みなさんは本屋さんに行きますか?店舗数が20年前の約半数と激減する中、「街の本屋さん」をどう守るか。直木賞作家・今村翔吾さんと考えます。
【写真を見る】店舗数は20年前の約半数に…街から消える書店 国の支援は必要か?直木賞作家・今村翔吾さんと考える【news23】
あなたは本屋に行く?「一番情報が集まる」「ちょっと億劫」
突然ですが、みなさんは本屋さんに行きますか?
30代女性
「本屋さん行きます。子どもも本触ってみたり、こういうのが好きなんだと思って買えるので」
70代男性
「週に2回~3回くらい行きます。本屋さんが一番情報が集まりますからね」
一方で…
10代女性
「だいたい電子書籍になっちゃいますね」
10代男性
「(本屋が)近くにないから行くのもちょっと億劫になる」
私たちの身近にある「街の本屋さん」。その姿がいま、消えつつあります。
20代男性
「今までずっと当たり前のようにあったものじゃないですか。書店がないと寂しい感じはします」
10代男性
「生活する上で不便は感じてないです」
――困ることは?
「ないですね。今のところは」
コミックは7割電子書籍、書店数は20年で半減…書店は必要?
小川彩佳キャスター:
直木賞作家で大阪と佐賀で書店も経営している今村翔吾さんに、書店の減少についてお話を聞いていきます。
藤森祥平キャスター:
書店が全国で減ってきています。全国の書店数は▼2003年は20880店でしたが、▼2023年には10918店と20年間で約半分にまで減少しています。
また、書店がない自治体の割合は▼全国で27.7%となっていて、さらに▼長野:53.2%、▼奈良:51.3%、▼沖縄:56.1%の県内では半数以上の自治体に書店がない状況です。
ただ、コミックの販売額は2023年に▼紙媒体が2107億円、▼電子書籍が4830億円と売れてはいますが、紙媒体ではなく電子書籍が売れているという現状です。
小川キャスター:
こうしたなかで、書店というのは必要なんでしょうか?
歴史・時代小説家 今村翔吾さん:
本当に様々な意見があると思いますが、個人的には必要だと思っています。
それは教育や文化という観点などの意味で「書店」というか、「本」というものが必要だと思っています。「本と出会える多様性のある環境」という意味では、リアルの書店が必要なのかなと思います。
小川キャスター:
出版物の販売額自体は、さほど大きな変化はない。ネットで買うこともでき、さらに電子書籍も普及してきている。そうしたなかで、紙の本や書店の存在意義は、どういったところなのでしょうか。
今村翔吾さん:
まず電子書籍ですが、確かに販売額は上がっています。しかし、多分2023年に頭打ちして、下降線や並行線に入り始めています。今まで上昇してきた分が補いきれてないのかな、という部分があります。
「紙の本の何がいいのか」と言われたときに、もちろん持ち歩きやすい電子書籍もいいですが、大学の研究では「紙の本の方が約23%内容が入ってくる」という研究結果もあるので、そもそも紙の方が物理的にいいということ。
やはり「自分が買いたい本以外の本との出会い」が、紙の本や書店にある、というのが一番よく言われます。
「本屋さんがなくなっていくのは寂しい」けど…
小川キャスター:
実際、「本屋さんがなくなっていくのは寂しい」という街の声もありますが、実際に書店に足を運ぶかというと、かなり頻度は低くなっている。こうした現実というのは、書店を経営されている身としてどう感じますか。
今村翔吾さん:
本当に出版の問題は、かなりいろんなことに根深い問題があります。よく「万引きが」という話もありますよね。本の利益というのは大体22〜23%。1冊万引きされると、5冊売らないと駄目とか。
特殊な業界なので、やはり「再販制度」という問題を是非はともかく、ここから根本的に改善していくことも必要な時代に来ているのかもしれません。
(株)日本総研主席研究員 藻谷浩介さん:
私は6月に還暦を迎えますが、子どもの頃はテレビがすごく流行りだした時で、「映画いらないね」「ラジオいらないね」とみんなが言っていたのをデジャビュのように思い出します。
同じく「舞台芸術なんかいらないよ」と言っていました。しかし、実際40年、50年経っても全然無くなっていない。むしろ舞台やライブハウスは、大事になってるよな、と。
「電子書籍と図書館だけでいいんだ」という議論は、「食べ物は食べなくていい、栄養さえ摂れていれば良い」みたいな議論。「本屋みたいなものは無くならないのではないか」と直感的に思います。
小川キャスター:
「本との出会い」という意味で、図書館では駄目ですか。
今村翔吾さん:
図書館でもいいのですが、「図書館法」というのがあります。例えば、車を無料で貸してくれる行政サービスがあれば、車業界から反発がきませんか。僕たちの業界だけが税金で無料サービスがある。これに対しても、非常に日本ならではの問題、日本の出版業界が今まで積み重ねてきた問題がいろいろあり、地元の書店から買えない状況が出てきています。
藤森キャスター:
