【大相撲】大関・霧島が“三度目の正直”へ 混戦の秋場所で「綱とり」再挑戦、求められる“14勝以上”

大関霧島(30)が13日初日の秋場所(東京・国技館)で「綱とり」に再挑戦出来ることになった。7月の名古屋場所(IGアリーナ)で自身2度目の横綱昇進へ挑戦した霧島は、12勝3敗で安青錦(22)、熱海富士(23)との優勝決定ともえ戦まで進んだ。だが、結果は2力士に完敗。昇進を逃した。だが、番付編成を預かる審判部の浅香山部長(元大関魁皇)は「12勝したのは大きい」と述べ、綱への挑戦権は引き続き継続中であるとの認識を示した。
安青錦が3度目の賜杯を抱いた千秋楽。優勝決定後、ともえ戦で連敗した霧島の昇進に関して「来場所の成績次第か」と報道陣に問われた浅香山部長は、「あるでしょうね。内容、結果、トータルで見て」と断言。ただし、「優勝は絶対」と話し、「ハイレベルの優勝を求めるか」の質問には、「もちろん。気持ちを切らさずに相撲を取り続けて欲しい」と要望した。
ともえ戦は主役に返り咲く最後のチャンスだった。1差で先を行く安青錦が本割で熱海富士に敗れて3力士が3敗で並んだ。逆転優勝、または勝ち方次第では遠のいていた横綱を手繰り寄せられるかもしれなかった。1人が2連勝するまで続く3人での争いは、抽選の結果、最初に熱海富士と対戦することになった。8日目には懐に入って押し出している相手だ。
しかし、この日は勢いに乗る巨漢197㎏の圧力をまともに受けてしまった。下がりながら両差しを果たしたものの、勢いを止められない。俵に詰まるとそのまま押し出された。希望が薄れた。「万事休す」と思われた。それでも、優位に立った熱海富士が安青錦に敗れて、もう一度、賜杯を手にする可能性が生まれた。相手は手負い。13日目には攻め急いだ感じで逆転されていた。今度は安青錦に踏み込まれて左下手、頭を付ける態勢を許した。万全ではなかったが、霧島は右上手をがっちり引いた。差し込んだ左から相手を起こせば勝機はあったはずだ。
が、ひと呼吸置いた瞬間、先に攻められた。痛めていた左足で外掛けを仕掛けて勝負に来た安青錦に、気迫負けしたかのように寄り切られた。結局、この決定戦2番は持ち味をみせる場面はなし。「夢」はもろくも打ち砕かれた。
戻ってきた支度部屋で、まげを直してもらいながら大汗をかいた顔をしかめた。決定戦は5月の夏場所でも若隆景(31)にいいように取られている。「何もいうことはありません。(決定戦で負けるのは)2度と経験したくない思いでしたが、きょうも何も出来なかった」。巡ってきたチャンスを活かせなかった悔しさ。それと、先手で攻められなかった己の未熟さに怒りさえ、感じているように映った。
大関復帰を果たした夏場所も12勝で優勝同点だったが、他の横綱、大関陣が休場しており、白星は関脇以下からのもの。そこで横綱昇進への条件としては、「高いレベルの優勝」を求められて臨んだ場所だった。
序盤は安定感に力強さが加わった印象を受けた。これまで四つ身の上手さが目立つ相撲だったが、初日にはその後に2横綱に土を付けることになる藤ノ川(21)を右ひじからの突き一発で押し倒した。3日目は、これも翌日に大の里(26)から金星を挙げる押し相撲豪ノ山(28)の出足を受け止め、押し出した。先場所まで八角理事長(元横綱北勝海)に「もっと圧力をみせないと」と言われていた注文に応えてみせた。
敗れた3番も完敗は5日目の平幕平戸海(26)戦だけだった。この時は立ち合いに攻め込まれて引き、一方的に押し出された。言い訳のしようもなかった。だが、9日目の平幕美ノ海(33)戦は攻め込んだ土俵際で相手の突き落としに一瞬早く手をついてしまった惜敗。物言いがついたが、軍配通りに。さらに痛かったのが終盤13日目の2敗同士の首位対決で安青錦に敗れたことだ。立ち合いから踏み込んで攻めたものの、タイミングの良い肩透かしに体が一回転してしまった。
今年の初場所からの勝ち星は11、12、12、12勝。堅実さは横綱、大関陣の中では随一。3度目の優勝のあとは優勝同点が2場所続く。審判部が綱とり継続を認めたのは、この安定感があるからだろう。名古屋場所ではこれまで一度も勝てなかった大の里に11戦目で初勝利し、琴桜(28)にも勝った。14日目の豊昇龍(27)戦は相手の突然の休場で不戦勝となったが、その日「ここまで来たら、勝負したかった」と言ったのは本音だと思う。
しかし、それでも最後の勝負所では勝ちきれない印象がつきまとう。
この2場所の決定戦のほか、優勝した春場所も1敗で14日目を迎えたが、霧島は安青錦に敗れて2敗に。3敗で追う豊昇龍と琴勝峰(27)もともに敗れるという、「負け、負け、負け」の展開で優勝が決まった。千秋楽も敗れて連敗で賜杯を抱いた。優勝争いに絡み続ける勝ち星と、稽古熱心さ、真面目さの評価は高いが、「もう横綱だ」という声が挙がらない理由はここにある。
今年に入っての両横綱の不振も、霧島の昇進問題にも大きく影を落としているように感じる。最高位の今年の最も多い勝利数は春場所の豊昇龍の11勝。「安易な横綱昇進は望ましくない」という空気が角界の内外にあふれている。霧島も今場所は平幕の2力士に敗れたが、豊昇龍、大の里も、共に金星を二つずつ配給した。「優勝もできず、平幕力士にもよく星を落とすような横綱は欲しくない」。そんな声は、名古屋でさらに強くなったように思う。
来場所、協会側の求める「高いレベルの優勝」と言われるのは、まだ霧島が達成したことのない14勝以上での賜杯になるだろう。すなわち全勝か1敗だ。本人を除く過去6人のモンゴル出身大関はいずれも横綱になっているが、その昇進例を見ると、朝青龍は14勝1敗での連続優勝。続く白鵬は起点の場所は13勝2敗だが、次は全勝で連続優勝。日馬富士は15戦全勝を2場所連続。ここまでの3人は全て連続優勝して、文句なく「綱」を射止めた。
一方、霧島の師匠である音羽山親方の鶴竜は14勝での優勝同点のあとに14勝で優勝した。照ノ富士は12勝3敗での優勝のあと、白鵬との全勝対決に敗れた14勝での優勝次点で昇進したが、その起点になる場所の前に関脇で優勝している。ここまでの5人は昇進前2場所のうち、いずれかは14勝以上をマークしている。
そこに届いていないのが豊昇龍だ。こちらは起点の場所が13勝の優勝次点で次が12勝の優勝。本人は未だに14勝を挙げたことがない。一人横綱だった照ノ富士の引退と重なり、機運が高まったのが幸運だったといえるだろう。ちなみに大の里は12勝、14勝の連続優勝で昇進している。
自己最多が13勝で、まだ手の届かぬ14勝を目指して3度目の挑戦となる霧島に必要なのは、「依然、運がある」と思う気持ちの切り替えではないか。最も勢いのある安青錦もこれまで13勝以上したことはない。混戦は続いている。チャンスはある。
(竹園隆浩/スポーツライター)
※写真は名古屋場所