理不尽な要求に威圧的な口調… 深刻化する“カスハラ”に桑名市が発表した「氏名を公表する」対策案はアリ?ナシ?【news23】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-11-29 15:34

深刻化しているカスタマーハラスメント=カスハラ。三重県桑名市が発表した「悪質なカスハラをする人の氏名を公表する」対策案。“自覚があるカスハラ”の抑止力になると期待される一方で、氏名公表で抑止できない“無自覚なカスハラ”とは…?

【画像で見る】タクシーのドライバーに暴言を浴びせる様子が…

「氏名公表」深刻化する“カスハラ”

2024年11月、都内でタクシーに乗車してきた女性客。

女性客
「これ抜けられるの?あっちの方に右行ける?」

運転手
「柵の向こうなので行けないですよ、ここは」

ドライバーが一方通行のため、右折できないと伝えた途端…

女性客
「急いでるときに限って、こういうバカ運転手の車に乗っちゃうんだよね」

運転手
「バカっていうのは失礼じゃないですか?」

女性客
「バカじゃない!?行けない道行っちゃって…」

別のタクシーでも、ドライバーに暴言を浴びせる様子が…

男性客
「ゆっくり行ってるから、後続車にこんなにバーッて、トラックでこんなゆっくり走ってるやつに抜かれとんのやろ!そっちのほうが危ないから言うとんじゃアホ!」

運転手
「そうおっしゃいましても…」

男性客
「なにが『そうおっしゃいましても』じゃアホ!」

葵交通 田中秀和社長
「(カスハラには)ずっと我慢をして耐えているので、そのストレスは大変、大きい。同じ人間同士でありますので、もう少しその部分は気をつかっていただけるとありがたい」

カスハラ被害は、首都高のお客様センターでも…

利用者
「大丈夫か?バカ野郎。聞こえてるから言ってんだから」

オペレーター
「何時に終わるというお約束・ご案内は、こちらではできかねます」

利用者
「お前じゃなんの役にも立たねぇ」

オペレーター
「申し訳ありません。今の段階では…」

利用者
「ばーか。大丈夫か?おい」

カスハラの問題が深刻化する中、大胆な対策を取る自治体も出てきています。三重県の桑名市は、全国で初めて「氏名の公表」を含むカスハラ防止条例案を、12月の議会に提出すると発表しました。

条例案では、カスハラを受けた店などが市に相談。有識者らでつくる対策委員会が、カスハラを行った人に聞き取りなどの調査を行います。その後、悪質なカスハラに該当すると判断されれば、警告を行い、それでも改善が見られない場合には、ホームページなどで名前を公表するとしています。

こうした対応に、街の人は…

賛成・桑名市民 女性
「賛成です。やっぱり理不尽に責められて、でもお客様だからと耐えてる部分は絶対あったので」

反対・桑名市民 女性
「お客さんの名前は、プライバシーにかかわってくるから、名前を出すことはダメですよね。やりすぎですよね」

賛成・60代男性
「お客さんのプライバシーを守るというほうに行き過ぎてしまって、従業員が守られないのはどうかと思う」

反対・20代女性
「私は反対です。自分もそういうつもりがなくても、そういうふうに思われて名前聞かれたりしたら怖いなと思います」

“悪質カスハラ”「氏名公表」に賛否 妥当?やりすぎ?

藤森祥平キャスター:
カスハラをした人の氏名の公表について、いろんな声が上がっていました。

小川彩佳キャスター:
VTRの中では賛否両論でしたけれども、島田さんは条例案についてはどう評価しますか?

予防医学者 島田恭子さん:
対応者や組織を守るという意味では、有効だと考えています。お店の対応者ではどうしようもないカスハラはやはり存在しまして、廃業に追い込まれたり、お店を閉じなければいけなくなってしまう事案に対して、警告するという2段構えを取れる点では、意味のある取り組みかなと考えています。

小川彩佳キャスター:
抑止力にはなるということなんですね。伊沢さんはいかがですか?

株式会社 QuizKnock CEO 伊沢拓司さん:
先ほどのVTRの映像を見てしまうと、どうしても感情的な判断が入らざるを得ないなとは思ってしまいますが、より慎重に考えなければならないケースかなと思います。

これまでもひどいケースというのは、刑事罰に処されててそのときに名前は出ています。今回の条例の対象となるのは、そこには当てはまらないケースだと思われます。

委員会が開かれるということですが、正規の裁判を経ない判断となりますから、法による法律や条例による判断が開示されないわけです。そうなると、それが正しく運用できるのかというのは、考える必要がでてきます。

しかも、今はSNS全盛の時代にあって、いわれなき「ネットリンチ」といった名前を勝手に出されるとか、犯人に仕立て上げられてしまうことも存在します。

間違った名前が出る、ある犯人に対して別の名前が出るケースもあるなかで、名前を出すことに関して、この条例が認められてしまうと、その「ネットリンチ」を助長しかねず、社会的な影響を考えてしまう可能性があります。

