中島佑気ジョセフ「練習で400mは絶対走らない」オリンピアン石川佳純が驚く“世陸ファイナリスト”の練習【アジア大会】

9月19日に開幕するアジア大会愛知・名古屋(9月19日~10月4日)の陸上男子400mの代表、中島佑気ジョセフ(24、富士通)。中島が歴史を塗り替えた瞬間、それはまだ記憶に新しい、昨年9月、34年ぶりに東京で行われた世界陸上。連日満員の国立競技場で男子400mに出場した中島は34年ぶりの偉業を達成した。予選で44秒44の日本新記録を出し準決勝に進出した中島。準決勝、ラストスパートをかけた最後の直線で6位から一気に4人を抜き去り2位でフィニッシュ。1991年高野進さん以来、同種目日本勢34年ぶりの決勝へ進み、過去最高の6位入賞を成し遂げた。
アジア大会の代表となった中島の強さの秘密に、元卓球日本代表でTBSスペシャルアスリートアンバサダーの石川佳純さんが迫った。
石川さん:はじめまして、大きいですね!テレビで見ていたより大きい!
まず、最初に石川さんが圧倒されたのは中島の大きさ。
中島:そうですか? 結構意外とほっそりしてるなって言われること多いんですけど。(身長は)191cmです。
Q.2人の腰の位置は、どのくらいですか?
石川さん:(腰の位置が)違いすぎて!え~!(笑)
400m、練習では走らない
中島が専攻する400mは、トラック1周を全力疾走する“究極の無酸素運動”とも呼ばれる過酷な種目。“人間が全力で走り切れる限界の距離”に挑戦する中島に、石川さんが素朴な疑問をぶつけると意外な答えが返ってきた。
石川さん:400mは今日は走らないんですか?
中島:練習で400mは絶対走らないです。
石川さん:え!? そうなんですか?
中島:キツすぎて。
石川さん:イメージですけど400mはすごくキツいから練習で5本走ろうみたいな。
中島:いや、もうぶっ倒れますよ!(笑) 結構スパルタなこと言いますね!(笑)
日本記録保持者、そして“世界6位”の中島から発せられた衝撃的な事実。なぜ練習では400mを走らないのか、石川さんが真相に迫った。
石川さん:試合の時にいきなり400m走るとペース配分とか難しくないのかなっていうのと、後半がすごく速いイメージだったんですね。東京世界陸上とかの。そこのペース配分もいきなり本番で不安にならないのかなって思うんですけど。
中島:確かにそうですよね。練習だと150mとかしかやらない時もありますし、今日みたいな、やって250mとかまでなので。確かにそういう風に言われてみれば『なんで心配にならないんだろう』って感じなんですけど。その150mとかをやる中で、どうやったらそれを400mに繋げるかっていうのを考えるのもまた楽しいですし、あとは結局最後は『行ってこい!』みたいなとこはあります!(笑)
石川さん:行ってこい?(笑)
中島:とりあえず250mまでは練習通りに走って、最後150mは、行ってこい!みたいな感じです(笑)本当、日によってすごい250mを練習通りに行って、ラスト150mになった時にめっちゃ力残ってるみたいな時は本当に後半強かったりする。それがやっぱ東京世界陸上の時だったんですけど。調子とかによっては250m走ってラストの能力がちょっと落ちてたりすると、そこから全然きつくて走れないみたいな時もあるので。最後はもちろん気持ちもありますし、その時の運とか風とかもありますし、走ってみないと分からないっていうところがまた面白いですね。走る前は不安なんですけど、ちょっとやってみないと分からないみたいな。最後は本当に“出航”してみないとわかんない(笑)どういう風に最後自分に波が、風が向くかっていうのは分からないのが、冒険チックで面白いところかなと。
練習は“質を求める”母校独自のウォーミングアップ
ハードな種目だからこそ“400mを走りこむ練習”ではなく、“質を求める練習”を行う中島。その一つが母校・東洋大学がアメリカの大学から取り入れたウォーミングアップだ。両壁一列に片足立ちで整列し、笛が吹かれると一斉に、走るように足を回転させる。これは太ももの付け根にある腸腰筋を鍛え、脚の回転力アップを図るトレーニング。その速さと勢いに見学した石川さんも驚いた様子。
石川さん:速い! スピード感が・・・。
中島:せっかくなので、よかったら我々のトレーニングを一緒にやりませんか?
石川さん:いいんですか!?お願いします!できるかな・・・
石川さんも実際に挑戦してみることに。
石川さん:こっち(の右足)もつま先立ちでしたよね?・・キツッ!!
元卓球日本代表、オリンピックメダリストの石川さんはすぐに習得。さらに筋肉の使い方も合っていることに中島も絶賛。しかし、日本トップ選手のウォーミングアップとだけあって、さすがの石川さんも最後は根をあげた。
石川さん:ここ(腸腰筋)がやばい!
中島:腸腰筋は陸上でめっちゃ大事なので。
石川さん:じゃあ合ってますか?
中島:めっちゃ合ってます! さすが再現能力高いですね。
石川さん:ほんとですか?ありがとうございます!最初のイメージはひたすら走ったりするのかなと思っていたんですけど、こうやって脚の回転を速くしていく色んな練習があるんだなと知りました。
“世界のトップに入る”ために前半からのスピード強化
東京世界陸上でラストスパートで脅威の追い上げを見せた中島が今、力を入れているのは、前半からのスピードアップ。強化の一環として、200mのレースにも出場していると話す。
石川さん:世界陸上が終わった後に、さらにもう一歩上のレベルに上がるために、自在にレースを、前半でスピードを出して。後半も速いけど、さらに(スタートから200m付近までの)前半で勢いを出すということを伸ばしていきたいというのをおっしゃっていましたけど、そのために今ってどんな練習をされてるんですか?
