東京大学で、学費を年間およそ10万円引き上げる案が浮上。反対するデモも行われています。東京大学が値上げに踏み切れば、全国の大学にも広がっていく可能性も…。皆さんはこのニュース、どのように考えますか?
【写真を見る】東大が学費値上げ検討、風呂なしアパートに住む現役東大生「大学院への進学決められない…」 大学への公費負担は増やすべき?【news23】
風呂なしアパートの東大生「進学決められない」
年季の入ったアパートに住む東京大学法学部4年の学生。
東京大学4年・男子学生
「風呂無しで共益費あわせて3万9000円。元々は大学の寮に住んでいて、コロナの時期に入学したんですけど、若干大学になじめなくて、それでちょっと留年をしてしまって、そうすると寮は出ないといけないので、ここに引っ越しせざるを得なかった」
留年したことで今は奨学金も途切れ、生活費は親の仕送り頼みだと言います。
東京大学4年・男子学生
「院試の勉強もあってバイトにもあまり入れてなくて、結構節約してカップラーメンとかにしたりとか」
切り詰めた生活の中、先月追い打ちをかける知らせが大学から届きました。
大学からの通知
「これまで20年間据え置かれてきた授業料の改定について検討しています」
東大の学費は年間53万5800円ですが、10万円程度値上げが検討されています。
男子学生は大学院への進学を考えていましたが…
東京大学4年・男子学生
「学費値上げになると授業料もかかるし、上京しているので家のお金とか生活費も月10万円単位でかかるとなると、簡単には(進学を)決められないかなという気持ちはある」
東大で値上げ反対デモ 教職員の姿も
値上げ検討の動きに反発し、大学では連日、学生らがデモ活動を実施。
6日夕方には、値上げに反対する緊急集会も行われました。
登壇した学生
「ただでさえ高い授業料の更なる値上げは、大学が人々の門戸を閉ざすという意味で東大憲章の理念に反しています」
集会では「学生の意見」を聞かずに議論を進めようとしているとして、大学側の姿勢を糾弾する声も上がりました。
また集会には教職員らの姿も…
参加した東大大学院教育学研究科の隠岐教授は…
東大大学院教育学研究科・隠岐さや香教授
「授業料を上げること自体は可能性として常にあったが、このたびの議論の運びが急激なのに驚いている」
東大 国からの運営交付金は100億円減
なぜ今、値上げが必要なのでしょうか?
関係者によると大学側は「教育・研究の国際化やデジタル化のため」だと話していると言います。
ただ、人件費や研究費に充てられる国からの運営費交付金は20年前に比べ年間100億円ほど減少。
物価高騰による研究への影響が懸念されることも背景にあるのではないかと見られています。
東大の学生
「理系の学部だと研究費も補助金がいっぱいついていて設備が新しかったりするんですけど、文学部だと教室に対するコンセントの数が圧倒的に少ない」
一方で、私立大学の学費は値上がりを続けていて、私立大学の学生からは国立大の値上げは致し方ないとの声も…
私立大学の学生
「物価とかが上がってきているし、国とはいえ、東京大学の高い研究の質とかを担保していくには致し方ない」
私立大学の学生
「国公立大学の学生やレベルの高い大学は、親の年収結構高いと思うので、特にそこで何か困ったりはしないかなと思う」
賛否を呼んでいる東京大学の値上げの議論。
東京大学は値上げとあわせ学生への支援拡充も検討しているとみられますが、隠岐教授は今回の東大の判断が、他の国立大に波及する懸念もあると話します。
東大大学院教育学研究科 隠岐教授
「学費が高いから諦めてしまう人たち、子どもに諦めさせる親御さんがいると思う。いろんな事を考えないと危険すぎるモデルではないか。特に地方大の場合は親の所得層も東京とは違うので、ますます大学に行きづらい感じが増えてしまわないか気になっている」
東大卒・伊沢さんと考える 大学の学費 誰が払うべき?
東京大学は学費(53万8300円)を年間約10万円値上げすることを検討しています。その背景にあるとみられるのが物価高などです。
また、国立大学の運営費に使われる国からの資金「運営費交付金」が減っています。
2004年 1兆2415億円
2024年 1兆784億円
これは制度が始まった当時の政権が財政健全化の方針だったからです。
小川彩佳キャスター:
伊沢さんの母校でのお話ですね。
株式会社QuizKnock CEO 伊沢拓司さん:
僕も奨学金で大学院に通わせてもらったので、バイトもしないと勉強を続けられなかったので、学生の気持ちは痛いほどわかります。議論も急だったんですけど、大学の側も苦しい状況があるので議論はとても難しいなと思います。
藤森祥平キャスター:
改めて、当時はかなり生活も勉強するのも大変でしたか?
