東京一極集中は今に始まったことではないが、“103万円の壁”の引き上げが税収を減らし地方財政に悪影響を及ぼす可能性から今、地方自治体の危機が改めて懸念されている。
“地方創生”が謳われて10年。国からの助成もそれなりにあるが、活性化はなかなか形に現れない。番組ではそんな流れに反して奇跡的な成功を遂げる自治体を取材した。果たして何が成功を生んだのか…。本質に迫った。
【写真を見る】国の言いなりは“失敗の素”⁈成功する地方自治体は自ら考えた【報道1930】
「コンサルティング会社の業界と内閣府の間で“デキてんじゃないか”って…」
2014年、安倍政権のもと地方創生推進交付金が創設される。それが機能するよう内閣府特命担当大臣として地方創生担当大臣の任が設けられた。その初代大臣が石破総理だった。だが10年経った今振り返ると上手くいかなかったことは内閣府も認めている。そもそも地方創生交付金は地方を活性化させ人口減少を防ぐなどのアイディアに国がお金を出すというもので、この10年に1兆7000億円の国家予算(税金)が1700を超える自治体に投入された。しかし石破総理は言う「大臣時代自治体に“総合戦略”を出してもらったが東京のコンサルティング会社に頼む自治体が続出した(中略)なぜ(地方の)人口が減るのか霞が関でわかるはずがない。自分たちで考えない限り答えはない」
かつて鳥取県知事として画期的な地方行政を執り行った片山善博氏は“それに尽きる”という。
元総務大臣 片山善博氏
「(地方創生失敗の本質は)総理がおっしゃってますが自分たちで考えない限りダメ…まさにこれなんです。始まった当時、表向きは自分たちで考えて出しなさいって(霞が関は)言ったんですが、東京のコンサルに頼みたいような仕掛けにしたんです。交付金の中の1000万円を特別枠にして頼める金にした。私なんかコンサルティング会社の業界と内閣府の間で“デキてんじゃないか”って…」
これにはかつて明石市長として片山氏同様の画期的な行政改革を断行した泉房穂氏は大きく頷いた。
前明石市長 泉房穂氏
「私2011年から市長ですから14年15年のことはよく覚えてる。本当に国の方がコンサルに頼んでくださいって感じ…。とにかく見栄えだけ整えろって感じでした。明石市は断りました。コンサル使ったら職員は学びませんやないですか…」
泉氏も片山氏も地方自治体の長として霞が関の中央集権然とした“やり方”を語り、地方自治体は顔色をうかがいながら“右へ倣え”する…。それが中央と地方の関係だと力説した。やはり昔も今も霞が関は“自分たちが上だ”と思っているのか…。
元総務大臣 片山善博氏
「そう。自分たちが上で地方自治体は実力がないと…妙なエリート意識があるんですよ」
前明石市長 泉房穂氏
「ぜひ言いたいのは、1999年の「地方分権一括法」成立で、国と地方は対等って決まったわけですよ。でも国は対等なんて思っていません。ずーっと上と思ってます。尚且つ地方で働いてる者は自分たちが下で、教えを乞うって発想が変わっていない…。私は地方に任せろやと思います」
国、地方双方の意識改革から始めないと予算だけ増やしても何も生まれないようだ。そんな中、奇跡を起こした自治体があった…。
キーワードは“安心感”
岡山県の内陸部、鳥取県との国境に「奈義町」という町がある。人口約5500人のこの町は出生率を実に2.95まで伸ばし“奇跡の町”と呼ばれている。
奈義町には17年前から「なぎチャイルドホーム」という地域ぐるみで子育てをサポートする拠点が設けられている。子どもをここに連れてきていた母親は言う…。
「色んなママさんと触れ合えますし、悩みとかも相談できるので結構子育ての悩みも解消されるし過ごしやすいなぁって…」
奈義町では、地域住民が子どもを自宅で預かり合ったり、散歩に連れて行くといった子育て支援の取り組みも盛んだ。
神奈川から嫁いできた二児の母は、里帰りから戻ると奈義町の良さを改めて感じるという。
「…人と人とが凄く繋がりやすくて…。町全体で子育てをしてもらう感じで、あんまり孤独感を感じることがないです。子ども2人目3人目考えられるのは奈義町だからなのかなと…」