街の本屋さんを守っていくべきかどうか、街の声を聞いてきました。
書店は守るべき?「国の支援は必要か」街の声は――
70代男性
「公的援助というのは一番良いんじゃないですか。地方の書店というのは放っておいたらどんどんなくなっていきますよね」
10代女性
「(書店を)増やしてもどんどん使う人が減ってしまうと、逆にもったいなくなるので。今の状況をそのままにしてもいいかな」
20代女性
「書店には(税金を)充てる必要はないんじゃないかな」
20代女性
「子育てとかそっちの方が、必要としている人が多いんじゃないかな」
小川キャスター:
「他にも支援が必要な中で、なぜ書店を支援するのか」という声もありました。
今村翔吾さん:
僕自身は「ごもっともだな」と思う部分もあります。それぞれの業界の中で「なんでうちを助けてくれないんだ」という意見は絶対出てくると思います。
しかし、僕自身は街の声にもあった「子育て」や「教育」という基礎的な部分は、本が担っている部分が大きいです。単純にご飯を食べていくだけではなく、教育という面も考えたら書店が必要だ、という言い訳はさせていただきたいです。
藻谷浩介さん:
まさにライブハウスや舞台芸術、美術館に行く人も一部で、行かない人に「美術館いりますか」と聞いても「いや、いらないよね」となります。
そうではなくて、「総合的にいろんなことがある」ということがとても重要。子育て支援が大事だというのはわかりますが、20年前から子育て支援をずっと言ってきた私から言わせていただくと、20年前は「そんなものは個人がやるべきで、自然に任せればいい」と言っている人がほとんどで、「税金を投じるべきだ」と言う人はごく一部でした。
書店もあと10年20年経てば、やっぱり「これは人間の非常に古い時代からあったもので、必要なんじゃないか」と。そのときには「図書館だけではなく、お金を払って本を買う人も必要だよね」というふうに戻ってくるのではないかと感じます。
藤森キャスター:
公的資金や補助金は必要だと思いますか。
藻谷浩介さん:
何をいれるかにもよりますが、今村さんのお話を伺っていると、本屋のボトルネックは家賃ですよね。人通りがあるところにあれば成り立ちますが、人通りがあるところの家賃が払えない、ということがボトルネック。
今村翔吾さん:
生活動線上にあれば入るだけの魅力はまだ持っていますが、生活動線上に利益構造的に入れないので、先ほどもあったように「わざわざ行かない」。不思議な業界でもあるんです。
藻谷浩介さん:
そういうことだとすると、保育所に似ているんですよ。例えば、駅に保育所があったら絶対便利なのに保育園は儲からないから、駅から遠いところにある。でも、JRさんが「駅に保育所を作りましょう」と一部公的支援を入れた瞬間に、みんなが非常にハッピーになる。
つまり、地代が払えないというレベルで人が来ないわけじゃない、ということであれば、その地代を安くするようなことを、公的あるいは土地を持っている民間企業は協力して、まだまだ打開できる道がある。「自然に任せてなくなったらいい」というような市場経済を完全に信じるようなことは僕にはできません。
藤森キャスター:
書店側の皆さんも「このままではいけない」といろんな努力をしていました。
「本の売り上げだけでは厳しい」街の本屋の新たな切り口
東京・東久留米市にある創業30年の街の本屋さん。店の奥で売られていたのは地元で採れた新鮮な野菜です。
野崎書林 野崎林太郎 専務
「本だけの売り上げで経営が厳しい中、もともとあった本屋の一部の面積を他の事業に変えていくことで、本屋を存続させたい思いがありました」
7年前に父親から店を引き継いだ野崎さん。しかし、電子書籍などの普及から売り上げは下がっていく一方でした。
野崎書林 野崎林太郎 専務
「私が7年前に引き継いだときに5店舗。そこから順次閉めて、(現在は)市内で2店舗の経営にしています。経営としては厳しいですけれども、地元の教育や文化発信のために今後も続けていきたい、と思いがあって引き継いだ」
そこで、思いついたのが野菜の直売でした。
買い物客
「(売り場の)垣根がないので、ちょっと迷い込んじゃった不思議な場所、みたいな感じに野菜のところがなってるので、すごく良いかなと思います」
買い物客
「本屋さんだけだと正直そんな来ないんですけど(野菜)見て、ついでにちょっとだけフラッとして、ついついちょっと買っちゃうみたいなのあります」
野菜の直売を始める前と比べると、来店客の数が多いときで3割ほど増えました。
さらに、この場所に「本屋さんがある」と多くの人に知ってもらえたことも大きかったと野崎さんは話します。
野崎書林 野崎林太郎 専務
「時代が変わる中で、なかなか本屋さんに足を運ぶ習慣がなくなっていってしまっていた人もいると思うんです。『直売野菜』という切り口にしたことで、例えば若い赤ちゃん連れのお母さんですとかが、お野菜を買いつつ『絵本もあるね』って言ってそれも買っていってくれるとか。そういう新しい機会を生み出すことができたと思いますね」
書店の生き残り策「シェア型書店」とは?
