能登半島地震の発生から1日で3か月を迎えました。今回の地震では、多くの集落が集団での避難を余儀なくされました。こうした集落への帰還や復興はどうなるのか。人口が減少する地域が抱える問題を取材しました。
【写真を見る】「やっぱり家が良い」避難所から“孤立集落”へと戻った女性(87)能登半島地震から3か月 いまだに8000人余の住民が避難生活【news23】
能登半島地震から3か月 「やるせない…」輪島市の焼け跡
須賀川拓 記者
「きょうは4月1日、発災からちょうど3か月が経ったところなんですが、まだこの朝市には、がれきがこのように高く積まれていて火災の当時の様子が生々と残されています。まだ、少し大きく息を吸い込むとすすの臭いが少ししますが、こちらには手向けた花が供えられています。まだ新しいですね」
3か月前、大規模な火災に見舞われた石川県輪島市。
知人を亡くした女性
「やっぱり、ここに来ると胸が痛くなりますね」
能登半島地震による死者は244人、住宅への被害は県全体で7万5441棟に上り、今も8109人の住民が避難生活を余儀なくされています。
朝市通りに住んでいた浅見真知子さん。自宅は、全焼しました。この日、大切な思い出の品を探していました。
浅見真知子さん
「これ、持って帰ろ。これそうや、これも、これもそう」
輪島市では、未だに3人の安否がわかっていません。
浅見真知子さん
「みっちょさん、どこにおるん…」
「やっぱり現実を見るとやるせなくて やるせなくて…」
「やっぱり家が良い」避難所から“孤立集落”へと戻った女性
元日に発生した地震では、多くの孤立集落が発生。
須賀川拓 記者
「ここ本来は道路があるんですけど、土砂崩れで完全に崩れてしまっています」
停電や断水などもあったことから、多くの住民が避難を余儀なくされました。
最大85人が取り残された輪島市西保地区で、集団避難が行われたのは1月17日のことでした。
自衛隊
「前進します。ゆっくりでいいんでー」
坂下敏子さん
「はーいはい。お願いします、ネコちゃん」
87歳の坂下敏子は、避難までの2週間を猫と一緒に過ごしていたといいます。
この日、住民は白山市内の避難所へと避難していきました。あれから2か月半。再び、西保地区を尋ねると…
須賀川記者
「坂下さんでいらっしゃいますか?」
坂下敏子さん
「そうです。2月6日に帰ってきた。ミルク(飼い猫)連れて」
坂下さんが西保地区に戻っていました。
坂下さん
「私はただじっとしとるのがいやね。なんでもね。避難所におったの、なかなか大変やった。帰って来てこうやってるから多分楽やわ」
ほとんどの住民が避難を続けていて、周囲は閑散とし、断水が続いているので洗濯物は用水路で洗います。電気も止まったままのため、日が暮れると懐中電灯の灯りで夕食です。
――避難所にいるよりこっちのほうがいいですか?
坂下さん
「避難所におっても、不自由のない三度の食事が色々とあっただろうし、ありがたいと思っていたけど、やっぱり家がいい」
坂下さんが西保地区に戻ってきたのには、2つの理由がありました。
ひとつは、避難先でバラバラになった愛猫・ミルクとまた一緒に暮らすため。もうひとつは、70年近く暮らしてきたこの土地に亡き家族が眠っているからです。
坂下さん
「やっぱりね、家は良い」
――家族と一緒にいる感じも
「そうね。だから、この人たちも私を守ってくれていると思ってね。ミルクと」
西保地区に戻り、大好きだった畑仕事も再開しました。ここで育てた野菜や果物は、朝市通りで売っていました。坂下さんを知る常連客は…
朝市通りの常連客
「品物も良かったし、来てくれるんだったら(野菜などが)ほしいくらいよ」
先が見えない厳しい生活を続けながらも、坂下さんはまた「あの日」が戻ってくると信じています。
――また朝市いけたらいいですね
坂下さん
「そうやね。楽しみやね。そうしたら何でも作ってね、楽しみ。買ってくれる人はいるし、みんな待っていると思うよ」
復興状況厳しく…「ライフラインが全て復旧しているわけではない」
小川彩佳キャスター:
VTRの中で坂下さんが、朝市が戻ってくるのを楽しみにされてましたが、その願いをどう叶えていけるのか、それが今後の課題になってきます。ただ、生活の再建はまだまだ進んでいない現状がありますね。
須賀川拓 記者:
そうですね、非常に厳しい状況です。この朝市でさえ、このような状況です。朝市で店を構えていた、塚本さんという女性に話を聞ききました。最初は力強い言葉を言ってくれました。「何としてもこれが復活するまで、私は生きていなくちゃいけないんだ」と。ただそのすぐ後に、「でもたくさんの人が亡くなってしまった」「これからどうしていいかわからない」という切実な思いを吐露してくれました。
特に、いま炊き出しは全部なくなってしまったそうです。「1日1回の炊き出しだけでも、そういったものが戻ってくれば、また力になるのに」というふうに話していました。
藤森祥平キャスター:
復興の足がかりすらまだ見えていない地域も多くありますね。今後について考えると、何を感じますか。
須賀川 記者:
今回の災害で特筆すべきなのは、能登町や輪島市、そして珠洲市といった大きな町でも、未だにライフラインが全て復旧しているわけではないことです。そういった課題もある中で、過疎地域・限界集落、そういったところではどうするべきなのか。大きな課題を私達は突きつけられている、と切実に感じています。
「元通り」か「切り捨て」か 限界集落の復興は?