奈義町はいわゆる“平成の大合併”の時、住民投票で合併を否決。そして合併されないためには人口を増やすことだと町をあげて取り組んだ。少子化対策というと国もどこの自治体もまず“予算”の話になるが、奈義町はそこが違った。キーワードは“安心感”だった。
そのための施策…、
*高校まで医療費無料
*高校への就学支援金24万円/年
*空き家購入新築・リフォーム補助金
*子育ての間に少しだけ働きたい親と人手が欲しい企業とのマッチング
これらが功を奏した。
奈義町 金田知巳 副町長
「一言で言うと“安心感”という言葉じゃないかと。はじめは私たちも経済的な面だけだったんですが、財政的だけでも精神的だけでもなく、トータルの安心感。子育てのために一時的にでも仕事を辞める方もいらっしゃると思います。それで社会から離れてしまう訳ではなく、社会との接点を維持させる、そういった取り組みをしています」
安心感を充実させた結果、子育て世代の85%が2人以上の子をもうけた。さらに子育てのために奈義町に移住する家族も増えた。
これだけ子育てを重視すると当然予算のやりくりは大仕事だ。
奈義町 金田知巳 副町長
「最議員さんの数を14名から10名にとか…。職員の数についても110を90名程度に…。大きなところから小さなところまで見直して…(中略)決して奈義町以外じゃできないようなことはしていないと思います。施策の実現には財源が必要になってまいります。その手立てがどこまでできるか…」
つまり“身を切って”奇跡の町を作ったのだ。本気でやろうと思えば、全国どこの自治体もできることだ。もちろん国においてもだ。
「阿蘇の自然環境に工場系の企業っていうのが非常に似合わないというのが私の持論」
もう一つ国に頼ることなく独自の発展を遂げる地方自治体を訪ねた。熊本県、阿蘇山の麓にある高森町だ。ここには“マンガ・シリコンバレー構想”なるものがある。
高森町では去年、町唯一の高校、県立高森高校に日本で初めてとなる『マンガ学科』を創設した。マンガによる町おこしを模索した町長が、週刊少年ジャンプの元編集長でもある熊本出身のマンガ編集者の協力を得て実現した。
学校にはプロの漫画家と同様の画材、機材が常備され生徒は自由にそれを使える。さらに、地方から入学する生徒のための寮も設けた。生徒は言う…。
「漫画家さんとほぼ同じ機械が使えるって凄いことだしお金もかかるし…、楽しいしかない」
おかげで、長く定員割れで廃校の話まであった生徒数がほぼ定員となった。
充実した設備を考えると相当お金もかかっているだろうと心配したが全てふるさと納税で賄われていて地方創生交付金は使っていないという。
熊本・高森町 草村大成 町長
「住民の方含め“え~マンガ?”みたいなところからのスタート。特に教育委員会というのは当然子どもたちの成長過程の中で義務教育・高等教育にあるわけですから…。前例のないことをやるというのは…、まあまあ反対…というかほぼ反対だった…。(―――なぜマンガ学科?)地方創生では企業の誘致がよく言われるんですけど、メリットもあるんでしょうけど、阿蘇の自然環境に工場系の企業だったりっていうのが非常に似合わないというのが私の持論で…。そういう中で日本の文化の大きな柱のひとつでもあるマンガ、つまりエンタメは紙と鉛筆だけでいいじゃないですか。空気汚すわけでもないし、水が汚れるわけでもないし、つまり環境に関しても何ら問題がない…(中略)将来のエンタメ業界、マンガ・アニメ、ここを世界のマーケットとマッチングできる日本の人材を輩出していくという新しい仕事を生んでいく…。マンガやエンタメは新しい産業を生んで行く可能性が極めて高い…」
番組のニュース解説、堤信輔氏は熊本と言えば半導体が注目されているが、半導体工場は水を汚すかもしれない懸念があるのに対し、マンガ・シリコンバレーは環境に配慮している点が素晴らしいと賞賛した。泉房穂氏も絶賛する。
前明石市長 泉房穂氏
「実現には相当苦労されたと思う。そこには哲学、理念があったと思う。感動しました…」
(BS-TBS『報道1930』11月26日放送より)