「鉄は国家なり」という言葉がありますが、鉄道や兵器に欠かせない「鉄」は近代国家の力の源だとされています。
かつて世界一・USスチールを日本が救う?
アメリカにおいて歴史的な役割を果たしてきたのが、1901年にペンシルベニア州ピッツバーグで創業した「USスチール」です。
第二次世界大戦のノルマンディ上陸作戦に使われた揚陸艦、マンハッタンのエンパイアステートビルなどに、USスチールの鉄鋼が使われ、当時世界一の生産量を誇るアメリカを代表する企業でした。
しかし、近年は中国製の“安い”鉄鋼が世界を席巻し、最新の世界ランキング・トップ10のうち、6社は中国企業です。経営不振に陥ったUSスチールは24位に低迷し、このままでは工場の閉鎖も懸念されていました。
※世界鉄鋼協会まとめ
そんなUSスチールの買収に、世界ランク4位の日本製鉄が乗り出しました。USスチールの時価総額より4割高い、約2兆円(141億ドル)での買収を提示したのです。
さらに、10年間は生産能力を維持することを約束するなど、雇用や年金も守られると強調しています。USスチール側にとってもメリットが大きい買収話でした。
企業間取引に政治の影…実利あるも反対?
ところが、大統領選に向けた動きが本格化した2023年12月、全米鉄鋼労働組合が買収反対を表明。
2024年1月にはトランプ氏が反対を表明し、さらに後を追うように3月、バイデン大統領も否定的な姿勢を示したのです。12月には、外国企業の投資を審査する機関「CFIUS」は判断を下さず、バイデン大統領に一任しました。
同じころ、USスチールの拠点があるペンシルベニア州などの20の地元市長らは、買収を許可するようバイデン大統領に求めていましたが、2025年1月3日、「買収禁止の大統領令」が出されたのです。
バイデン大統領の言い分は『国家安全保障上の懸念がある』というもの。「鉄」が外国企業の支配下に置かれることにリスクがあるというのですが、本音としては、民主党の支持基盤である「全米鉄鋼労働組合」に配慮したのでは、と指摘されています。
その鉄鋼労組は反対の理由として「将来も雇用が維持されるかは分からない」と主張しています。
一方で、USスチールをめぐっては、アメリカ企業「クリーブランド・クリフス」が日鉄の半額ほどの金額で買収を試み、不成立になっていました。
鉄鋼労組の委員長はクリフス社と近いとされ、『日鉄の買収を妨害しているのでは』と指摘されています。
「日本政府と日鉄が連携してうまく交渉すればチャンスはある」
そんな中、トランプ次期大統領の判断が注目されます。
トランプ陣営に詳しい明海大学の小谷哲男教授は、「買収禁止を覆す可能性は低い。側近はみな、日米双方の利益になると理解している。日本政府と日鉄が連携してうまく交渉すればチャンスはある」と指摘しています。
バイデン大統領による買収禁止令が、トランプ次期大統領によって覆る可能性はあるのでしょうか。