「苦しみを楽しみに変えて」挑戦し続ける 元F1レーサー・片山右京さん【Style2030】

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2025-03-23 11:00
「苦しみを楽しみに変えて」挑戦し続ける 元F1レーサー・片山右京さん【Style2030】

SDGs達成期限の2030年に向けた新たな価値観、生き方を語る今回の賢者は元F1ドライバーの片山右京氏。1992年から6年連続でF1に参戦。日本人最多の95戦に出場し、怖いもの知らずの走りで決勝5位入賞を果たすなど活躍した。引退後は登山家としてキリマンジャロやマッキンリーなどに挑み、7大陸中6大陸の最高峰を制覇。自転車競技選手としても数々のレースに参戦した。現在は自転車の競技者を育成し、日本チームとして初のツール・ド・フランス出場を目指している。日常における環境に優しい自転車文化の普及にも取り組むほか、子どもたちに挑戦することを教える「片山右京チャレンジスクール」を15年以上続けている片山右京氏に、2030年に向けた新たな視点、生き方のヒントを聞く。

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自転車をもっと楽しく。レーサー時代はロッキーみたいに徹底的に

――賢者の方には「わたしのStyle2030」と題し、話していただくテーマをSDGs17の項目の中から選んでいただいています。片山さん、まずは何番でしょうか。

片山右京氏:
はい、3番の「すべての人に健康と福祉を」をお願いします。 

――この実現に向けた提言をお願いします。

片山右京氏:
はい。「もっと楽しく正しい自転車社会を」。

――今日は自転車のお話をたくさんしていただけると。とはいえ、元F1ドライバーの片山さんですから、そのあたりのお話からお聞きしたいなと。

片山右京氏:

17歳のときにテレビとかでF1を見て、かっこいいと思って、学校の先生に「俺F1レーサーになりたい」って言ったら、「アホか、お前は。テレビの中の世界やぞ」と言われて、だけどどうしても好きでなりたくて、そっちを目指してたくさんの人に応援してもらったりサポートしてもらってっていうちょっと変わり種なんです。

――好きでなりたかったF1ドライバーにどうやってなったのですか。 

片山右京氏:

最初にみんな夢を見たとしてもなれないっていうか、ぶつかる壁があるじゃないですか。お金なんですよ。僕がレースを始めたときも、車を買ってサーキットを走ってっていうと1500万から2000万、今だったら多分5、6000万かかるんです。

まず何ができるかな、免許取りに行こうって。サーキットに行く交通費がないんで、サーキットに住んじゃえばいいって。サーキットに住めばお給料もらえて、技術を教えてもらって。

働き出したら、廃棄されたものを使えるようにして販売したり、そんなことをやってると見ててくれる人もいて。苦労してるように見えるんですよ、好きなことやってるから苦労じゃないですけど、助けてもらったり。だから、お金がないからじゃなくて、物をどう準備するかとか、そういう考え方ができたんですね。

例えば練習でサーキットで1回走ったら、頭ん中で体に染み込ませるのは同じじゃないですか。F1ドライバーになってからも一緒なんですけど、ずっと一日中イメージで体に染み込ませて毎日走っていました。物理的に心拍数が180近い中で2時間走らなといけないから、そのための運動をしたり、必要なものを徹底的にロッキーみたいに。

――世界に出て行って感じたことは? 

片山右京氏:

アイルトン・セナが死んだときも後ろを走っていて、そういう非現実的なことが起きるんだっていう、不条理と思うようなこともあるし、シューマッハみたいな。やっぱり2人とも天才で、そこは「もしかしたら俺かなわねえかな」なんて思った瞬間に終わったんですけど、次の2位争いをして、結局5位にしかなれなかったけど、そこまでは凡人でもいけるっていうか、努力すれば。でも、天才がいるんだっていうね。

――天才ってどこが違うんですか。

片山右京氏:

反射神経とか動体視力とか、そういったものが負けてるかっていうと、スポーツの世界でフィジカルの差はないんで、最後に何が違ったんだろうって今思うと、情熱かなっていう。

