競走馬のエサ代で月169万円…「特養」で相次ぐ不正流用 「内部をYESマンで固めて…」“監査の甘さ”突く悪質手口【報道特集】

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2024-07-27 06:30
競走馬のエサ代で月169万円…「特養」で相次ぐ不正流用 「内部をYESマンで固めて…」“監査の甘さ”突く悪質手口【報道特集】

特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人を舞台に、不正な資金の横領が相次いでいます。なぜ、特養が狙われたのか。横領の現場を取材し、その巧妙な手口に迫りました。

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交際女性に高級車・競走馬のエサ代まで…特養で前理事長が8億5000万円横領

神奈川県・川崎市に社会福祉法人「母子育成会」が運営していた特別養護老人ホームがある。自宅での生活が困難になった高齢者220人がここで生活を送っている。

特別養護老人ホームしゃんぐりら 田嶋裕一郎 施設長(51)
「ここの利用者の1人、女性の高齢の方が『死ぬ前にもう1回パチンコやりたい』と。副施設長とパチンコ屋に頼んで、何とかならないか掛け合って、メーカーさんから寄付して貰ったんです。施設に自分から入りたいという利用者さんっていないんですよね。その中で家族にはなれないけれど『この人たちにだったら、自分の最期の人生を託せる』『ここで良かったんじゃないか』と思えるような施設を目指しています」

ここで2023年3月まで約20年間にわたり母子育成会の理事長を務めていたA氏。

A氏が施設の運営資金を私的に流用していた事実が2か月前、明らかになった。

特別養護老人ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「なんでこんなことしてたんだろうということしかない」

A氏の隣に映るのは、妻ではない女性だという。さらに別の女性と旅行に行った時の写真も残されている。田嶋施設長が、前理事長A氏の部屋を案内してくれた。

記者
「理事長室ということは前理事長が使っていたところですか?」

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「理事長室と名前は書いてありますけれども、前理事長はここを使っていたということは全くありません」

理事長室はあったが、A氏が施設に来ることはほとんどなかったという。A氏の持ち物が理事長室に残されていた。

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「ちょっと思わぬものを見つけまして。(つい最近ですか?)はい、ついこの間です。おそらく所持していた競走馬にかける何かなんじゃないかなと思います」

記者
「馬にかけるようなもの?」

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「なんですかね、ちょっとわからないですけど…(こういう施設には)必要のないものですね」

これが所有していた競走馬の写真だ。A氏が理事長を解任された後、布とともに見つかったという。

記者
「今、写真を見てどうですか」

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「何やってんだって感じ。僕らが汗水たらして利用者さんから報酬として頂いているものを使ってこういうことをしていたということは、まったくありえないと思う」

A氏の不正が明らかになったきっかけは、社会福祉法人母子育成会の立て直しを手掛けてきた千葉新也氏が新しく理事長に就任したことだった。

千葉氏による内部調査で、A氏が法人の名で、運営資金8億5000万円を横領していたことが発覚した。

これは母子育成会の収支を記した精算書。支出の欄には「えん麦」「ふすま」「牧草」「人参青草代」など競走馬のエサ代が記されている。エサ代などの支出はひと月で169万円。10年以上にわたって確認されたという。

母子育成会 千葉新也 新理事長
「競走馬や競走馬のえさ代も法人のお金から出ていた」

さらに驚くべき使い道が明らかになった。熱海のリゾートホテル、2万9千円。箱根のリゾートホテルは、6万9千円。いずれも請求書の宛名は母子育成会となっている。

さらに5日間のグアム旅行の書類には、ツアー代金126万円と記されている。内部調査では、いずれも妻以外の複数の女性との交際に使われていたことが明らかになった。

母子育成会 千葉新理事長
「出張旅費と称して女性と旅行三昧。女性をつなぎとめておくために車を購入、高額の腕時計を買う。あとは、女性を囲うためにタワーマンションを2か所借りていた」

