この法律も高市総理が推進してきたもので、高市自民党の「右旋回」を端的に示している。
こうした動きを受けて、世論調査の内閣支持率は急落。7月18、19両日の毎日新聞調査では「支持する」が前月の51%から41%に下落、「支持しない」は35%から44%に急増した。同時期の朝日新聞調査でも支持は60%から53%に減り、不支持は27%から35%に増えた。皇室典範の改正内容とその手法に世論の批判が強まったことは確かだ。
消費減税は財政ポピュリズム
高市政権の政策で、さらにあらわになったのがポピュリズム体質である。
高市総理が2月の施政方針演説で強調したのが「責任ある積極財政」だった。「長年続いてきた過度な緊縮指向を断ち切る」とも言明した。
この予算案は総額122兆円。1年前に当時の石破茂政権が提出した予算案は115兆円だったから、7兆円増えただけだ。新規国債の発行も前年と同程度の約30兆円。前年度までの予算が「緊縮指向」だったわけではないし、その流れを「断ち切る」とも言えないのが実態だろう。予算案の総額は「微増」なのに「積極財政」と言い切り、「人気取り」の材料とした。
高市総理は、予算案に続いて財政ポピュリズムを発揮していく。食料品の消費税率を8%から0%に引き下げることを「政治家としての悲願」と訴えた。
自民党の税制調査会は長年、税制改革の主舞台となってきたが、同調査会関係者は「高市氏が消費税率引き下げについて発言したのを聞いたことがない」と証言する。高市氏の「悲願」は、26年の衆院選で多くの野党が消費税率の引き下げを主張し、高市自民党がそれに対抗するために公約として「食料品税率の2年間ゼロ」を打ち出した「にわか作りだ」とも語っている。
消費減税をめぐっては、自民、維新の与党に加え、多くの野党も加わった国民会議で議論が進められた。レジシステムの都合から、現行の食料品8%を0%に引き下げるのは時間がかかることから、1%への引き下げで調整が続いた。
これには、野党だけでなく自民党内からも批判が出ている。
(1)高市総理は、減税は2年限定と明言。2026年秋の臨時国会で1%に引き下げるための関連法案が可決され、27年4月から実施されても、29年3月末に8%に戻すことは可能か(2)1%への引き下げのためには4兆円の財源が必要だが、確保できるのか(3)減税で景気が刺激されれば、インフレが加速されるのではないか――などの理由が挙げられている。
だが、高市総理は当初方針に沿う形で1%への減税を押し切る構えだ。減税ポピュリズムである。
物価高対策としてガソリンへの補助金を出し続けているのも、典型的な財政ポピュリズムと言える。ガソリン1リットルを170円程度に抑えるため、30円~40円ほどの補助金が支給され、毎月3000億円を超える財政負担となっている。ガソリン価格が高騰すれば、マイカー通勤を控えたり、EV(電気自動車)への転換が進んだりするというマーケットメカニズムが働くはずだが、この補助金が市場原理を阻んでいる。
だが、財政支出の拡大には大きな副作用が伴う。
高市総理は減税とともに、2040年度までにAI(人工知能)や半導体、造船などの重点分野に官民合わせて370兆円を投資する方針を打ち出した。ただ、具体的な財源のメドは立っておらず、財政赤字が膨らむのではないかという懸念から市場では円安が進み、長期金利が上昇した。
円安は輸入物価の上昇を招き、さらなるインフレにつながる。長期金利の上昇は、住宅ローンの金利上昇という形で国民に負担を強いる。そして国の借金に対する利払い増を招き、財政悪化に直結する。財政ポピュリズムには重い代償を支払うことになる。
対中強硬策は外交ポピュリズム
高市総理は外交面でもポピュリズムの姿勢を見せた。
25年10月の総理大臣就任直後には、アメリカのトランプ大統領を迎え、「日米蜜月」を演出した。神奈川県横須賀市を母港とする米原子力空母「ジョージ・ワシントン」では、演説するトランプ大統領の隣で飛び跳ねてみせた。
アメリカの大統領と「強固な日米同盟」をアピールすることが、日本国内の世論の支持につながることを自民党政治家は熟知している。かつての中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三各総理のレーガン、ブッシュ(子)、トランプ各大統領とのパフォーマンスを思い浮かべれば、納得できるだろう。
一方で、中国との関係は単純ではない。1972年、田中角栄総理が中国との国交正常化に踏み切り、日中関係は急速に進展。日本国内でも「日中友好ブーム」が続き、多くの親中派政治家が活躍した。中国が経済成長を果たして2010年には国内総生産(GDP)で日本に追いつき、追い越すことになる。軍事的台頭も進み、日本国内では「中国脅威論」が強まってきた。安倍晋三政権が15年に集団的自衛権の行使容認を柱とする安全保障法制を成立させたのも、台頭する中国をにらんだものだった。
多くの憲法学者が「違憲」と断じ、国会議事堂周辺では大規模な反対デモが繰り広げられたのにもかかわらず、強行採決された安保法制では、台湾周辺で米軍と中国軍が交戦状態となり、日本の安全保障が脅かされる事態となれば、「存立危機事態」と認定され、自衛隊が出動。中国軍との交戦もあり得ることになる。
その法制に基づき、自衛隊と米軍は台湾周辺で共同演習を重ね、中国軍もこれに対抗する形で大規模な軍事演習を続けてきた。だが、安倍総理以降、菅義偉、岸田文雄、石破茂の歴代総理は台湾有事に対する具体的な対応については言及を避けてきた。「曖昧戦術」である。
