いまだにこうしたことが横行しているのか、と呆れました。日産自動車が下請け企業への支払代金を30億円も不当に減額していたとして公正取引委員会から勧告を受けたのです。
【写真を見る】日産が下請法違反、30億円を不当減額 時代の要請に真っ向から逆行【播摩卓士の経済コラム】
日産に下請法違反で公取委が再発防止の勧告
公正取引委員会は7日、日産自動車について、下請法違反を認定し、再発防止の勧告を行いました。日産自動車が2021年1月から23年4月にかけて、エンジンやバッテリーなどに使う部品製造を委託している下請け企業36社に対し、発注した代金から「割戻金」として一部を差し引いて支払っており、不当に減額した額は、30億2300万円にのぼります。下請法違反の勧告では過去最高額です。
下請法は、発注後に契約額を減額することを禁じており、こうした「割戻金」は下請け法違反にあたると認定されました。下請け企業が日産のような大手発注企業から「割戻金」の要請を拒否することは難しいので、違反認定は当然でしょう。
「割戻金」という名の減額は長年の慣行だったのか
23年4月と言えば、インフレを受けて30年ぶりの賃上げが実現し、下請け企業の価格転嫁を進めましょうと政府も旗を振っていた時期です。
そんな時まで不当減額を行っていたのだとすれば、日産による不当減額は果たしてこのケースだけだったのだろうか、また、他の自動車メーカーでは同様のことはなかったのだろうかと、疑問が沸いてきます。
日本経済新聞は「支払代金を割戻金の名目で減額する慣行は、日産の社内で長年続いていたという。同社は原価低減目標値を社内で設定しており、決算期前に駆け込みで減額を要請するケースもあった」と報じています。
賃上げと成長のために価格転嫁は重要
24年の春闘の真っただ中の現在、自動車を含め大手企業からは5%、6%と過去最高水準の賃上げ回答が相次いでいます。その賃上げを中小企業に広げて、日本経済の好循環を加速するには、下請けなど取引先企業の価格転嫁を認めていくことが必要条件です。
このため、政府も原材料費などのコストだけでなく、人件費(労務費)の上昇分も価格転嫁を認めるよう呼びかけています。大きなサプライチェーンの頂点に立つ自動車メーカーの責任はとても大きいのです。
今回、勧告を受けた日産のケースは、コスト上昇の価格転嫁を認めるどころか、自分たちの原価低減目標の帳尻合わせのために、不当で違法な価格減額を強要するもので、時代の要請に真っ向から逆行しています。
日産はコメントを発表したのみ
日産は1月に36社に減額分の全額を支払ったことを明らかにした上で、「大変重く受け止めています。再発防止策の徹底に取り組み、取引適正化を図ってまいります」とのコメント発表をしました。
しかし、記者会見などを行わず、経緯などについての説明を避けています。日本商工会議所の小林健会頭は「社会的な影響が大きい。トップが出てきて説明する責任がある」と、厳しく指摘しています。
「公正な取引」なしに「経済の成長」は実現しない
中小企業庁による価格転嫁に関するアンケート調査があります。
23年9月時点で、労務費を含めたコスト上昇分をどの程度価格転嫁できているかを聞いたところ、全体の平均は45.7%でした。業種別では、「自動車・自動車部品」は、44.6%と平均よりやや低く27業種中17位でした。
最下位は「トラック運送」の24.2%。ちなみに、下から2番目が「放送コンテンツ」の26.9%であったことも、明記しなければなりません。
全体平均でコスト上昇を半分も転嫁できていない現状は、中小企業による賃上げのハードルの高さをうかがわせる数字です。
価格転嫁を進めるためには、政府による「呼びかけ」だけなく、息の長い取り組みが必要です。何重にもわたる下請けが存在し、しかも系列化によって垂直統合されているという、日本的な産業構造も大きな要因だからです。下請法違反も、罰金は最大50万円です。「公正な取引」が当たり前の社会にするためには罰則強化などの態勢整備も必要でしょう。
日本経済の新たな成長ステージは、1度や2度の大企業の賃上げだけで実現するわけではありません。今回の日産による下請法違反は、その道のりの長さを改めて感じさせるものでした。
播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)