伊沢さん:
これ以上バイトしたら本当に勉強に影響が出る、当時、もはや出ていたと思いますけど、中退しているので…そういうのも含めて苦しかった学生時代を思い出すと学生たちの気持ちはもう当然わかります。
藤森キャスター:
国立大学の学費をめぐっては2024年3月、慶応大学の伊藤公平塾長が「国立大学の学費を150万円にしてもらいたい」と発言し波紋を呼びました。伊藤塾長の主張は国立と私立の「公平な競争環境を整える」というもの。
国立の学費は年間53万5800円。一方、慶応大学は140万円(2022年度)という差があります。
慶應義塾大学 伊藤塾長は「とれる学生から学費をとり、とれない学生に奨学金」「国公私立共通の学生支援で給付型の奨学金を考えるべき」
いま、返済に苦しんでいる学生さんたちが多くいる中で、給付型をなんとか増やせないか?ということですね。
伊沢さん:
貸与型というのが多いですし、給付型も増えていますけどまだ知られていないし、もっと増えるべき余地はありますよね。
藤森キャスター:
こうした結果、収入も増え大学の質もあがると伊藤塾長は指摘しています。
研究費にあてがう事も出来るし、いろんな設備を変えることもできるし、先生の給料もあげることができる。
欧州では大学完全無償化も 米国は高く
大学の学費について世界を見てみると、例えば、ヨーロッパは公費の投入が大きい国が多くあります。
フランスは、教育費は無償であることが憲法で決まっています。登録料など年間で約3万2000円払えば、それ以外で払うことは基本的にはありません。フィンランド・スウェーデンは公立私立に関わらず無償と決まっています。
一方、アメリカのハーバード大学は年間で850万円、州立大学は300万円~400万円と比較的抑えられているものの、日本に比べれば高い金額がかかってしまいます。
ハーバード大学を卒業したパックンは「学費が高いことでトップレベルの教授を呼ぶことができる。公費を投入すると大学が甘えて競争力が低下する」としています。
ちなみに、パックンは自分で稼いだお金、親からの援助、さらに3分の1ほど政府からの奨学金で学費を何とか払っていたということです。
小川キャスター:
パックンもそういった学生だったわけですね。大学が競争力を高めて、大学の質を維持する、そして向上していくということはもちろん必要だと思います。ただ、その学費が教育格差をさらに広げていくということもあってはならない。大学の質を落とさずに、どうやって学びたい人が誰でも学べる環境を整えていくのか、ということですけれども…
伊沢さん:
海外との比較がすごく難しいのは、フランスとか他の国は税金のシステムが違ったりしますし、文化も違いますよね。アメリカの大学がこれを維持できているのは、OBからの寄付がすごく大きいんですよね。寄付を使って奨学金を充てて、高い教育を受け、その中でBIGになった人が愛校心を持ってまた寄付をするというループが生まれている。
しかも寄付で集まった額を、海外の大学、特にアメリカの大学では運用してるんですよね。資産運営をして、ある程度リスクを取って投資することによって大きくすることができてるから、大きな経済規模を保つことができてるわけです。
日本の国立大学はそれが法律で制限されているんですよね。なかなか利回りの高いような投資はできなくて、国債とかに使うしかない。
なので、給付金は減らされてるのにお金を増やす手段というのも制限されている、というのが今の国立大が抱えている問題なのではないかと思います。
となったときに、これで生徒が泣きを見るのはとても苦しいですよね。本当に仕組みとか文化から変えていかなくてはいけなくて、教員や大学と生徒が対話をしたりとか議論をしたりすることで解決できる問題ではもはやないのではないか?と思うので、教育の質の低下を招かないためにも学生はまず悪くないんで。仕組みから変えてほしいですね。
小川キャスター:
さらに教育費にお金がかかってしまうとなると、昨日ちょうど合計特殊出生率が過去最低の1.20となったニュースもお伝えしましたけれども、この出生率の低下にもさらに拍車がかかってしまう可能性というのもありますよね。
伊沢さん:
間違いなく影響は出てきますし、当面の対処は先ほども言ったように奨学金になってしまうとは思うんですけれども、やはり貸与でなくて給付が増えていくべきですし、親の収入要件で給付額が決まるような奨学金が多いんですけど、東大の同級生で「医学部に行けと言われたんだけど医学の道に進みたくないから親からお金をもらわずに進学した、東大は安いから」みたいな需要というのも国公立にあるわけです。
そういう人たちが教育に十分にアクセスできなくなるというのは国にとって損失ですから。教育は格差というものを是正する役割も持っている以上、アクセスの担保は金額面でとても大事になってくるかなとおもいます。国はそこまで考えて制度設計していただきたいですね。
『東大の学費値上げ』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『東大の学費値上げ』について「みんなの声」を募集しました。
Q.大学への公費投入 どう思う?
「完全無償化を目指し投入」…38.3%
「経済的に苦しい学生を支援」…40.9%
「国公立大のみ投入」…16.1%
「その他・考えていない」…4.7%
※6月6日午後11時23分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは7日午前8時で終了しました
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<プロフィール>
伊沢拓司 さん
株式会社QuizKnock CEO
東京大学経済学部卒
クイズプレーヤーとして活躍中