台湾有事発言後も事態打開に動かず
そうした状況下で、高市総理の「台湾有事発言」が飛び出した。
2025年11月の衆院予算委員会で、立憲民主党(当時)の岡田克也元外務大臣は、台湾有事と存立危機事態についての高市総理の見解をただした。高市氏は「戦艦を使って武力の行使を伴うものであれば、どう考えても存立危機事態になり得る」と答弁。自衛隊出動の可能性に触れた。歴代総理の見解を踏み出したことは間違いない。
これに対して、中国は強く反発。高市総理の答弁を撤回するよう求めた。さらに、日本への観光旅行自粛や日本人タレントによる中国国内での公演中止などが次々と打ち出された。さらにレアアース(希土類)の対日輸出規制も示唆している。
日本国内では、保守系メディアを中心に高市答弁を支持する動きが強まり、岡田氏の質問を非難するメディアも出てきた。野党が政府の外交・安全保障政策を詳細に追及するのは当然だが、岡田氏に批判の矛先を向けるのは、一部のメディアも「政策論議より中国への反感」というポピュリズムの罠に陥っている表れだろう。
日本の対中関係が悪化する中、高市総理は26年3月、ワシントンを訪れ、トランプ大統領と会談。高市氏はアメリカが同年2月にイラン攻撃に踏み切ったにもかかわらず、「世界中に平和と繁栄をもたらせるのはドナルド(トランプ大統領)だけだ」と持ち上げた。
しかし、トランプ大統領は同年5月、北京を訪れて習近平国家主席と会談。ロッキード社の航空機やアメリカ産農産物の対中輸出などで合意した。アメリカは自国の利益を優先し、同盟国である日本の頭越しで中国と接近している。
高市総理は台湾有事発言を撤回することはなく、中国に対して理解を求めるような動きもみせていない。むしろ、「対中強硬論」を続ければ「日本国内では保守派の支持を強め、求心力が増すという計算も働いた」と日本政府の関係者は証言する。
ただ、高市流ポピュリズムの特徴は、極端な政策は打ち出さない点だ。消費税については、税率の大幅で恒久的な引き下げではなく、食料品に限定した税率の2年間引き下げにとどめている。中国に対しても、台湾有事発言に踏み出したものの、厳しい対中批判は封印している。財政や外交でジワリとポピュリズムの政策を打ち出し、「人気取り」の材料とする手法は巧妙ともいえる。
ポピュリズムの政権運営には限界も
長丁場の特別国会を終えて、高市総理は政権の態勢を立て直し、新たな課題に取り組むことになる。
当面は物価高対策を進めるとともに、27年度予算案編成に向けた作業が始まる。まず、食料品の消費税減税に向けた財源確保が課題となる。
さらに難題なのが、防衛費の増額だ。高市総理は年末の予算案編成に向けて、国家安全保障戦略など安全保障関連の3文書を改定すると表明。アメリカのトランプ大統領が防衛費の対GDP比を現在の2%程度から3.5%程度に増やすよう求めていることなどに合わせて、3文書でも防衛費の増額を明示する考えだ。
その場合、現在は年10兆円程度の防衛費を15兆円以上に増額する必要がある。財源はどうするのか。防衛費という恒久的な支出に対して赤字国債の増発で対応するわけにはいかないから、何らかの増税は避けられない。所得税や法人税などが対象となるが、政府・与党内からも反発は必至だ。
トランプ大統領との「蜜月」をアピールしてきた高市総理としてはアメリカの要求を受け入れざるを得ない。一方で、日本国内で防衛費増額のための増税を求めるのは極めて困難である。財政ポピュリズムでは済まない事態にどう対応するか。高市総理の真価が試される。
11月には中国・深圳でAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳会議が予定されている。高市総理の台湾有事発言以降、中国側が日本に対して「新型軍国主義」という批判を強めているなか、APECでの日中首脳会談が実現できるかどうかが焦点となっている。
仮に首脳会談が開催されないようだと、日中の関係悪化はさらに続くとみられ、日本経済への影響も懸念される。対中強硬姿勢で日本国内のナショナリズムを政権への追い風とした高市総理だが、関係改善の道筋をどう描くか、ここでも外交手腕が問われる。
高市総理は、自民党役員の任期切れとなる9月までに内閣改造・党役員人事に着手し、消費税減税や防衛増税が控える秋の臨時国会や年明けの通常国会に向けた態勢を整える。
「初の女性総理」への人気と、財政・外交のポピュリズムで高支持率を維持してきたが、皇室典範の改正などで、高支持率に陰りが出てきた。それでも、消費減税などで人気取り政策を続けるのか。負担増や既得権益の見直しなど国民にとって「苦い薬」も示す方向に転換するのか。高市政権が重い決断を迫られる日は遠くない。
〈執筆者略歴〉
星 浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト・TBSスペシャルコメンテーター
1955年、福島県生まれ。
79年に朝日新聞入社、85年から政治部。総理官邸、自民党、外務省などを担当。ワシントン特派員、特別編集委員などを歴任。
2004~06年、東京大学大学院特任教授。
16年に退社し、TBSへ。「NEWS23」キャスターやコメンテーターを務める。
著書に『自民党幹事長』(筑摩書房)、『官房長官 側近の政治学』『永田町政治の興亡』(いずれも朝日選書)など。
【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。