中島:自分の苦手なスタートの部分を改善するっていうところとかもそうですし、割と後半に関しては結構自信あるので、持久系の部分っていうところはもう一旦置いておいて、スピードであったり、動き作りのところをどんどん固めていって。やっぱり前半型のレースにするためには、最初のスタートからスムーズに出て、高いスピードで200mを通過する必要があるので、そういったスピードの部分、自分が苦手なスピードの部分っていうのを中心的に取り組んでます。
東洋大学時代から中島を指導し、世界に押し上げた東洋大学の梶原道明総監督にも石川さんは話を聞いた。
石川さん:東京の世界陸上で大活躍でしたけども、その要因は。
梶原総監督:トップ(スピード)よりもちょっと下のところのスピードを維持する能力っていうのが高い。日本の中でトップにはいたんですけど、でもそれだと世界の中ではどうしても遅れてしまうので、そのペースはあえて乱さないで、前半もうちょっとスピード出して行けるようにならないかなと。スピードを出すトレーニング、力をもっとうまく使うためのトレーニングを、(去年の)7月から8月いっぱい、だいぶやったんですよ、そういう基礎トレーニングを。それで地面の力を効率よく伝えられるような動きが継続できるようになって、元々持っている能力がそれでより活かされて、前半はちょっと遅れ気味なんだけれども後半ぐーっと出てくるような、そういうようなレース展開の中で、ああいう結果になったかなと。
梶原総監督:ただ、あれからもう一つ上に上がっていくためには、前半からもう少し前のほうでレースが展開できるようにならないと、世界のトップの中にはなかなか入っていけないので。そうなるためのスピードは上げたいねっていうのが今年1年かけてスピードが上がる、あるいはスピードの上がる動きをきっちり作るっていうことが今年の狙い。やっぱり試行錯誤しながらなかなかうまく簡単にはいかないですけど。
石川さん:後半がすごく強いイメージがあって。でもさらに前半のスピードを上げて世界のトップへ。
梶原総監督:(中島なら)前半スピードを上げようと思えば上げられるんですよ。でもその分頑張らなきゃいけないから、そこまで頑張らなくてもいけるようにしたいねっていう。そうすると起こりがちなのが、力を出さないっていうことにテーマを置いてしまって、スピード出さなくなっちゃったりしてうまくいかないってことがあるんで。『絶対的にここのスピードは出そうよ』と。
石川さん:難しいですね、その力の調整が。
梶原総監督:なかなかニュートラルには人間はできないので。一歩一歩の中で誰もがブレーキをかける局面と加速をする局面、一歩の中で誰だってあるんだけれども。その中でブレーキをかける局面をできるだけ小さくできると、いいかなって。
課題克服へ、20秒89の200m自己ベスト更新で今季シーズンイン
約3週間後に迫ったアジア大会に向け1年をかけて培ってきた成果は着々と芽が出始めている。今年4月にアメリカのカリフォルニア州ウォルナットで行われた「マウントサック・リレー」に男子200mで出場した中島。今シーズン初戦となったこの試合で、追い風1.9mの好条件で自己ベストを大幅に更新する20秒89を記録した。32年ぶりの自国開催となるアジア大会へ、課題克服へのピースは揃い始めている。
石川さん:近くで見たら音も聞こえるし迫力がすごいですね。テレビと感じるスピード感が違う。母国で開催される大会で、活躍することでさらに注目度も上がってくるかなと思うんですけど日本で大きな大会があることの意義は、どう感じてますか?
中島:やっぱり自分の生まれ育った場所で輝けるっていうのは、競技者としてこの上ない幸せですし、やっぱり普段応援してくださってるスタッフであったり、友達であったり、家族っていうのも、前回の東京世界陸上もたくさんの方が見に来ていただいて、その前で自分が一つ目標を達成したっていう姿を見せられたっていうのは、自分の人生の中でも本当に大きい意味を持つ出来事ではありましたし、それがまた今回、アジア大会っていう機会でチャンスがあるっていうのは、本当に自分にとってすごいモチベーションになっているところではあります。
石川さん自身も経験したことがある母国開催の国際大会。経験者だからこそ意気投合する部分もある。
石川さん:やっぱり全然違いますよね。応援もやっぱり日本でやると倍というか、すごいホームを感じますし。
中島:そうですね。本当に見ていただいて、応援されているっていうその感覚がめちゃくちゃ自分の中で力になるので、あの感覚をもう一回味わいたいですね。楽しみです。
石川さん:アジア大会、400mでの目標を教えてください。
中島:やっぱり(東京の世界陸上で)決勝に残ったっていうファイナリストとして、今回は挑戦者ではなく王者として挑むような形になるので、しっかりその中で圧倒的な力で優勝するっていうところと。やっぱ勝ち切る力っていうのはすごい大切だと思うので、自分がレースでも引っ張っていって、そのまま勝ち切るっていうそういったレースをしたいですね。アジアをピークに向けて、自分の今年の目標とする44秒30っていうところも見据えて、名古屋でまた地元・日本、ホームっていうところでまたちょっと「ワッ!」と沸かせられるような走りができたらなと思います。