半世紀以上続いた独裁政権が、わずか12日で崩壊したシリア。関係国がそれぞれの思惑で軍事行動に乗り出すなか、民主化は進むのか、それとも混乱の始まりなのか…。手作り解説でお伝えします。
【写真を見る】“半世紀独裁”のアサド政権、12日で崩壊した要因 シリアの今後は…民主化?混乱?関係国の思惑交錯【サンデーモーニング】
“世界最古”の都市に世界遺産の石鹸作り
内戦が始まる前、2009年の首都ダマスカスです。世界で最も古くから人が住み続けているとされ、“オリエントの真珠”ともいわれる美しい街でした。
そして、第2の都市アレッポの特産品が石鹸。ちょうど今月、世界無形文化遺産に登録されたばかりです。オリーブオイルで作られ、肌に優しいということで日本にも輸入されています。この石鹸作りや、パルミラの古代遺跡など、各地の世界遺産も、10年以上続く内戦で危機にさらされてきました。
民主化の徹底弾圧で“世界最大規模の難民”
シリアではアサド政権が親子2代にわたって50年以上、独裁を敷いてきました。2011年には、「アラブの春」の民主化運動がシリアにも波及しましたが、アサド大統領は徹底的に武力弾圧。それが内戦に発展すると、ロシア軍による空爆の支援を受けるなどして、反体制派を一部の地域に封じ込めていました。
内戦によってシリアは“世界最大規模の難民”をうみだすことになります。
こちらはトルコの海岸に打ち上げられた3歳の男の子の写真。シリアから逃れ、ギリシャに向かう途中にボートが転覆し、命を落としました。
人口の3割にあたる約640万人が難民となり、隣国トルコに約315万人、ヨーロッパにも100万人近くが逃れ、「ヨーロッパ難民危機」と呼ばれる状況に、各国で排斥運動も起こりました。
首都陥落わずか12日の理由
今回、世界が驚いたのは、アサド政権がわずか12日で崩壊したことです。要因のひとつが「政府軍の士気の低下」。欧米の経済制裁や内戦の長期化で戦闘意欲が低くなったところに、大規模な攻撃を受け、総崩れになったとみられます。もう一つが「後ろ盾の疲弊」。ロシアがウクライナ侵攻で余力をなくし、イランやレバノンのヒズボラがイスラエルとの戦闘で消耗したタイミングで、反体制派が攻勢に出ました。
“元アルカイダ”ジャウラニ指導者の経歴
その反体制派の主力となったのが「シリア解放機構」です。指導者のジャウラニ氏は2003年に国際テロ組織・アルカイダの一員としてアメリカ軍との戦闘に参加。内戦が始まるとシリアに戻り、その後、アルカイダとの関係を断って、アサド政権の打倒を掲げた「シリア解放機構」を立ち上げたといいます。
関係国の思惑交錯で今後のシリアは?
この「シリア解放機構」が中心になって暫定政権が発足しましたが、シリアの先行きは不透明です。アサド政権が崩壊するとすぐさま、トルコ軍は敵対するクルド人勢力を攻撃。イスラエル軍もシリア領内に侵攻。アメリカ軍は過激派組織「イスラム国」の拠点を空爆しています。新たな混乱の始まりなのか、それとも、ようやく民主化に向かうのか。
立命館大学の末近浩太教授(中東研究)は「各国の思惑の違いがシリアを分裂させる可能性もある。また、国内の各勢力で合意形成できなければ内戦が再燃する懸念もある」と指摘しています。