交際している女性のために契約した六本木のマンションはひと月の家賃が50万円以上。女性に贈った高級車の値段は780万円だったことも分かっている。

監視機能が全く働かず…前理事長「使い分けることができなかった」

なぜA氏は20年にわたり私的流用をすることができたのか。

社会福祉法人の経営は、理事会・評議員会・監事(会計監査人)が互いにメンバーを選任したり、運営資金が適正に使用されているかなどを監査したりする関係性にある。

だが、母子育成会の場合その監視機能が全く働かなかった。

内部調査を担当した現在の理事長の千葉新也氏は、A氏の時代の理事や評議員についてこう明かす。

母子育成会 千葉新理事長
「(前)理事長の父親が川崎市の元助役、その関係で連れてこられた理事と評議員で、かなり高齢。馴れ合いの関係だったという認識しております」

一方で、国や地方自治体も、社会福祉法人が法令などにそって適切に運営されているかをチェックする役割を担う。だが、川崎市の担当者は…

川崎市健康福祉局 森達也担当課長
「社会福祉法人の監査は不正発見が目的ではない。税務署でも捜査機関でもないので、制度・ガイドラインにのっとって監査の事務を進めている」

川崎市は監査の頻度を本来の3年に一度から1年に一度に増やして実施してきたが、強制的に調査をする権限もなく、不正を発見できなかった。

2023年6月、千葉氏と新しい理事らが開いた会合の映像。この会合にA氏も出席し、運営資金の私的流用を認めた。

母子育成会 前理事長 A氏
「私の甘さがございまして、自分自身のお金の使い方と法人のお金の使い方というものが分けることができず、使用していたということでございます」

「母子育成会」は業務上横領の疑いでA氏らを刑事告訴。神奈川県警が捜査を進めている。

A氏を直撃「騒ぎを起こしちゃって申し訳ない」

8億円を超える横領の事実を認めるのか?改めてA氏を取材した。

記者
「今、母子育成会の横領の件で調べておりまして」

母子育成会 前理事長 A氏
「今、お話しちょっとできないんですけど」

記者
「法人が言っていることと自分の知っている事実で違うことは?」

母子育成会 前理事長 A氏
「今、ちょっと色々やってますんで。またお話しする機会はあると思いますので」

記者
「利用者への今の気持ちは?」

母子育成会 前理事長 A氏
「こんな騒ぎを起こしちゃって大変申し訳ないと思っています」

記者
「お金の返済の予定は?」

母子育成会 前理事長 A氏
「色々これからやっていきます」

記者
「どうしてお金をとってしまった」

母子育成会 前理事長 A氏
「その辺もまた改めてお話しさせていただきますので。きょうはすみません、失礼します」

母子育成会が運営していた特養ホーム。施設長の田嶋裕一郎さんは20年前から職員として、利用者に向き合ってきた。

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「お食事終わりました?」

利用者
「いただきました」

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「どうも。おいしかった?」

利用者
「おいしかった」

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「良かったです」

利用者
「きれいに食べた」

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「良かったです。お茶残っていますからね」

24時間、介護サービスを提供するため、多額の公金が投入されている特養ホーム。田嶋施設長は、前理事長による使い込みについて、こう話した。

特養ホームしゃんぐりら 田嶋施設長
「私たちがサービス提供をして、いただいた報酬をどういう気持ちで使っていたのか。その気持ちを知りたい。私たち職員だけではなく、利用者と家族も裏切った。社会に対しても裏切りですよね」

特養めぐる不正で逮捕者も…

監査が甘い社会福祉法人の運営資金が横領されるケースが全国で相次いでいる。静岡市の特別養護老人ホームを運営する社会福祉法人「誠心会」で事件が発覚した。

業務上横領の罪などで逮捕・起訴された金田充史被告(52)。さらに、警視庁の元警察官、迫丸卓哉被告(44)。2人は高校と大学の剣道部の先輩と後輩。共謀して社会福祉法人の口座から約7400万円を横領した罪などに問われている。

捜査などで明らかになった手口はこうだ。

2022年10月、迫丸被告は「誠心会」の理事長に就任する。次に、いくつかの法人で理事を務めた経験を持つ金田被告は、迫丸被告が運営資金を自由に動かせるよう、名ばかりの理事や評議員などを置いたという。

