未来に向けた“持続可能なまちづくり” 北海道・上士幌町の取り組みとは

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-06-06 07:00
未来に向けた“持続可能なまちづくり” 北海道・上士幌町の取り組みとは

少子化や人口流出に歯止めがかからず、消滅するかもしれないとされた北海道の小さな町では、最先端技術を駆使して地域の魅力を伝えることで若い移住者が増えている。そこは早くからSDGs(持続可能な開発目標)に取り組んでいる町としても知られていた。

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2014年、「消滅する可能性がある自治体」とされた町は今‐。

東京から移住 島田裕子さん(32)
「常に新しいことをやり続けている。すごく刺激的な町と思っています」
東京から移住 菊池拓海さん(26)
「広い土地があって人口5000人弱なのに移住者が多い。私は全然まだまだ消えない町と感じています」

背景には、未来を見据えた“持続可能なまちづくり”があった。

小さな町の生活を豊かにする最先端技術「きょうの新聞がきょう届くように」

北海道・十勝地方最北部に位置する上士幌町。廃線となった旧国鉄士幌線のアーチ橋「タウシュベツ川橋梁」や日本一広い公共牧場「ナイタイ高原牧場」などの観光地があり、大自然に囲まれた広大な土地を生かして行う畜産や農業が盛んな町だ。

緑豊かな町内を走るバスには‐。

田中優衣 記者
「ハンドルを操作する運転手がいないですね」

自動運転バスの運行だ。車内には対話可能なAI車掌を全国で初導入。2024年5月には、一定の条件下で無人運転を行う「レベル4」での走行が道内で初めて認可された。いまは安全を確認するオペレーターが乗車しているが、将来的には完全な無人運転やルートの拡充を目指している。

さらに、ドローンの配送事業も行う。これも日本初の取り組みだ。

新聞を受け取った人
「この辺1日遅れの新聞配達だったが、きょうの新聞がきょう届くようになって便利になりました」

ICT(情報通信技術)の活用に力を入れている。人手不足の解消と脱炭素を両立した持続可能な地域交通の確保に向け、これからも取り組みを進めていく考えだ。

そして、特に注力する分野が資源循環型農業とバイオガス発電の地産地消。町には大規模な酪農事業者が多く、事業拡大による牛の増頭増産に伴いふん尿の適正な処理が課題となっていた。実際、2024年6月時点で、人口の8倍近い3万7000頭の牛が飼育されている。

ドリームヒル・環境部バイオ課 宗像勇輔課長
「大量にいる牛から出てくるふん尿を使って発酵させてガスを燃やして発電機を動かす」

牛から出るふん尿を40度で40日間ゆっくり発酵させるとバイオガスが発生。そのガスを燃やして発電機を動かすことで電力になる。これがバイオガス発電だ。

作られた電力はいったん北海道電力に売電され、この売られた電力を町の観光地域商社「karch」がもう一度買い戻し、小売事業者「かみしほろ電力」が町内の一般家庭や公共施設などへ電気として供給。“町で作った電気を町で消費する”仕組みを作ったのだ。今後、町全体をカバーできるくらい発電したいとしている。

さらに、発電に使われたふん尿は発酵後、固体と液体という形で残ってしまうが、固体は牛の寝床に敷く「寝わら」に。液体は畑にまく「肥料」として再利用される。牛のふん尿を余すことなく使い循環させる、このサイクルが資源循環型農業の流れだ。

町の未来を支える『ゼロカーボン推進課』 北海道庁から派遣されている職員「これからも発展していく地域」

様々な取り組みが評価され、2020年「SDGs官房長官賞」を受賞。翌年の2021年には「SDGs未来都市」にも選ばれた。そんなまちづくりを行う影の立役者がいる。

平均年齢は30代。未来のためにSDGs全体の取り組みを行っている町役場のチーム『ゼロカーボン推進課』だ。

もともと町では企画財政課の1部門として、SDGsの推進や地球温暖化対策への取り組みを進めてきた。しかし、牛のふん尿を利用したバイオガス発電など脱炭素に関する内容が評価され、2022年4月に環境省の第1回「脱炭素先行地域」に選定。そこから本格的な取り組みを行うようになり、2022年7月に『ゼロカーボン推進課』が新設された。

上士幌町ゼロカーボン推進課・佐藤泰将課長
「役場内でも全然SDGsとはなんぞやの状態だったが、まずは役場職員の理解、あと町民の理解促進ということで積極的に力を入れている」

メンバーは非常勤を含め、あわせて8名。2023年6月に北海道庁から派遣された職員もいる。隣町の鹿追町出身、上嶋あぐりさん。

上士幌町ゼロカーボン推進課・上嶋あぐりさん
「十勝は食べ物も美味しいし広いし景色も綺麗ですごく好き。これからも発展していく地域と思っていたのでぜひ仕事として来たく、十勝を志望していました」

そんな『ゼロカーボン推進課』の上嶋さんが教えてくれたのが、役場独自の取り組み「ノーカーデー」だ。車の排気ガスをなるべく減らし、地球温暖化対策と健康のために歩きましょうという啓発で毎週金曜日に実施されている。

