【大相撲】体重125kgの小兵、21歳・藤ノ川「押し出して勝てる相撲増えた」 関脇昇進の秋場所で11勝の新スターが九州場所に挑む

小兵ながら、今の角界で一番土俵を暴れまわっている印象があるのは、幕内最年少、21歳の関脇藤ノ川だろう。9月の秋場所では、新関脇で序盤は2勝2敗だったものの、そこから自身初の幕内6連勝するなど、11勝4敗で2度目の敢闘賞を受賞。新三役の壁を乗り越え、終盤は優勝争いにも顔を出して、ファンの心を鷲づかみにした。8日開幕の九州場所(福岡国際センター)では東の関脇で、土俵に上がる。
秋場所千秋楽の土俵入り。しこ名がアナウンスされて西から土俵に上がると、館内からは一段と大きな拍手が巻き起こった。京都府出身力士としては江戸時代1828(文政11)年の緋縅(ひおどし)以来、198年ぶりの新三役となる若武者は、125kg。この場所では幕内42力士の中で朝紅龍(28=122kg)、朝翠龍(26=120kg)の兄弟に次ぐ3番目の軽量だった。
125kgの小兵が198kg熱海富士に逆転勝ち
だが、その存在感は日に日に大きくなっていた。対戦相手は、この場所で大関昇進に挑んだ幕内最重量198kgの熱海富士(24)だ。三役そろい踏み直後の東西関脇対決は、両差しを果たしたが、巨漢の熱海富士に外から極められて一気に寄られた。だが、俵に足がかかってからが藤ノ川の真骨頂だ。重心をずらすようにして、右からのすくい投げ。得意の逆転勝ちで大活躍した場所を締めた。
「(相手の動きは)見えていたので、余裕はあった。敢闘賞?これまでの受賞はいつも、(千秋楽に勝つことの)条件付きだったので、今回は気楽に取れた。2桁勝利は出来すぎ」。新入幕した昨年の名古屋場所は6勝5敗から不戦勝を合わせて4連勝。千秋楽に10勝目を挙げて初の敢闘賞を獲得。今年3月の春場所の技能賞、7月の先場所の殊勲賞はともに7勝7敗から勝ち越して三賞を手にした。
「押し出して勝てる相撲が増えた」
秋場所を振り返り、自らが最も喜んだのが目立つ土俵際の逆転で勝つ華やかな相撲ではなく、前に出て勝利する内容が出てきたことだ。「押し出して勝てる相撲が増えた。これからも前に出られるように頑張る」。11勝のうち、押し出しが4番、押し倒しが1番、寄り切りが2番あった。確実に地力がついてきている証拠。それが何よりうれしかったようだ。
11日目に大の里(26)に敗れ、先場所まで続いていた戦後初の快挙である初顔からの横綱戦連勝(不戦勝を除く)は「4」で途切れた。だが、代わりに3大関を撃破した。まずは6日目の安青錦(22)戦。今や2横綱以外では角界一ともいえる実力のある相手に踏み込んで右を差したが、左上手を取られて頭を付けられた。だが、それでも闘志は衰えない。
すくい投げで大関の上体を起こすと、右を深く差し込み、そのまま寄った。寄り切り。正面から攻め切った。足を痛めているとは言え、低く組み付く体勢を作った安青錦が逆転されるのは珍しい。
9日目は琴桜(28)だ。身長で12cm、体重で52kg上回る相手に立ち合いで攻め込まれたものの、土俵を伝って回り込む。土俵中央で組み合うと、今度は相手の出足を利用した上手投げで仕留めた。最後は12日目の霧島(30)戦。時津風一門の先輩で稽古場ではなかなか勝てないという相手を、いなして後ろに着くと、そのまま休まない。向き直った相手ののど元に左腕を押し当てるようにして走り、土俵下へ押し倒した。「休んだら、相手の相撲になってしまう」という信念そのままの取り口だった。
「11勝は立派。8勝で精いっぱいと思っていた」という八角理事長(元横綱北勝海)も、自然と顔がほころぶ。「自信をつけているなぁ。元々、横綱、大関に気後れしないタイプだが、立ち合いに当たる一発があるから、大きい方もゆっくりと見ていけない。『良い相撲を取ってくれるだろう』というお客さんの期待通りでしょう。稽古に裏付けされている。稽古でやってないことは出来ない。けがが心配だね。いい時こそけががある。気を付けて欲しい」
「同じ成績を取れば、そういう声も出てくるでしょう」
伊勢ノ海部屋伝統のしこ名である藤ノ川は、現在6代目。元々は父の元幕内大碇から1字もらった「若碇」を名乗っていたが、新入幕に合わせて改名した。このしこ名は先代師匠である元関脇の4代目が有名だ。
昭和の時代に活躍した横綱柏戸の弟弟子で、体重は100kg前後だったが、素早い動きで「今・牛若丸」の異名をとった。殊勲賞1回、敢闘賞2回、技能賞4回を獲得した。5代目は学生、アマの横綱を2回ずつ獲得した服部だったが、腰痛のため、三役には届かなかった。そして、その4代目の番付に追いついた。場所中、国技館に観戦に訪れた4代目から激励を受け、さらに闘志を燃やしたという。
三役、しかも関脇での11勝は、次の番付を見据えた時に「三役で3場所33勝」という大関への足掛かりともいえる。だが、本人にはまだその気はない。「関脇になったばかり。考えていませんよ」と笑う。番付編成を預かる審判部の浅香山部長(元大関魁皇)も、「元気な相撲をとった。九州場所、同じ成績を取れば、そういう声も出てくるでしょう」と話していた。
藤ノ川は番付運には、ここ最近恵まれている。秋場所の関脇昇進も、7月の名古屋場所で8勝止まりだったのに4関脇、2小結のうち、優勝した関脇安青錦が大関に復帰し、熱海富士は東の関脇をキープしたものの、残りの4力士(けがの若隆景は全休)が負け越し。両横綱に土を付けたこともあり、東の前頭筆頭から抜擢された。その名古屋場所も、実は5月の夏場所で同じ東前頭筆頭で7勝8敗と負け越したが、周囲の成績で据え置かれていた。そして秋場所では東にいた熱海富士が8勝に終わり、直接対決で勝って勝ち星の差を4にしたことで、異例だが勝ち越している熱海富士が西に回り、上には横綱、大関しかいない東の関脇に座った。
多くの力士が跳ね返される新三役の場所を、入幕後3度目の2桁勝利で飾った。11勝は自己最多だ。13日目までは3敗で優勝争いにも加わった。ここで相撲巧者の平幕美ノ海(33)に敗れて脱落したが、ファンへのアピールは十分に出来たと思う。
部屋で指導する元関脇勢の春日山親方は「稽古場も、本場所も常に必死で全力。それが良いのだと思う。九州場所は、秋場所以上に相手も立ち向かってくる。それは本人も分かっていること。考える前に体が動くよう、追い込んで稽古する。それに尽きる」と後輩にアドバイスを送る。角界にまた1人現れた新しいスターから、目が離せない。
(竹園隆浩/スポーツライター)