パリオリンピック™前の7月15日に日本陸上界に“スーパーヒロインが誕生”のニュースが列島を駆け巡った。女子800mの日本記録を15年ぶりに更新し、初の2分切りを達成したのが16歳、久保凛選手だ。国内では無敗を誇り、人気も急上昇中の彼女に番組キャスター・高橋尚子(シドニー五輪女子マラソン金メダリスト)が迫った。
【写真を見る】16歳 久保凛“1分58秒90を出して”東京世界陸上出場へ 女子800mスーパーヒロインの強さの源流は【高橋尚子インタビュー】
日本記録更新した16歳の心境とは
Q(高橋尚子):
2分を切った瞬間の気持ちを教えてください
久保凛:
率直に、まず2分を切るという事は思っていなくて、思っていなかったんですけど…なので、少し驚きっていう部分と、率直にすごく嬉しいっていう気持ちが多かったです。
じつは高橋尚子も800mに取り組んでいた
実は高橋尚子キャスターも中学、高校、大学で約10年間は800mと1500mに取り組んでいた(800mの自己ベスト2分13秒)だけに「2分を切るなんて信じられない!私たちの憧れを超えてくれたと思う」と驚きは大きい。
Q:日本記録を出すつもりじゃなかったっていう事でしたが…
久保:
まず高校記録を狙っていたので、まず高校記録を絶対出すっていう気持ちでもう頑張って走って。そのもう一つ上が達成できたって感覚です。
Q:どのくらいでもしかしてみたいな気持ちはあったのですか?
久保:
ラストの200mでタイムが読み上げられた時に、もしかしたら出来るかもしれない、という気持ちで。ラストの700mの所ではたくさんの人が応援してくださったので、応援に応えるっていう気持ちで走りました。
「ゆっくりと車輪が回っているような」な走り
取材した当日の練習でも今もなお成長が止まらない久保選手の強さの片鱗が伺えた。早速、準備運動で「開脚があれだけ開くって事は、柔らかい走りが出来る所につながっていますね」と高橋キャスターも感心させられた。
続く、3000mのジョギングでは「走りがゆったりだが、滑らか。止まる所がないのでゆっくりと車輪が回っているような感じ。効率が良い走りで負担がかからないのも大きい。」とフォームに注目する中、さらにタイムを計測。
高橋キャスターは「3000mをジョギングで9分42、3ですよ!私、ジョギングだったら12分とか…」と手元の記録に思わず驚きの笑みをこぼした。
“フォーム走”の積み重ねでブレない走りに
そしてランニングメニューの最後に行うのが、150mを全力に近い力で正しく走る“フォーム走”と呼ばれるメニューである。この日も全くブレがなく滑らかに進んでいる様子が分かった。
指導する野口雅嗣先生(東大阪大敬愛高)に目的を聞いた。
野口雅嗣:
疲れている時の一番最後のメニューがフォーム走。それを綺麗に走れば、疲れていない時はもっと綺麗に走れる…練習の最後でどれだけ、キチっと集中して出来るかが大事。
一番きつい最後の練習で正しいフォームで走る事の積み重ねがレースでの体がブレない走りに繋がる。周りの選手と比べてもその走り、フォームは一目瞭然で久保選手の強みとなっている。
久保選手も『練習の最後のフォーム走でもう一度集中してリズムよく走る』事を意識する。
まずは来年9月の東京世界陸上出場へ
まだまだ成長著しい16歳。そんな彼女に4年後のオリンピックまでの目標を描いて貰った。
目下、東京2025世界陸上の参加標準記録1分59秒00に迫り、世界舞台を見据える。
久保:
まず、東京世界陸上の標準記録が1分59秒を切らないと出られないので、“1分58秒90”を出して、東京の世界陸上に出場します。
(27年には)北京の世界陸上に出場します。(28年には)自分が今回出られなかったオリンピックがあるので、ロサンゼルス五輪に出場して、やっぱり出場するからには入賞を目指して頑張っていきたいと思います。
久保凛(くぼ・りん)
2008年1月20日生まれ、和歌山・串本町出身。潮岬中~東大阪敬愛高。小学6年生までは、サッカークラブに所属し、中学から本格的に陸上競技を開始。3年時に全日本中学陸上女子800mで優勝。23年8月インターハイで1年生ながら優勝。24年日本選手権女子800m決勝でも2分3秒13で初優勝。
さらに7月の関西学連・長距離記録会(奈良・橿原公苑陸上競技場)で1分59秒93の日本新記録をマーク。05年に杉森美保が記録した2分00秒45を上回り、19年ぶりの記録更新し、日本女子初の2分切りを果たす。7月末のインターハイでは2分00秒81の大会記録で連覇を達成。8月のU20世界陸上でも2分03秒31で6位入賞。10月国民スポーツ大会は少年女子A800mで2分02秒09の大会新記録で優勝。いよいよ世界舞台での活躍を目指す。