「老化スピード」は食品で変わるのか 森永乳業が日本初の臨床試験結果を発表
森永乳業は最新の研究発表会を7月27日(月)に開催し、ビフィズス菌BB536の摂取を含む生活習慣の改善が、ヒトの老化スピードを抑制する可能性について、日本で初めて臨床試験により確認したと発表した。
本発表会では、同社のバイオティクス研究所長である小田巻俊孝氏による研究報告を中心に、老化研究や腸内環境研究に取り組む京都府立医科大学の内藤裕二教授が登壇し、老化を科学的に制御する「ジェロサイエンス」の最前線について解説した。

現代社会において、加齢(暦年齢の増加)は避けられない現象だが、生物学的な意味での「老化」には個人差があり、科学的な介入によってその進行速度を制御できる可能性が注目されている。内藤教授によると、近年の老化研究は「ジェロサイエンス」と呼ばれ、がんや代謝疾患などの疾患を個別に叩くのではなく、それらの共通の基盤である老化そのものにアプローチする考え方が主流となっているという。

その評価指標として、DNAのメチル化状態から算出される生物学的年齢(エピジェネティック・クロック)が活用され、特に今回の試験で用いられた「DunedinPACE(老化速度)」は、現在の生物学的な老化の進行速度を、DNAメチル化情報から推定する指標である。

小田巻氏が報告した臨床試験は、BMI25以上の50~74歳の日本人男性48人を対象とした。参加者を、ビフィズス菌BB536配合のビヒダス プレーンヨーグルト(1日100g)の摂取に加え、週3回以上のウォーキングや過剰な間食の抑制といった生活習慣の改善を行う「介入群」と、通常通りの生活を維持する「非介入群」の2群に分けた。

12週間の介入後、DunedinPACEを用いて老化速度を測定したところ、介入群では非介入群と比較して、老化速度を示すDunedinPACEが約2.3%有意に低下した。この2.3%という数値は、米国で実施された2年間にわたる25%のカロリー制限試験の結果に匹敵する効果である。研究チームは、12週間という比較的短期間の介入で指標に変化が見られた点に注目している。

解析の結果、BMIの変化や運動頻度の変化そのものと老化速度の低下には明確な相関が認められなかったことから、ビフィズス菌BB536配合ヨーグルトの摂取が、指標の低下に関係した可能性がある。小田巻氏は、この老化抑制の背景にある作用メカニズムとして、主に「腎機能関連代謝産物の変換」と「慢性炎症の制御」の2点を挙げた。

第一のメカニズムは、アミノ酸の一種であるトリプトファンの代謝に関するものである。大腸菌など腸内の特定の細菌はトリプトファンから、腎臓に負担をかけ全身の疾患を誘発する尿毒素(インドキシル硫酸)の元となる「インドール」を生成する。しかし、ヒトの腸内に適応したビフィズス菌(HRB:Human-Residential Bifidobacteria)は、このインドールを、腸内細菌叢の改善やバリア機能の向上、抗炎症作用を持つ有用物質である「ILA(インドール-3-乳酸)」へと変換する能力を持つ。
実際に試験管内および臨床試験においても、BB536の摂取後、インドールの減少とILAの増加との間に負の相関が認められたという。
これにより腎機能への負担が軽減され、全身の組織で起こる炎症や酸化ストレスの増悪が抑えられた結果、老化速度を示す指標の変化に関与した可能性があるという。

第二のメカニズムは、老化を進行させる主要な要因の「慢性的な炎症反応」の制御である。加齢に伴い、体内では微弱な炎症が持続しやすくなり、これが全身の健康に悪影響を及ぼす。森永乳業の研究では、ビフィズス菌BB536の成分が免疫細胞(単球)にあらかじめ働きかけることで、その細胞の「性格」を変化させることが明らかになった。
これにより、その後に細菌などの刺激を受けても、過剰な炎症性物質を産生しにくい穏やかな状態へと免疫細胞を導く(教育する)ことができる。単に炎症反応を抑えるだけでなく、免疫細胞そのものを炎症を起こしにくい性質へと変化させる点について研究チームは、老化に伴う慢性炎症の制御につながる可能性があるとみている。

ビフィズス菌は、長い進化の過程でヒトの腸内環境に適応してきたと考えられている。内藤教授が指摘するように、健康長寿の条件には身体活動や適切な食事、社会的つながり、そして個々人の生きがいなどが挙げられるが、今回の結果は、ビフィズス菌BB536配合ヨーグルトを取り入れた生活習慣改善が、老化速度を示す指標に影響する可能性を示した。
食品による老化制御は、単なる寿命の延長ではなく、健康寿命の延伸という社会的な要請に応える有力な手段となる。今後、ビフィズス菌単独でのさらなる効果検証や、詳細なエピゲノム解析が進むことで、日常生活における老化制御の実用化がより一層加速することが期待される。