小川キャスター:
今村さんも新しい形態の書店をやられているんですよね。
今村翔吾さん:
「シェア型書店」という形で、1個1個の棚が1人の本棚。個人が借りていたり、早川書房など法人が借りていたり、マンションやアパートみたいな感じで「みんなで地代を割ろう」みたいな。
僕は地方にシェア型書店と普通の書店の複合型で、地元の企業などのPRの場で、地代だけでCSR的に、あるいは広告的にやっていくことにより、生き残っていく道はあるのではないかと思い、1年間ぐらい研究してやりました。
小川キャスター:
「本を出したい」という人は多くいるんですか?
今村翔吾さん:
結構います。本当に趣味で自分の本棚を見てほしい、という動機の人もいます。
藻谷浩介さん:
素晴らしいですね。「自分はこういう本を読んできた」「他の人もぜひ読んでほしい」という文化をお互い見せ合うことは重要です。
山口県周南市では駅ビルを「駅前図書館」という名前にしていますが、実は図書館の分館で本体は本屋です。図書館ではなくて本屋さんでちゃんと本も売っています。カフェも併設しています。
やはり図書館だけだと赤字でできません、本屋さんだけだと成り立ちませんが、本屋をメインにして図書館部分で一部お金を入れると、図書館としては安くできるし、本屋としても経営が助かっている。
実際に驚くほど人が来ています。車社会で店がなくなってしまった中心市街地ですが、ここだけ本当にみんな集まっています。田舎だからできない、ということはないです。渋谷の方がむしろ本屋がなくなって困っています。
今村翔吾さん:
「図書館と書店の並立」というのは今かなり模索されている部分で、図書館で人気の本は200人待ち、300人待ちになります。図書館でアンケートをとると、「それをそのまま書店で買いませんか?」と勧めたときに、大体半分ぐらいの人は買うらしいです。こういう形もいま流行ってきています。
小川キャスター:
移動式の本屋さんなどもありますし、いろんな形態があって、書店も様変わりしてきていますね。
今村翔吾さん:
例えば、図書館の本はフィルムのようなものが貼ってあります。あれはもちろん無料ではなく、300円ぐらいします。そういったものを現実問題、街の書店に負担しろという状況になっているので僕たちは図書館に納品できない。だから大手のみが、という形になっているなど、いろんな問題があります。
藻谷浩介さん:
僕が思ってるよりも、本には力があるのかな、と。人を集める力があるのではないか、と思います。
本の購入について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『消える書店』について「みんなの声」を募集しました。
Q.どのように本を購入してる?
「書店」…61.7%
「書店以外」…12.2%
「ネットで購入」…10.6%
「電子書籍を購入」…5.0%
「購入しない」…6.1%
「その他・わからない」…4.3%
※5月23日午後11時23分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは24日午前8時で終了しました。
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<プロフィール>
今村翔吾さん
「塞王の楯」で第166回直木賞 受賞
歴史・時代小説家 複数の書店を経営
藻谷浩介さん
(株)日本総研主席研究員 著書「デフレの正体」
NYコロンビア大学ビジネススクール卒業