35度超の暑い日が続いている。なんだか疲れやすい、よく眠れない、といった夏バテのような症状に悩んでいる方もいるのではなかろうか。実はそれ、夏バテに似た「夏うつ」の可能性もあるという。精神科医に夏のうつの見分け方と対策を聞いた。
【あなたは大丈夫?】「夏の心の疲れ」をチェック 7項目以上当てはまるなら要注意【写真で確認】
「ストレスが底上げされている」夏にうつのリスク
テレビ局で働く筆者は、毎年夏バテになる。取材で長時間炎天下にいたかと思えば、熱に弱い編集機器を守るためクーラーを過度に効かせた部屋でVTRの編集をする。この気温差で体調不良になりやすく、食欲不振にも陥りやすい。身体は疲れているはずなのに、夜になってもなかなか寝付けなくなったりもする。
眠りにつけない焦りを紛らわすように、真っ暗な部屋で「夏 体調不良」「寝られない」などと検索すると、「夏うつ」という単語に目が留まった。
え…?夏バテならぬ、夏うつ…?
日照時間が少ない冬に発症する「冬季うつ」は耳にしたことがあるが、日差しが強い夏にも…。耳慣れない「夏うつ」とはどういったものなのか。心療内科の院長に話を聞いた。
――「夏うつ」という単語を知りました。「夏」と「うつ」にどういう関係があるのでしょうか?
パークサイド日比谷クリニック 立川秀樹院長
「夏はうつ状態になるリスクが潜んでいます。うつ状態のひとつに心因性というものがあります。ストレス性とも言いますが、人はストレスを感じると防御反応として、交感神経が働きます。通常、リラックスしていると交感神経が収まり、副交感神経が働くようになっています。
しかし、これが休んでいても交感神経が高まったまま"過覚醒"状態となってしまうと、頭がオーバーヒートしてしまい、心身の疲労困憊が起きて、疲弊に伴ううつ状態になってしまうこともあります。
つまり、交感神経がある一定のバロメーターを振り切ったまま固定化され、元に戻らなくなってしまうと過覚醒状態(自律神経失調)になり、うつ状態を引き起こしてしまうのです」
――過覚醒がうつを引き起こすんですね。夏は過覚醒になりやすいのでしょうか?
「実は、過覚醒は夏の暑さと関係があります。体温調節をつかさどる自律神経は、5℃以上の急激な気温変化に対処できないため、それが繰り返されると、体温を下げる交感神経と体温を上げる副交感神経のバランスに異常をきたします。つまり、夏の暑さや汗もストレスなので、普段の生活よりも与えられるストレスが底上げされてしまっているのです。
なので、普段からバロメーターが振り切れるギリギリのストレスを感じている人にとっては過覚醒、そしてうつ状態になりやすくなります」
過覚醒になると、口が乾いたり、疲れが取れない、不眠や食欲低下、そして肩こり、頭痛、吐き気等の症状が出てくるという。
立川院長によると、暑さに疲れてきた8月上旬ごろから「疲れやすい」「よく眠れない」「朝起きられない」などと受診する人が増えるといい、猛暑や気圧変動が大きい年に患者数が増加する傾向にあるという。
似ているけど違う…夏うつと夏バテの違いは?
――疲れが取れなかったり、食欲が低下したり…「夏バテ」と似ている気がしますが、違いは?
「違いは、不眠の質です。夏うつの特徴である過覚醒が起きていると、ずっと頭がリラックスできないような感じになります。夏バテの『疲れて眠れない』『寝苦しい』というのとは違い、覚醒しているから眠れないという特徴があります。当然、寝付きが悪い入眠困難もあります。
また、寝ても交感神経が高まった状態なので些細な物音等で起きてしまったり、熟睡できず朝から体がだるく感じます。早朝覚醒も特徴です」
ほかにも、過覚醒の特徴としてあげられるのが感覚の鋭敏化だという。全ての感覚が異常に過敏になってしまい、通常の痛みをものすごく大きく感じたり、疲れもひどく感じてしまう。
それだけでなく、人の表情などを鋭敏に感じてしまい、今までストレスとして感じてこなかったことも気になり、些細なことにもストレスを感じるようになって脳が疲弊⇒うつ状態になってしまうという。
立川院長によると、動悸が出るのは過覚醒のサインだといい、放っておくとうつ状態になる危険が高いというので、注意が必要だ。
夏うつを防ぐにはどうすれば?
立川院長によると、過覚醒状態になりやすい人は、▼梅雨や台風のような気圧変動に敏感な人、▼オンとオフの切り替えが苦手な人、▼物事を突き詰めて考えてしまい、まあいいかと思えない人、▼減点主義な人が挙げられるという。
また、過覚醒状態になりやすい環境として、▼仕事がマルチタスク、▼癒しがない、▼家に帰ってもストレス・懸案事項がある、といった要因があるという。
では、夏うつにならにならないようにするには、どうすればいいのだろうか?
「とにかく交感神経の高ぶりが振り切れないように、休むことです。遊びに行ったり、飲みに行ったり等、能動的な癒しは、元気な人なら効果ありますが、交感神経が高ぶっている人にとってはストレスになってしまう。マッサージ、森林浴などの受動的な癒しが大事です」
マッサージはさておき、森林浴を取り入れるのはなかなか難しいという社会人に、立川医師が普段からできるおすすめのケア方法を教えてくれた。
【ストレス軽減 夏のおすすめケア】
▼朝起きる時間を守り、起きたらすぐ日光を浴びる
▼アイスコーヒーや紅茶等で交感神経を上げるカフェインを摂りすぎない
▼夕食は就寝3時間前、入浴、運動は就寝2時間前に済ます
など(その他、画像参照)
過覚醒になりやすいこの季節、日常の習慣の1つとして取り入れるものいいかもしれない。
=====
パークサイド日比谷クリニック 立川秀樹院長
医師・医学博士 筑波大学医学部・同大学院卒業
精神科外来診療に加え、産業医として国内外の企業に勤務。2007年より現職