本当に僕は命をかけてなかったなっていうのが。一つ守ると2位になるし、二つ考えた瞬間に3位に落ちるから、もっともっと突き抜けて、若いときのまま調子に乗って走り続けていく人生を送ってもよかったなって。ちょっと利口になった瞬間に、つまらない大人になりましたね。

片山右京氏が提言に掲げる「もっと楽しく正しい自転車社会を」には、どんな思いが込められているのだろうか。

――日本の現状をどのように見ていらっしゃいますか。

片山右京氏:

今はモビリティ(移動手段)として環境にいい、健康にいいっていうことで、2030年までに自転車をマイクロモビリティ(短距離の移動手段)として取り入れようっていうのが世界中で進んでるんですね。

ただし、残念なんですけど、日本だけが信号を守らない悪者的な。ルールが急に変わったらどう走っていいかわかんないし、ぶつかると高額賠償とか。今やっと少しずつブルーの線を引いて、道路交通法が変わって。

パリのオリンピックのときにも道が狭くてそんなもん作れないって言われたのに、7キロしかなかった自転車道を1年間で408キロにして、今行ったらびっくりしますけど、パリのど真ん中に自転車の専用道があって、追い抜き車線もあったり。

そうやって世界中は排気ガスを出さなくて、ガソリン食わなくて、環境にいい、健康に良い自転車がモビリティの中心になってるんですけど、もっともっとしまなみ海道とか東京でもレインボーブリッジを止めてやる自転車のイベントとかってなっていくと、日本もちょっとずつ良くなっていくのになって。

――私も近所だったら電動自転車で行きますが、道幅が特に都内は狭くて、やっぱり怖いですね。

片山右京氏:

それも流行らない大きな理由だと思います。電動アシストにお子さん乗っけて幼稚園に連れて行こうとか、お父さんたちだって駅まで便利だから乗るんですけど、車に乗ってると僕は自転車の人はたまにルール守らないから邪魔だなと思うし、自転車に乗ってると車の人は意地悪だなと思うし。

――お互いよく思っていないんですよね。

片山右京氏:

これを免許制にしろとか、罰金とか罰則を強化しろってよく言うんですよ。だけど、67%ぐらいは免許持ってる人が乗ってるんで、免許があればなくなる問題じゃなくて、最近またキックボードとかまだちょっとカオスなところがあるんで。

でも、過渡期にはそういうことが起きるから、これも10年後、20年後、30年後に振り返ったときには是正されてはくるんで、それも含めてみんなで声を荒げて罵り合うんではなくて、譲り合ったり声を掛け合ったり。

マイヨ・ジョーヌで日本を変える。「大事なのは想像すること」

片山氏が今取り組むのが自転車競技者の育成だ。ツール・ド・フランスに日本チームとして初出場を果たすのが目標なのだが、これには狙いがあるのだという。

片山右京氏:
野球の大谷翔平選手みたいなヒーローが出て、かっこいいメッセージとか送ったらイメージも変わるんでしょうけど。世界で見ると自転車は超ウルトラ弩級のスーパーメジャースポーツで、「ツール・ド・フランス」っていうのは、リアルのお客さんが1600万人。ヨーロッパの三大スポーツがサッカーとF1と自転車ですって言ったら、え?って感じがしますよね。

――広く周知されていくためにはスターが必要だということですね。

片山右京氏:

僕はチームを作って、とにかく日本のチームでツール・ド・フランスで日の丸を揚げる、君が代を流すっていうのをやってるんで。日本人が勝てるわけがないとみんな言うんですよ。だけど、みんな落ち着いてくださいって。野茂(英雄)選手が(アメリカへ)行ったとき、同じこと話したでしょって。大谷翔平選手を見て、今同じことを言う人がいますかって。

日本人はオリンピックでもマラソンだろうが、フェンシングだろうが、卓球だろうが、バドミントンだろうが、レスリングだろうが、柔道だろうが(勝っています)。勝ってないのはF1と自転車だけですよみたいな。