他にも『ゼロカーボン推進課』では、2021年11月からSDGsの理解を深めてもらうため小学校などで行う出前授業を開始。取材時は、上嶋さんが講師だった。また、座学だけではなくバイオガス発電などの見学や外部での講座も行われている。

さらに、2024年4月から始まった「SDGsポイント」制度。

『ゼロカーボン推進課』が発案した町独自の取り組みだ。町の清掃活動や献血などに参加するとポイントが付与され、その貯まったポイントを「1ポイント=1円」より町の店舗で利用できるという仕組みだ。

町民
「楽しみのひとつではあります。買い物にも繋がっていくしね」

“消滅する可能性のあった自治体”は今や“誰もが住みたくなる町”に変貌 「子どもを育てるのにふさわしい場所」

実は2014年、「将来消滅する可能性がある自治体」として指摘された上士幌町。

しかし、今では最先端技術を駆使して町の魅力を発信している。そんな地道な努力を続けた結果、人口減少に歯止めがかかった。若い人を中心に移住者も増加。その背景にあるのが、持続可能なまちづくりに欠かせない「子育てや教育への手厚い支援」だった。

町では2015年8月から、高校卒業までの医療費を全額無料に。さらに、全国に先駆けて2016年4月からは給食費も含むこども園の保育料を無償にした。

他にも、2014年4月から新築などを購入して入居した場合、中学生以下の子どもひとりにつき100万円のマイホーム建設費を補助する「子育て住宅建設助成事業」を開始。

岐阜から移住 上士幌高校3年 高森茉穂さん
「子どもに手厚いことがたくさんあるので、上士幌町が子どもを育てるのにふさわしい場所だと思う」

このように話したのは、岐阜から家族で移住してきた上士幌高校3年生の高森茉穂さんだ。町では、2006年6月より移住を検討している人が実際に町での暮らしを体験できる制度を実施している。高森さんはこの制度を使ったといい、「町はいろいろなことにチャレンジができる。挑戦してみたいと思っている人たちが上士幌に来て未来ある町にしていきたい」と強調した。

また、町おこしの中には雇用を創出する仕組みもある。「地域おこし協力隊」として上士幌町認定こども園ほろんで幼児教育支援コーディネーターとして働く佐近千皓さん(34)。町の手厚い子育て支援に魅力を感じ、2022年、夫婦で横浜から移住してきた。

横浜から移住 佐近千皓さん(34)
「お金の面でのサポートはもちろんあるが、5000人の町で距離が近い。町全体で子どもたちを見守って育てているようなところがすごく手厚いと感じています」

取材時はちょうどお迎えの時間帯。息子2人を迎えに来ていた荒井駆さん(33)も2022年、岐阜から家族で移住。「子どもを育てるのに必要な環境が拡充されていて移住者にも優しい町。ずっと暮らしたい」と笑顔で話してくれた。

町のトップが考える小さな地方都市が生き残る道「いまやっていることを徹底してそれを磨いていく」

こうした持続可能なまちづくりを進めてきたことで、2024年4月に「消滅可能性自治体」のリストから脱却。20年以上、町を引っ張ってきたのが町長の竹中貢さんだ。20分ほどのインタビューでこれまでのこと、そして、未来についてこう話してくれた。

‐‐‐「消滅可能性自治体」から脱却したことについて。

北海道・上士幌町 竹中貢町長
「消滅可能性自治体のリストに入った2014年から10年たちました。思いっきりこの間に町は変わっている。そういった意味でこの10年間の地方創生の取り組みは、町として成功してきたのではないかと。移住者も若い方が70%を占めている」

‐‐‐SDGsの取り組みが関係しているのか。

北海道・上士幌町 竹中貢町長
「いろいろなまちづくりの総合力が移住者の共感を受けた。人によっては子育てに関心を持っている世代もいるだろうし、自然の中で暮らしたいとか。いろいろな選択肢があるが、そういう総合的な魅力を皆さん移住してきた方に感じてもらったと思います」

‐‐‐未来の上士幌はどうなっていると思うか。

北海道・上士幌町 竹中貢町長
「とにかく今進めていることをしっかり形にして成果をあげる。未来に向けて子どもたちに安心して暮らしてもらう、そういった社会、町をどう繋ぐか。デジタルという新しい技術、これが都市と地方の距離感を縮めたりするので、全国に先駆けて自動運転バスやドローンとかいろいろ実装に動き始めた。そういった意味で企業の方々にも関心を持ってもらえる町、それから安心して暮らせる町に繋がっていって幸せになっていくのではないか、こういうところを目指していきたい。今やっていることを徹底してそれを磨いていくことが、この町の生きる道だと思っています」

6年後の2030年、SDGsは一度ゴールを迎える。その時、上士幌はいったいどんな町になっているのか。またすぐにでも足を運ぼうと思う。

筆者:報道局経済部・田中優衣

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