カスハラを減らす方法は他にもあるなかで、あくまでこの名前を出すのは目的ではなくて減らすための手段ですから、そういったあたりの影響というのも、社会的なリスクを勘案して議論が進むべきかなと思います。

予防医学者 島田恭子さん:
公表制度の導入の場合、一般的にはその公表期間・削除基準などの運用ルールというのが考えられていると思います。

慎重な適用が必要ということで、特にカスハラの場合は、認知症や精神疾患ゆえにカスハラとみられるような言動をしてしまう方々も一定数います。そこをどのように基準を設けていくかは、とても慎重な判断をしなければならないと思います。

藤森祥平キャスター:
実は、このカスハラという言葉が広がる前、奈良市は2007年からこうした取り組みをしています。独自の対策で、市の業務を妨害する“悪質クレーマー”の氏名を公表するとしていましたが、これまで公開されたのは、実際には1人だけでした。

奈良市の担当者は、これによって「職員が毅然と対応できる」と、一定の効果があったと話をしています。この氏名公表による抑止効果は、どこまで期待できるのでしょうか?

その正義感「無自覚カスハラ」かも

予防医学者 島田恭子さん:
自覚あるカスハラには対応することができ、有効だと考えています。カスハラには「自覚あるカスハラ」「無自覚カスハラ」の2種類があります。

強く出ればまけてもらえるんじゃないか、サービスが通るんじゃないかといった「自覚があるカスハラ」と、これは間違っているから教えてあげなきゃといった、マウンティングするような特性の方々、どうしても知らず知らずのうちに上から目線で物を言うといった「無自覚カスハラ」に分類されます。

自分はカスハラと思っていないけれども、カスハラと言われかねないような言動に出てサービス内容を要求している「無自覚カスハラ」に関しては、氏名公表が抑止力にはなり得ないです。

藤森祥平キャスター:
これは現在注目されていて、「無自覚カスハラ」を知ってもらおうと、札幌市がポスターを作っています。

例えば、「言ってやらなきゃ」という正義感から来るカスハラの暴言、自分の好きな話を延々と相手に聞かせて時間を拘束するのも、「無自覚カスハラ」に該当します。これ良かれと思ってやってることが、実はカスハラになってしまっています。

株式会社 QuizKnock CEO 伊沢拓司さん:
カスハラをしている方は、このポスターを見ると「これはひどい!」と思うかもしれないけど、実は自分が無自覚にやってしまっているケースもあるわけで、改めてこの基準を適用することの難しさを感じます。

従業員の方を助けるというのが、大原則になってくるわけですから、お客さん側をいさめるのは限界がある以上、従業員側にパワーを与える手段をつくる対策が必要になってくるわけです。そうなると、ガイドラインを作ってそれを周知徹底する必要があります。

そして、実際にカスタマーハラスメントが起こったときに、どういう対応をするべきか、より広く周知されることが大事だと思うので、従業員側のエンパワーメントが対策の鍵になると思います。

小川彩佳キャスター:
こういったポスターで自分もカスハラしてしまっているかもと考えることは、とても大事だと思います。ただ、カスハラにならないようにと意識するあまり、萎縮してしまって正当な指摘だったりということができなくなってしまうことも考えられます。

予防医学者 島田恭子さん:
こういう議論になると、「もう何も言えないんじゃないか」と思われる方もいらっしゃいます。でも、正当な要求・主張はしていいんです。威圧しないで、適切に言うことが前提ですが、必要な要求をする消費者の権利は侵害されるべきではないので。

そういう意味では、「威圧しないで、サービスの範囲内の必要なことを要求してくださいね」というのが、大切なガイドラインということになります。

株式会社 QuizKnock CEO 伊沢拓司さん:
感情を伝えること、感情を発散することが目的ではなくて、コミュニケーションの目的はあくまで相手の行動を変容させることだと思うので、そこで強めに出るメリットは最終的にはないよということは、みんなで自覚しておきたいですよね。

予防医学者 島田恭子さん:
言ってるほうも、自分のためにならないということに気づいていただければと思います。

藤森祥平キャスター:
人手不足になってしまったら、今度は我々がサービスを受けられなくなってしまいます。

小川彩佳キャスター:
自分を俯瞰してみる癖をつけたいです。

カスハラについて「みんなの声」は

NEWS DIGアプリでは『カスハラ』について「みんなの声」を募集しました。

Q.「カスハラ」で氏名公表 どう思う?

「賛成」…69.0%
「反対」…9.5%
「どちらとも言えない」…20.1%
「その他・わからない」…1.4%

※11月28日午後11時17分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは29日午前8時で終了しました

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〈プロフィール〉
島田恭子 さん
予防医学者 
カスタマーハラスメント対策やメンタルヘルスが専門
企業や自治体のアドバイザーも務める

伊沢拓司 さん
株式会社 QuizKnock CEO
東京大学経済学部卒 クイズプレーヤーとして活躍中

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