2人から頼まれ、評議員を務めていた男性は…

元評議員の男性
「(2人とは)剣道の繋がり。ちょっと名前貸してっていうような感じ。別に(施設に)来いと言われるわけじゃない。『いいよー』って感じ、名前くらいは。『老人ホーム』くらいしか聞いてないから。『ああ、そうなんだ』くらいだよ」

さらに金田被告の行きつけのカフェの店員も「『何もすることないから、名前だけ貸してくれないか』と言われて『良いですよ』と言った。評議員会に行ったことは全くない」と証言した。

監査を担当する静岡市は不審な金の動きに気付いたが、理事や評議員の存在が形骸化していることまでは見抜けなかった。

社会福祉法人では、新しく理事長が就任する際、評議員会の議決が必要となる。

ところが迫丸被告が理事長になる際、評議員会は開催されておらず、静岡市には虚偽の議事録が提出された。

市の担当者は…

静岡市 保健福祉長寿局 吉永一監査指導担当課長
「監査は法人が行った経営の実態などを書類等を基に行う。書類が整っていればそこを追及することができない。見た目上問題がなければ、突っ込むことはできない」

三重県・鈴鹿市にある別の社会福祉法人が運営する特養ホーム「かがやきの杜」。

2023年3月まで、この法人の理事長も迫丸被告が務めていた。捜査関係者によると、この法人でも2人による同様の不正が行われていた疑いがあり、捜査を進めているという。

社会福祉法人が狙われる理由 防ぐには…

なぜ社会福祉法人を狙うのか?金田被告の知人は、こんな理由を明かされたと証言する。

記者
「金田被告は『社会福祉法人をやりたい』と言っていたか?」

金田被告の知人
「言ってました、すごく言ってました。『そこが一番お金になる』『それが一番儲かるから』『福祉とか医療法人とかそういうのやろうよ』『国からお金が出る』ということをよく言っていた」

2人が社会福祉法人を狙った理由は他にもある。多額の現金をすぐさま入手できる方法があるからだ。

迫丸被告が理事長をしていた当時の社会福祉法人「誠心会」の通帳の写し。

理事長就任から2週間余りで、口座に5000万円が振り込まれている。振り込んだのはファクタリング会社なる存在だ。

特養ホームの運営などに詳しい静岡福祉大学の福田幸夫教授は…

静岡福祉大学(社会福祉学) 福田幸夫教授
「ファクタリングという制度で、銀行の融資のような手続きは必要なく、業者との契約で一定のお金を借り入れられる制度」

ファクタリングとは、利用者から支払われる予定の利用料金などを担保に、事業者がファクタリング会社からお金を借りる仕組みだ。銀行融資のような複雑な手続きが必要ない。

静岡福祉大学 福田教授
「ネットからでも申し込みができ、早ければ数日で現金で手元に入る」

かつて金田被告と法人の経営に関わり、今回、静岡市に情報を提供した男性はこう話す。

静岡市に情報提供した 竹森郁さん
「社会福祉法人の介護保険報酬は1割から3割は利用者が払うが、残りは国(など)から入ってくる。介護保険報酬は絶対に入ってくるため、貸す側としては安心。社会福祉法人は“打ってつけ”の場所」

警察によると、ファクタリング会社から「誠心会」の口座に振り込まれた5000万円はそこから引き出され、2人が関係する会社の口座に移されていた。

あとを絶たない社会福祉法人を舞台とした資金の横領。

こうした犯罪に詳しい宗澤忠雄氏は、多額の公金が使われる社会福祉法人だが、その多くで監査が機能していないと指摘する。

元埼玉大学教育学部准教授 宗澤忠雄氏
「内部をイエスマンで固めて点検体制を形骸化してしまう。グロスが大きい分、お金を抜きやすい構造がある」

運営資金の使われ方をチェックするシステムの必要性をこう訴える。

元埼玉大学教育学部准教授 宗澤氏
「(国が)『福祉サービス基準監督官制度』のようなものを設ける。強制力や権限をもって法人内の事態を点検できるような仕組みを作らない限り、社会福祉法人をめぐる不正・不祥事を克服する方向にはつながらない」

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