F1は今角田(裕毅)くんがいつ勝ってもおかしくないところに来てるし、自転車も短距離は去年の末には世界選手権で金メダル三つも獲ったり、もうフィジカルの差はない。世界一の花形のツール・ド・フランスってところでは今、アジアではNo.1。世界ランキングも29位とか30位あたりまで来たんで、実力がないわけではなくて、手前味噌ですけど、伸びてるんです。

そんなことはできるわけない、お前に何ができるんだって、F1でも他のスポーツやってるときでも、今も言われ続けてますけど、大事なのは、日本人がマイヨ・ジョーヌっていうリーダージャージ(ツール・ド・フランス個人総合成績1位に与えられる)を着て最終日にシャンゼリゼに入ってくる日が必ず来るんで、それを想像すること。

――時々、気を抜きたくなることはないんですか。

片山右京氏:

僕、いつも気を抜いてるんですよ。ちょっと正しい言い方じゃないけど、自分がもう終わってる人間で、今F1の最前線で今日勝たないと日本一になれないでもないし、ただの年寄りになってきてるんですから、よく見てもらう必要もないし、物理的なところで言うと、両親が他界して介護とか大変なのも終わって、お金ももうかからない。子どもたちも結婚したりして出ていく。失うものはない。

仕事だけをしてればよくて、確かに肉体とかは若いときとは違うかもしれないけども、運動する時間もあるし、多少目が悪くなって、耳が悪くなって、口が悪くなってもみんな大目に見てくれて、そういう意味じゃ今、青春真っ盛りで、運動して筋肉痛になっても果たしてこの筋肉痛はいつの筋肉痛だ?ぐらい。リラックスしてます。

――肩肘張らないというか、ありのままに過ごすということがいいんでしょうか。

片山右京氏:

むしろ若い頃から駄目なことばっかりで、失敗して経験して、迷惑かけて、いつか頑張って立派な大人になりたいと思ったのが、無理だなと。素直に生きようっていう。その代わりバトンタッチをちゃんとできるように、正直ベースでいこうっていうことにした瞬間から見栄を張るのもやめたり。

僕は同じ服装を5枚ずつしか持ってないんですよ。スポンサーたくさんしてもらって、チームとか何億もかけてやってるけど、自分の車も持たない、女性のいるお店に行かない、ギャンブルやらない、タバコ、酒やらないとか。

僕は最低限の生活の、バカみたいなお金の使い方はしないんで、若い人を応援してあげてくださいっていうので運営させてもらってるんで、端で見るよりは真面目ですよ。すごく質素。さっきも楽屋にあるお弁当三つぐらい持って帰れば三、四回食事助かるなと。

「挑戦することからしか始まらない」。人生最後の挑戦は… 

――続いてお話していただくテーマですが、片山さん、次は何番ですか。

片山右京氏:
はい。4番の「質の高い教育をみんなに」っていうことで。 

――片山さんの提言をお願いします。

片山右京氏:
「後ろには戻れないから前を見て頑張ろう」って。残念ないろんなことが起こるけど、後ろには戻れないから、そこでちゃんと反省したり線を引いて前に進んで努力をしていくっていうことをいろんな経験とか体験をしてもらって、子どもたちに伝えたいなってことですね。

片山氏が2009年から続けているのが、子どもたちのためのチャレンジスクール。子どもたちは山登り、ロッククライミング、ラン、自転車、キャンプなど様々なことに挑戦する。この活動を通して、片山氏が伝えたいこととは。

片山右京氏:
例えば、フリークライミングとかちゃんとロープをつけて安全にやるんですけど、最近はキレちゃう子がいるんですね。途中で止まっちゃって。「どうした?頑張れ」って言ったら、「下りる」って。「もうちょっとじゃないか」って言ったら、「下りるって言ってんだろ!」とかってなる。

下でご両親とかも「下ろしてあげてください」って。「お前な、そうやって生きてきたか。右京さんな、絶対下ろさないから。はい、右手を上げて。頑張って、勇気持って足上げてみて」って言って、絶対下ろさないから諦めて向こうもやるわけです。上に着くんですよ。

