東京・上野の国立科学博物館に、番組「世界遺産」のロケで久しぶりに行きました。
番組ナビゲーターの鈴木亮平さんが自ら発案した「巨大哺乳類のナゾに迫る」という企画のためです。国立科学博物館、通称「科博」にはさまざまな巨大な哺乳類の標本があり、それらを解剖学の権威である東大の遠藤秀紀教授に案内してもらい、関連する世界遺産の映像を織り交ぜて生命の進化をたどる…というスペシャルな企画です。
“異様” 絶滅した動物は恐竜と間違えるほどの巨大さ
今は絶滅してしまった全長6メートルもあるナマケモノの仲間(現在のナマケモノは70センチくらい)。やはり絶滅してしまった、体重がアフリカゾウの3倍もあった草食動物パラケラテリウム。
今回はパラケラテリウムの全身の骨格標本を撮影したのですが、背の高い鈴木さんと比べても異様な大きさで、知らずに見ると恐竜と間違えるほどの巨大さです。
シロナガスクジラの展示など 国立科学博物館は“ワンダーランド”
さらに国立科学博物館の屋外には、体長30メートルもあるシロナガスクジラの実物大模型も展示されています。このシロナガスクジラがやってくるのがメキシコの世界遺産「カリフォルニア湾」。1000キロもある細長い湾には、さまざまなクジラがやってきて穏やかな内海で繁殖と子育てをしています。
番組では、まだうまく泳げない子どものクジラを、母クジラが下から背中で支えて泳ぎ方を教えているところを撮影したこともあります。
実は、国立科学博物館の屋外のクジラ展示は今のシロナガスクジラで3代目。私が小学生だった頃は、初代のナガスクジラの全身の骨格標本が展示されていて、初めて見た巨大な骨の集合体は衝撃的でした。当時の国立科学博物館は子供心にまさにワンダーランドで、正面の階段を登って入場口(現在は違う場所に移っています)から入るときには毎回心が躍るようでした。
「世界遺産」ではラフレシア開花の瞬間を撮影
今でも記憶が鮮烈なのは、世界最大の花・ラフレシアの模型。ジャングルの地面に直径1メートル近い巨大な花が咲いている様子が再現されていました。毒々しいまでのオレンジ色で、「世界には、こんな不思議な花があるんだ」と驚嘆したものです。
後年、世界遺産の番組を作るようになって実物のラフレシアと再会したのが、マレーシアの世界遺産「キナバル自然公園」。
ボルネオ島の標高4000メートルを超えるキナバル山の麓に、ラフレシアが自生しているのです。葉も茎も無く、他の植物に寄生して巨大な花だけを咲かせる…その開花の瞬間を撮影することが出来ました。
“首切りの風習”説 「ナスカの地上絵」関連遺跡からは頭部のミイラ
また子供心に不気味だったのが、ミイラです。当時は上層階のあまり人が多くないところに、3つの干し首と共にガラスケースに収められて展示されていました。衣類は着けておらず、局部にテープが貼られていたことを覚えています。現在、このミイラと干し首は常設展示されていないようですが、謎めいていて不思議な魅力を持っていました。
長じてから、番組制作を通じて各地のミイラを見ることになります。南米ペルーの世界遺産「ナスカの地上絵」では、関連するピラミッド状の遺跡から出土した人の頭部のミイラを番組で撮影しました。
地上絵の中には首をもった人物を描いたものもあって、ナスカの人々は首切りの風習をもっていたのでは…という最新の説を紹介するためです。
聖なる生きもの崇められていたワニのミイラも
世界遺産ではありませんが、エジプトのコム・オンボ神殿に祀られていたワニのミイラも紹介しました。
付属する博物館に20体ものワニのミイラがずらっと並べられていて、古代エジプトではナイル川にすむワニが聖なる生きものとして崇められていたことがよく分かります。
三つ子の魂百までといいますが、このように振り返ってみると子供の時に国立科学博物館で見て受けた衝撃が、現在の仕事につながっているような気がします。そして今回、番組のロケで再訪した「科博」は、やはりワンダーランドのままでした。
執筆者:TBSテレビ「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太