終戦から79年 生かされなかった敗北の教訓“ノモンハン事件” 空から見た日本軍敗北の痕跡【news23】

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2024-08-16 12:08

85年前、広大な草原で日本軍とソ連軍との軍事衝突、「ノモンハン事件」が起きました。大きな犠牲を出した日本軍。このときの教訓が生かされていれば、「太平洋戦争は起きなかった」とも言われています。

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※動画内で紹介したアンケートは16日午前8時で終了します。

終戦から79年 生かされなかった敗北の教訓“ノモンハン事件”

2024年に100歳を迎えた女性が語り始めたのは、85年前の戦争の記憶でした。

チィメド・ツェリンさん
「爆弾の破片で重傷を負った兵隊が、叫び声をあげながら死んでいきました。私は看護師でしたから、目の前で命を落としていく兵隊たちのために泣きました」

当時15歳だったモンゴル人のツェリンさんが目撃したのは、日本軍と当時のソ連、そしてモンゴル軍が戦った「ノモンハン事件」です。

1932年、日本は現在の中国東北部に「満州国」という傀儡国家を作りました。その満州国に駐留していた当時の日本軍は、ソ連、モンゴル軍と国境線をめぐり、小競り合いを繰り返していましたが、ついに、1939年5月、軍事衝突に発展します。

4か月にわたり繰り広げられた戦いは、4万人近い犠牲者を出した末、日本の敗北に終わりました。

モンゴルの首都ウランバートルから東へ約1000キロ。私達は、ノモンハン事件の現場を訪れることにしました。

空から見た日本軍敗北の痕跡

たくさんの馬が水辺に集まる雄大な景色が広がっています。しかし…

記者
「ここは激しい戦闘が行われた場所の一つなのですが、85年たった今も、戦車がそのまま残されています」

現れたのは85年前の戦争の残骸でした。撃墜されたのか、飛行機の一部もそのまま残されていました。

戦いの痕跡は大地にも。上から見ると、ソ連軍が掘った塹壕が現れました。まるで地割れのように数キロにわたって広がっているのがわかります。周到に塹壕を準備したソ連軍はここに潜んで、連日、日本軍に激しい攻撃を浴びせ続けました。

別の激しい戦闘が行われた場所の一つには、上空からは無数の穴が確認できました。日本軍が空から落とした爆弾の跡です。

当初は、日本軍が空からの攻撃で有利に戦いを進めていましたが、ソ連軍が最新鋭の戦闘機を投入したことで一転、劣勢に陥ったといいます。

日本が敗北した理由。ここでノモンハン事件を40年以上調査しているモンゴル人の研究者は次のように話します。

「ノモンハン事件」研究者 ミャグマルスレンさん
「ソ連が勝った要因はロジや補給、戦力。特に地形をよく知っていて、正しい情報があったからです」

日本軍は「地形をよく調べず、軽視していた」という指摘があります。ある場所に立つと、それがよくわかりました。

生かされなかった“敗北の教訓”

「ノモンハン事件」研究者 ミャグマルスレンさん
「ここは高地なので、敵を見張るには有利でした」

日本軍とソ連軍、モンゴル軍が対峙したハルハ河。高地側がソ連・モンゴル軍。ハルハ河を挟んだ対岸側が日本軍です。

高低差を活かし、日本側の動きを手に取るように把握していたソ連側は高台から砲弾を撃ち込み、戦況を有利に展開しました。さらに…

「ノモンハン事件」研究者 ミャグマルスレンさん
「ソ連軍の戦車や武器の性能が日本軍よりもよかったのです。日本軍はソ連の戦車を倒すため、ガソリンに火をつけた布を長い竹の棒の先につけ、戦車をたたいていました」

最新鋭の戦闘機や戦車を投入したソ連軍と、それに竹の棒で立ち向かった日本軍。ソ連軍の戦力を過小評価していた点も敗因の一つだったといいます。

ノモンハンの敗北で明らかになったこと。それは物資の補給や兵站の貧弱さに加え、装備の近代化の遅れ。そして何より、正確な情報を分析する能力の欠如でした。

「ノモンハン事件」研究者 ミャグマルスレンさん
「もし日本がこの戦いの敗北から教訓を学んでいれば、第2次世界大戦は起きなかったし、広島、長崎に原爆が落とされることもなかっただろうと思うのです」

もし日本がこの敗北を真正面から受け止めていたら、太平洋戦争という無謀な戦いを計画することはなかったのではないか、とミャグマルスレンさんは指摘します。

しかし、日本はノモンハン事件から教訓を得ないまま、2年後、太平洋戦争に突入したのです。

15歳で看護師として戦争に参加したツェリンさん。100歳になった今、若い人たちに伝えたいことがあるといいます。

チィメド・ツェリンさん
「戦争というのは大変悲惨なものです。二度と戦争を起こさないようにしてほしいと伝えたいです」

「戦争は始まると誰も止められなくなる」

小川彩佳キャスター:
終戦から79年前。VTRを見て、真山さんはどう感じましたか?

小説家 真山仁さん:
ちょうど今、戦前の満州を舞台にした小説を準備していて、ノモンハンがメインではないですが、勉強をしています。

改めて戦争のことを考えると、一番大事なことは「なぜ始めたか」。そこが戦争を止める一番のチャンスで、始まると誰も止められなくなります。

ウクライナなどがそうですが、戦争は絶対に計画通りに行きません。ちゃんと勉強して失敗を教訓にしないといけませんが、わりと我々はそれをやっていない。

小説だとフィクションなので、そこは踏み込めるのでやらなければいけないかな、と思っています。なので今後10年くらいは少し頑張って戦争にこだわりたいと思っています。

もう一つ、私も含めてメディアの方と一緒に考えなければいけないのは、「戦争を考えるのは8月だけなのか」ということです。

もちろん原爆が2回落とされた月でもあり、終戦の日でもありますが、それを言うと「12月8日のパールハーバー(真珠湾攻撃)も重要じゃないのか」となります。

毎月戦争の反省をする必要はないです。ですが、生き証人に語られることでしかリアリティが得られないというのは少し問題だと思います。

戦争を全く知らない世代、親から戦争を聞いた世代がどのように伝えていくのか、を考えていかなければなりません。生き証人はどんどん亡くなっていくので「亡くなったら終わり」というのは少し残念かなと思いますね。

小川キャスター:
教訓を受け止める世代であり続けてきたものが、今度は送る世代になっていかなければならないわけですね。

真山さん:
どう発信するかを考えなければいけない時がきていると思います。

『79回目の終戦記念日』について「みんなの声」は

NEWS DIGアプリでは『79回目の終戦記念日』について「みんなの声」を募集しました。

Q.日本が再び戦争する日が来ると思う?
「思わない」…12.9%
「あるかもしれない」…37.8%
「巻き込まれると思う」…46.9%
「その他・わからない」…2.4%

※8月15日午後11時17分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは16日午前8時で終了しました。

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<プロフィール>

真山 仁さん
小説家
「ハゲタカ」「ロッキード」など
最新著書に「疑う力」

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