大事なのは「お前は自分の力で登ったんだってことを覚えとけ」って、できるってことを伝えてあげることなんです。親は迷惑そうな顔をしてるけど、しばらくすると、「あれから変わりました」となるんですよ。だから、ブレーキをかけてるのは親だったり。親子で山登りしたりすると、大体朝は親が「お腹減ってないか、寒くないか」ってやってるんですけど、夕方になると、親がボロボロで、子どもの方が体重軽いし元気で。

僕たちが勉強させてもらったのは、子どもは大人を大好きなんですよ。だから、かっこつけて、ルールを守れとか、口だけで言うより、一緒にチャレンジして一緒に失敗している姿を見せる方がよっぽどいい教育にもなるし、オーバーですけど、ひいては健全な社会を作っていくためになるんです。もっと子どもたちも大人もチャレンジしていろんなことやってみたら、何か見つけられるかもしれないし。富士山登ったことありますか。

 ――ないです。 

片山右京氏:

フルマラソンやったことありますか。

――ないです。

片山右京氏:

そんなことやる必要ないじゃないですか。だけどね、人間だけには達成感とかそういうのがあるから、やっぱり苦しいこととかをやる。

失恋したこと、大学落ちたこと、会社が潰れたりしたこと、親との別れ。そういうことってしみ込んで持ってる財産だから、3日間の筋肉痛と引き換えにやったことは、言葉を変え、向き合い方も変えるし、大事なんで。

「できるかできないかなんて関係ない」「とにかくチャレンジするんだ」「すべては挑戦することからしか始まらない」みたいに言ってくれる大人たちがもっといないと子どもたちがかわいそうですよね。

――挑戦とかチャレンジという言葉が、ある意味軽く使う言葉の一つになっています。

片山右京氏:

真剣に言いつつ精神論ばっかりでやると、なんかストレスがかかるから、結果より大切なものがあるんで。仮に夢を見て挑戦して、10年後に自分が立っている場所が思ってた場所と違ったとしたって、やってきた時間とかそういったものが自分を作ってる。その中で、ちゃんと恩返しをして、社会貢献とかもしてると、それが自分が道を外さない最大の理由になっていることに気がつくときが来ますからね。

――山の事故で仲間を亡くされたこともありました。

片山右京氏:

正直何か月も本当に泣き伏して一歩も出られなくて。僕を助けてくれたのは、嘘でもいつわりでもない、会ったこともない人たちで、まるで映画とかみたいに家にトラックが来て、ダンボールで手紙がいっぱい着いて、メールとかは何万通って来て、「早く元気になってくださいね」「F1の解説楽しみにしてますよ」とかって励ましてもらって。人間って性善説だなって。

そうやって助けてもらって、僕もだからこそ命も時間も戻らないから、そこはひどい人間だけど全て置き去りにして残ってる時間を死ぬまで、逆に死んだとしても恩返し、いろいろ罪滅ぼしできるように。命とか費やす時間っていうのは、タイムマシンなんてのはないんで戻ることはできないから、何かあっても前に向かって努力するしかないんで、そこはもう、愛と懺悔の日々です。

家族とも子どもたちとも今でもちゃんとお父さんの話をして一緒に山に登ったりしてますし、僕はもう1回最後の挑戦は、自分のためにやりたいたった一度の一生なんで、どこにそれを置くかって言ったら、やっぱり山なんで。ツール・ド・フランスが終わったら、もう1回1人で高みを目指して、無酸素で1人でいろんな山に登りたいです。

――これまでのご自身のお話を振り返っていかがですか。

片山右京氏:
今も苦しいし、いろんなことと向き合って当然ですけれども、人が生きてればあるんで。苦しんでるのは生きてるからこそ起きるんで、それを楽しみに変えて新しい価値観を入れて余白を埋めたいです。

(BS-TBS「Style2030賢者が映す未来」2025年3月16日放送より)

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