藤森キャスター:
“限界集落”などをどう考えていくか。一番理想的なのは、「完全に今まで通り元に戻す」。ただ金銭的にも、労力的にも、かなり現実的に難しい。しかし、限界集落を切り捨てるのもよくない。そこで考えられるのが、「完全に今まで通り元に戻す」「限界集落を切り捨て」の間、「集落を集約的に作り上げていく」です。
金沢大学の青木准教授は、複数の集落を束ねることで、買い物や郵便局、学校、病院など生活の質を一定程度維持することができる、といいます。さらに、防災力も強化できるそうです。「集落の規模が大きくなれば、備蓄の種類を増やすことも可能になる。救助もしやすくなる」というメリットも指摘されています。
小川キャスター:
地域をどう存続させていくのか、被災した方々の思いを考えると、非常に難しい問題ですよね。
須賀川 記者:
被災した方々も、すごくつらい葛藤を抱えています。今回、私が取材した場所は、道路が寸断されています。海岸線沿いの短いルートは、巨額な公費を投入して復興させなければいない。そして田畑、これを代々引き継いできた農家の思い、というのもあるわけなんですけども、地割れをしてしまっていて、重機を入れないと田畑を復旧させることができないんです。
ただ、農家の方々の思いというのは非常に複雑で、「何としてでも復活させたい。でも、自分たちだけのために税金を投入して、もしかしたら跡継ぎもいない農家を存続させることは果たして良いことなのか」という葛藤も抱えています。
一方で、効率性だけを考えて復興すれば、こうした過疎地域というのは日本の原風景でもあるので、そういったものを全て簡単に切り捨ててしまう、それが果たして本当の復興のあり方なのか、私達はしっかりと議論し、考えていかなければいけないと強く感じています。
プチ鹿島さん:
「政治」とはそもそも何のためにあるのか、なぜニュースを見なくてはいけないのか、いろいろ理由はあると思いますが、やはり、理不尽な目に遭っている人がいることを知ること、困っている人がいることを知ることだと思うんですよね。まさにこの問題だと思うんです。
例えば、こういう地域ではもう高齢化も進んでいるので、共助もなかなか難しい。そうしたら、やはり公助に舵を切るのか、とか。ただその分お金もかかる。日本全国に2万か所ぐらいこういう地域の可能性がある、と言いますから、これは日本全国の問題なので、そういう議論をしていかなくてはいけないと思いますけどね。
TBSスペシャルコメンテーター 星浩さん:
この20年ほど、日本では新自由主義的な政策というか、“地方切り捨て”的な政策が続いてきたので、ここは少し政策の大転換が必要かと思います。コミュニティを守る・高齢者を守るというような政策に少しずつ舵を切り、「新しいコミュニティの再生」ということを考えていく時期に来てると思います。
被災地の生活再建のために最も重要なもの「みんなの声」は?
NEWS DIGアプリでは『能登半島地震から3か月 生活再建は…』などについて「みんなの声」を募集しました。
Q.被災地の生活再建のために最も重要なものは??
「インフラ復旧の加速」…56.7%
「避難生活者への支援」…16.2%
「仮設住宅の増設」…24.4%
「農林水産業など生業支援」…1.2%
「その他・わからない」…1.5%
※4月1日午後11時21分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは2日午前8時で終了しました。