![物価と賃金の好循環も… 訪日客に沸くニセコは今【Bizスクエア】](/assets/out/images/jnn/1050307.jpg)
パウダースノーで世界的なリゾート地となった北海道のニセコでは、今、外国人観光客の急増で様々なものが値上がりしている。同時にアルバイトの平均時給など賃金が上がっている。物価と賃金の両方が突出して上がっているニセコの冬を取材した。
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訪日客に沸くニセコは今 物価と賃金 好循環の現場
北海道倶知安町にあるスキー場ニセコ東急 グラン・ヒラフ。この地域を訪れる観光客は年間300万人以上だが、このスキー場では、利用者の約8割が、外国人観光客。
ニュージーランドから来た観光客は「ニュージーランドにはパウダースノーがない」「こういう雪を見るのは初めて」と言い、カナダからの観光客も「パウダースキーができると聞いて来た」と話す。
外国人観光客の急増とともに注目されているのが、ニセコ価格。ゲレンデ内にあるレストランで販売している豚丼は1800円。さらに、カツカレーは2023年から400円値上げして2000円にしたが、イギリス人観光客は「普段はヨーロッパでスキーをしているけれど、ニセコの方がお得だと思う。今は円もかなり安いし」と言う。
オーストラリアからの観光客は「オーストラリアでは時給30ドルだけど日本に比べてすべての値段が2倍する。オーストラリアから来た僕にとっては全てが安く感じる」と言う。
別のイギリスからの観光客は「(円安で)来やすくなった。値段が安くなったのも理由の1つ。雪は最高だし、みんなフレンドリーで食べ物も良くて最高」と話す。
ニセコ東急リゾート 事業戦略部 マネージャー 栗田勲夫氏:
海外の人にとっては、物価水準も所得水準も日本とは違う。彼らにとっては安いと認識してもらっている。日本人の感覚だと、かなり強気な姿勢に見えると思うが、ニセコで事業を行っていくと捉えると適正。
値段が高いのは、食べ物だけではない。2022年にオープンした分譲タイプのコンドミニアム。オーナーはホテルとして貸し出すことも可能で、41平方メートルのワンルームタイプが約8000万円と高額だが、外国人から人気だという。露天風呂付きの4LDKで最大10人が宿泊できる部屋は、冬のシーズンは1泊28万8000円から。190ある客室はほぼ満室だという。
雪ニセコ ホテルマネージャー 田元美千子氏:
いま滞在している宿泊客が、次の年の分を予約している。1回ではなく毎月来る方だったり、冬に関しても12月に来てまた1月2月と訪れる方もたくさんいる。
インバウンド人気で、新たな需要と雇用が生まれるニセコ
新たな需要も出てきている。日本人が英語を学びにニセコに来る「ニセコ留学」。2013年にニセコ留学.comが始めた留学制度で、留学生は寮に住み込みながら、1日8時間程度、ネイティブ講師による英語の授業を受けている。ニセコに来た留学生は「ニセコは外国人の観光客が多いので、実践で使える英語も一歩外に出たら使えるし、常に言っていいほど英語を使える環境」。費用は宿泊費と授業料合わせて、1ヶ月あたり約25万円から。
留学生の数は、2021年は79人だったが、2024年は650人以上になる見込み。
別の留学生は「親にもすぐ時間もないので連絡できたりとか、海外留学に行くよりも安く来れたりだとか、そういう点が良い点」。
ニセコ留学.com 菅原ケイシー氏:
コロナが明けてから海外の方もどんどん増えて問い合わせも増えた。世界中の色々な国から、外国人がたくさん来て公用語が英語になっているのがニセコ。そういう環境は日本人からしても、国内で留学できるという理由になっている。
観光客に沸くニセコ。一方で人手不足が広がっている。倶知安町にあるトリフィートホテル&ポッドニセコでは、12月から3月までの繁忙期を乗り切るため、2023年の夏から複数の派遣会社にアルバイト募集を依頼し、20人の派遣スタッフを集めた。岐阜から来た3ヶ月間の短期アルバイトとして働く女性は「地元(岐阜)の時給とは400円くらい違う。同じ時間働いても500円とか400円の差が出るのはすごい」。このホテルが派遣会社に払っている時給は部署により異なるが、1800円から2000円。短期アルバイトには1日2食付きで、部屋は客室と同じ部屋を提供。さらに、契約満了まで働いたスタッフには達成手当を渡すなど、働きやすい環境作りを心がけた。先ほどのアルバイト女性は「(休みの日は)北海道は美味しい食べ物が多いので、美味しいものを食べに行ったり、旅行に行ったりしています。シャトルバスも出ているので、夜もどこか行くことも、仕事終わりにできる」とも話す。
