池袋暴走事故・飯塚幸三受刑者が死亡 妻と娘を亡くした松永拓也さん「加害者の経験も無駄にしない」【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-11-26 12:48

5年前、東京・池袋で乗用車が暴走し11人が死傷した事故。車を運転していた飯塚幸三受刑者が先月、亡くなっていたことがわかりました。事故で妻と娘を亡くした松永拓也さん。「加害者の経験も無駄にしない」と語る、いまの心境を伺いました。

【写真で見る】「亡くなる前に、話ができてよかった」事故から5年 松永拓也さんを動かしたもの

松永拓也さん「正直、複雑な気持ち」 飯塚幸三受刑者が死亡

松永拓也さんは25日、亡くなった妻の真菜さんの故郷・沖縄県で行われた犯罪被害者支援の講演でこう切り出しました。

松永拓也さん
「ご存じの方もいるかもしれませんが、彼(飯塚受刑者)は先月26日に刑務所で亡くなりました。正直、複雑な気持ちです」

2019年、真菜さん(31)と娘の莉子ちゃん(3)の命が失われ、9人が重軽傷を負った池袋暴走事故。

車を運転していた当時87歳の飯塚幸三受刑者が死亡したことについて、松永さんは「複雑な心境だ」と話しました。

松永さん
「ご冥福をお祈りしたいと思いますが、これも悲しいことだと思うんですよね。人の命を故意ではなく奪ってしまって、刑務所に入って、家族に看取られることもなく刑務所で亡くなっていく。きっと無念だったと思う。もちろん妻も娘も無念だったと思う。もっと生きたかったと思う」

事故の1年前の父の日に撮影された動画には…

莉子ちゃん「せーの、父の日、ありがとう」
拓也さん「何、お父さんに?」
莉子ちゃん「うん」
拓也さん「ありがとう」
拓也さん「あら嬉しい、これ莉子が書いたの?うわあ、ありがとう。莉子ありがとう。嬉しい」

暴走原因を「車の故障」と主張した飯塚氏 拓也さんは再発防止活動に専念

2019年6月、2本の杖をつきながら実況見分に臨んだ飯塚氏。

刑事裁判で、暴走の原因について「車の故障」と主張する飯塚氏に対し、松永さんは憤りをあらわにしました。

松永さん(2021年6月)
「いつも冷静であろうと心がけていますけど、きょうは言います。私は彼に刑務所に入ってほしい」

飯塚氏は逮捕されず、元官僚という肩書だったことなどからSNS上で「上級国民」と激しく中傷されました。しかし、拓也さんは憎しみだけに捉われたくないと葛藤を抱えていました。

松永さん
「莉子は僕の怒った顔を見たことがないですから。2人への『愛している』と気持ちと『ありがとう』という感謝の気持ちで心を満たしていたい」

飯塚氏は2021年に禁錮5年の実刑判決を言い渡され、刑務所に収監されました。

裁判終了後、拓也さんは再発防止活動に専念し、全国で講演を続けました。

松永さん(2022年12月)
「誰しもがこの(被害者の)立場にも加害者にもなり得る。皆様に当事者意識を持って、愛のある運転や交通安全意識を遵守していただければありがたいなと」

飯塚氏からの手紙 ブレーキとアクセルの踏み間違いを認める

事故から5年を迎えた2024年、松永さんの気持ちが変化するきっかけが訪れます。2月、飯塚氏からの手紙を受け取ったのです。

飯塚氏は手紙を書いた理由について、こう綴っていました。

松永さん
「『いずれは手紙でお詫びできなくなるとおそれて僕に手紙を出した』という趣旨で書いてある。これは本心だと思うんですよね。収監されて、そういう状態でなられている」

そして…

飯塚氏からの手紙
「心からお詫び申し上げます。暴走は私の勘違いによる結果だったことを理解・納得」

飯塚氏は事故の原因がブレーキとアクセルの踏み間違いだったことを認めたのです。

松永さん
「もう、彼のことを責めるようなことは言わない。まあ、許せるかどうかっていうのは、言えないんですけど。でも、もう責めるようなことは言わないです」

飯塚氏との最後のやりとり 面会で、絞り出すように…

さらに5月、強く希望していた飯塚氏との面会が実現。体調が悪化し、自分で話すことがほとんどできなかった飯塚氏が、唯一絞り出すように話したのが…

飯塚氏(2024年5月の面会時)
「高齢ドライバーに早く免許を返すよう伝えてほしい」

このやりとりが、最後になりました。

半年後の10月26日、飯塚氏は老衰のため死亡しました。93歳でした。

松永さん
「彼(飯塚氏)が亡くなる前に、面と向かって話ができてよかったなって。彼が僕の再発防止に対する思いにも応えてくれたから、今後、僕が生きていく中で、怒りとか憎しみだけじゃない感情で生きていけるきっかけを作ってくれたかな。そういう意味では感謝している」

飯塚氏が面会に応じてくれたことについて、「感謝している」と話しました。

松永さん
「私はある意味託されたと思ってるんですよ、彼の言葉を。彼の後悔とか経験とか言葉を託してもらったと思っているので、彼の後悔を無駄にしないように。飯塚さんが加害者になってしまった経験も、僕は無駄にしないように生きていきたいなって」

取材記者「飯塚氏の死が松永さんが次に進むための糧になるのでは」

小川彩佳キャスター:
家族を失った松永さんは、飯塚受刑者に対してさまざまな感情があったと思いますが、どのような気持ちの変化を感じますか。

取材した調査報道部 守田哲 記者:
松永さんの中には、妻と娘を亡くした松永さん、そして再発防止活動に取り組む松永さんという2つの松永さんがいるわけです。

実は、松永さんは飯塚氏本人に会う前に飯塚氏の長男に面会し、長男から、父親の運転を止めることができなかった後悔や、家族に対する激しい誹謗中傷というのを聞いていました。私もその場に同席していましたが、お互いが気遣っている様子が非常に印象的でした。

長男や飯塚氏本人との面会も含め、こうしたやり取りというのは相互理解と共感に基づいたやり取り、そのプロセスだったのではないかなと考えています。したがって、飯塚氏の死が、松永さんにとって次のステップに進むための糧になっているのではないかと思いました。

東京大学准教授 斎藤幸平さん:
飯塚氏も最初は車のせいにしていましたし、“上級国民”という非難もあって、ネットでは“クソじじい”扱いされていました。

今回、松永さんは最終的に「若者と高齢者の対立構造になることを望んでいません」とコメントしていて、被害者の家族として出すのは本当に大変だろうと感動しました。

その中で、飯塚氏も控訴を諦めたり、責任を認めるようになっていきましたが、飯塚氏が大きく変わるきっかけがあったのでしょうか。

取材した調査報道部 守田哲 記者:
やはり飯塚氏の中でも大きな葛藤はあったと思います。しかし、自分が起こした結果の重大さ、司法から下された厳しい判断、そして、収監された刑務所の中で自分に向き合うというプロセスを通じて、やはり死ぬ前に松永さんに直接謝らなければいけない、過失を認めなければいけないという心境に至ったのだと思います。

そして、飯塚氏は松永さんと面会した後に急激に体調が悪化してるんです。飯塚氏にとって、松永さんと会うことが、死ぬ前の最後の仕事だったのではないかと私は考えています。

==========
<プロフィール>
斎藤幸平さん
東京大学准教授 専門は経済思想 社会思想
著書『人新世の「資本論」』が50万部突破

守田哲
池袋暴走事故直後から遺族と加害者家族を継続取材
調査報道部「特別報道班」キャップ

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