![地方公共交通の未来は!? ~両備グループ 小嶋代表に聞く~【Bizスクエア】](/assets/out/images/jnn/1036220.jpg)
鉄道やバスの利用者の減少や運転手不足を背景に、全国各地で路線廃止の動きが相次いでいる。どうしたら、公共交通の路線廃止の動きに歯止めがかけられるのか。地方公共交通の再生請負人といわれる両備グループの小嶋代表に話を聞いた。
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「両備グループ」小嶋代表に聞く 地方公共交通の再生術とは!?
「目先の問題解決だけしていたら、地方公共交通の8割はなくなりますね」。地方公共交通の現状に警鐘を鳴らすのは、岡山県でバスや鉄道事業などを担う両備グループの小嶋光信 代表兼CEO。小嶋代表は和歌山県の和歌山電鐵や、広島県の中国バス、三重県の津エアポートラインなど、各地の公共交通の再生を手がけ、地方公共交通の再生請負人と呼ばれている。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
この和歌山電鐵が1つの大きな契機になりながら、全国の地方公共交通を救うソリューションの一つになっていくんじゃないかと思う。
両備グループは2005年、年間5億円の赤字だった和歌山電鐵 貴志川線の運行を、南海電鉄から引き継ぎ再建。2007年に日本初の民間鉄道会社のねこの駅長が誕生し、全国的に話題となった。
――大手の南海電鉄が音を上げた路線を、縁もゆかりもない両備グループが再生を手がけた最大の理由は?
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
1番の課題、公共交通の分析をしたら2000年、2002年の規制緩和後、それから国の制度も変わって競争が変わったことで大赤字になると、そこから物事が始まった。
2000年代、国の規制緩和により、交通事業への参入がしやすくなったが利用者の利益を守る一方、過当競争が起こり、老舗バス会社や鉄道会社が次々に経営破綻した。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
赤字企業が増えても事業が行われている。それがわからなかったので、まず実態の分析をしようと。「公設民営」というヨーロッパ型のやり方を、補助金に代わってやった場合にどうなるかと。
公設民営とは、国や自治体が車両や線路などを管理して、民間企業は運営のみを担う仕組みで、公と民の役割を完全に分けることで、責任の所在が明確になることが利点。
――「公設民営」とは?
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
おなじみなのは「上下分離」という言葉。「上下分離でいいのでは」という意見が多い。「公設民営と言わずに上下分離でいいのでは」と。これが大違い。
上下分離とは、鉄道などの事業で上部に当たる運営と、下部にあたる線路などの管理を切り離すこと。小嶋代表はこの運営部分を第3セクターにすることに問題があるという。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
民営(運営)を第3セクターにしてしまうと、公の鉄道に対する思いと民の思いは全く違う。民は経営にならないといけない。公は市民や国民のためになればいい。だから、経営にならなくてもいろんな要求をされる。
――上下を分離するだけでなく、運行の部分は完全に民でやった方がよいと。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
民がやって責任を持つと本当にこれを実態にやればかなりのところで生きてくる。ただ「公設民営」という手段だけで良くなるかというと、これは違う。
――その上にみんな努力がないとできない。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
それと同時に「公設民営」を支えているベース。これを国が根本的に変えないと、実はやってみたものの…で終わる。
人手不足による相次ぐ減便や廃線 解決方法はあるのか!?
――人手不足による減便や廃線が問題になっている。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
過度な競争をすることによって賃金が他産業よりも100万円下がった。たくさんの時間外(労働)をやったのにも関わらず、100万円下がった。ところが、何の手も打たれなかった。そこでどうなったかというと、新規に大型2種免許を取得する人は20年前の100人に対し、10人しか取得していない。100人抜けていったら、10人しか補充がきかないということ。再雇用で定年を延ばして、何とかごまかしながらやっているが、とんをついた瞬間に雪崩を切ったように路線がなくなってくる。どういう対策をするか、社会や国がやらないといけないことが放置されている。
――民間事業として、鉄道やバス事業が成り立つ地域は首都圏ぐらいか。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
人口密集地で、マイカーを使うよりも公共交通が便利なところだけが生き残る。大都市でも、大手でもJRが言っているのは「もう山手線しか儲かりません」と。鉄道でも、他は全部赤字もしくは儲からないが、全体をネットワークとして支えている。大手私鉄も一緒。全部黒字の路線かというとそうではない。
国土交通省によると、2022年度における乗合バス事業者の赤字の割合は8割を超えている。
――手を打たないと、公共交通機関が維持できない時代か。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
パンク寸前まで来ている。これが現実。今ならまだ手を打てるが、目先の問題解決だけをしていたら、地方公共交通の8割はなくなる。地方が滅びるのと一緒。地方は消滅するといわれているが、最初に消滅するのは地方交通。
――公共交通をどうやって維持していくのか。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
3つ大事なことがある。1つは、今まで公共交通とは名ばかりですよと言っていることを直さなければいけない。今度は利用者の利益は健全な供給者があってこそという法律を作らなきければいけない。先進国と同じように、交通目的税という交通財源をしっかりと取らないといけない。しかし、それを2つやればできるのかといえばできない。乗らないバスや電車を走らせても仕方ない。国民や市民の皆さんが、公共交通を乗る社会を作って、カーボンニュートラル、市民や国民の健康、地域の発展。そういうものをやるという社会問題にしていく。「法改正」と「財源の確保」と、そして「乗って残そう」という利用者の拡大をする活性化…この3つの施策を連動させない限りは、1個1個やってみても効果が出ない。
――公共交通がなくなり、移動の権利がなくなると基本的な人権が守られないのでは。
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
「国民の文化的な生活」のベースの一部に「自由な移動」、モビリティがある。人間は歩くこともできるが、近代社会の「文化的な生活」は、交通が保障されている社会というものを明示していると思った方が正しい。
――長年携わってきている、地方公共交通への思いは?
両備グループ代表 兼 最高経営責任者 小嶋光信氏:
この国を良くするためにどうしたらいいのか。我々は1事業をやっている。交通というのは全てのネットワーク。自分さえよければいいということにはならない。自分だけが助かるのではない。みんなが助からなければ自分も助からない。公共交通という小さな種の中に、地方が滅びるというものすごく大きな問題を物語っていることを理解してもらえれば嬉しい。
経営が厳しく、全国のJRローカル線、地方私鉄、バスで、路線廃止の動きが続出している。車両30両以上を保有する乗合バス事業者228のうち85.1%が赤字。また鉄道では210の事業者のうち、80.5%が赤字となっており「放っておけば8割がなくなる」という小嶋氏の発言に関する数字の裏付けでもある。
そこで小嶋氏は「公設民営」という方式を提唱している。上下分離方式と公設民営方式。どちらも事業の運営と施設資産の管理に分かれている。上下分離では第3セクターが関わるケースもあるが、公設民営では民間企業が運営。はっきりと役割を分けることが必要だと小嶋氏は話していた。
慶應義塾大学 総合政策学部教授 白井さゆり氏:
民間ができるところは、民間に任せた方が活性化しやすい。判断する人がたくさんいたら、いろんな対立もある。国がより地方のサポートをすることが大事。このままいくと若い人はどんどん大都市に行って、シニア層だけ地方に残ると、社会が機能せず、国の負担が大きくなるので、税金などを投入して、賃金もそれなりに払って公共インフラを維持するという発想が大事。国も財源が厳しく、いろいろ支払いも多いが、メリハリつけて、必要なところにはやっていく。特に公共交通は本当に国の大事なインフラ。優先した方がいい。
(BS-TBS『Bizスクエア』 3月2日放送より)