トリフィートホテル&ポッド ニセコ 髙橋寛支配人:
間違いなく人手不足は起きている。今新幹線の延伸の工事だったり、コロナが明けてインバウンドの方も今の方も当然たくさんの方が来るということはホテル施設としてはたくさんの方を受け入れないといけないので、当然その分、人手の補強が必要になってくる。他の企業・ホテルによっては、折り込みのチラシを投函しているところもありますし、間違いなく他のホテル・企業との取り合いはあるし、まだ続いていくと思う。
ニセコの給仕・接客サービスの有効求人倍率は、全国の3.19倍より高い、3.70倍となっている。それに伴い、賃金も上昇していて、ニセコのアルバイトの時給は2023年12月時点で1552円と、1434円の東京都を上回っている。
スキー場から車で約15分。倶知安駅近くの商店街にあるスポーツ店「Boom Sports」ニセコのアルバイトの時給が上昇したことで、やむを得ず時給を1000円から最大1500円に引き上げた。店を経営する、有限会社ブームの滝口直久代表取締役会長は「倶知安町内には大学や専門学校もない。人手不足の関係で人が集まるか大変だったので、秋から一気に人を増やして時給を上げた」と話す。時給を上げた分は、電気代の節約や、朝の準備作業の人数を減らして、人件費の確保に努めている。
インバウンド効果による物価と賃金の好循環の兆し。
ニセコ東急リゾート 事業戦略部 マネージャー 栗田勲夫氏:
ニセコはこれからの日本の良いモデルケースだと思っている。海外の人たちにたくさん消費行動をとってもらって、日本人は少子高齢化があるので、消費行動に消極的になってる部分は当然あって、そこを補う意味で海外の人たちにはたくさん使ってもらう。それによって日本の働く人たちの賃金が上がる。日本の人たちもたくさんお金を使えるという世界ができることはすごく望ましい世界だと思っている。
好循環をもたらす 新たな経済圏とは!?
――日本の中に違った経済圏ができつつある。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
円安のせい。外国人にとっては「日本はデフレで安くていい」と。インバウンドは消費者を日本に輸入してくる。ところが輸入すると今度は二重価格が生じて日本人の給料では買えない。先ほどのカツカレーとか豚丼は、時給より高い。日本人の給料が低すぎるので、そういう二重価格ができることが問題ではないかという人も出てくると思う。
――生活に必要なサービスが提供できなくなる心配もある。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
日本人は割を食うというか、稼ぐために、我慢しなくてはいけない。昔、海外でそうだったように、消費者ごとの格差が非常に明確になるのが今後の日本の姿。
――インバウンドは5兆円を超えていてGDP1%近い消費額だが。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
5年後には2倍(10兆円)になるのではと思う。もう一つ問題は地域による偏りが非常に大きいということだと思う。
――訪日消費額の対名目GDPを都道府県別にみて、どれぐらい支出してるか比べると、京都が際立って高く3.47%。北海道もいいところにつけている。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
ニセコは北海道だが、まだまだ外国人の需要を取り込んでいる。京都や沖縄、東京、大阪、福岡、山梨も。
――地域的なばらつきをなくして、より地方にたくさんの人が来るようにするのが大事か。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野英生氏:
取り込めてない地域・都道府県は、これから5年間、取り込みに一生懸命ならないと、好循環の偏りが今のままで固定化してしまう。
――新たな経済圏が日本の中にいくつも出てくるというのが、これからの姿なのかもしれない。
(BS-TBS『Bizスクエア』 3月9日放送より)