相次ぐ不適切保育 「泣いとけ」「いい加減にしろ」記録された音声から見える実態とは? “通報義務”には課題も【報道特集】

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2025-11-29 06:30
相次ぐ不適切保育 「泣いとけ」「いい加減にしろ」記録された音声から見える実態とは? “通報義務”には課題も【報道特集】

全国で相次いでいる不適切保育。虐待についての通報があっても、証拠がないという理由で行政が動かないケースは少なくない。保護者らが自ら動いて入手した音声からは、「密室」とも呼ばれる保育室で起きていることの、実態が浮かび上がる。

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2歳の娘に異変 保育園に相談も「いつもと変わらない」 

保育士A「自分で歩きなさい、足があるんだから」

これは福岡市にある保育園で録音された音声だ。保育士2人が2歳児に向けて容姿をからかうような言葉を続ける。

保育士B「目玉がとれちゃう、カメレオンに似てます」
保育士A「褒め言葉よ」
保育士A「マンボウみたいよ。魚でいうと」
保育士A「びっくりだった」
保育士B「ブサイク」

録音したのは2歳の娘を通わせる夫婦。8月ごろ、娘を保育園に連れていこうとすると、異変が起こった。

母親
「私たちの服をつかんで離さず、吐くほど泣いたりとか。(娘が)自分の髪を抜けるまで引っ張り続けたり、保育園のカバンを投げて嫌だと泣き続けてのけぞるという行為が毎朝続いて。私たちのことをいきなり叩いてくることが増えた」

一体何が起きているのかと、何度も保育園に相談した。だが、「園でのお子さんの様子はいつもと変わらない」としか言われなかったという。

父親
「(園に)不信感を抱いてしまって、自分の子を守れるのは自分しかいない」

夫婦は悩んだ末、娘のバッグにボイスレコーダーを入れることにした。すると…

「臭い」「口も臭そう」録音で不適切保育が明らかに

母親
「衝撃というか、最初は本当に言葉が出ない」

2人の保育士が、娘を含む0歳から2歳までの子どもに対して、笑いながらこんな発言を繰り返していた。

保育士A「顔がお魚になってくる」
保育士B「元からこの顔です」

保育士B「魚とカメレオンってどっちが悪口?」
保育士A「何回も言うけど臭い。みんな。口も臭そう、やばそう」

夫婦が音声とともに福岡市に通報すると、1人の保育士は退職。もう1人の保育士は自宅待機になった。

夫婦は、自分たちが録音に踏み切らなければ、事実が明らかにならなかったのではないかと振り返る。

母親
「ボイスレコーダーを入れることがおかしいと思う方もいるとは思う。子どもに異変を感じるは、その子一人一人の保護者の方だけ」

明らかになるのは氷山の一角 「本当のことはわかりにくい」

全国で相次いでいる不適切保育。2023年にこども家庭庁が公表した調査結果によると、全国で914件にのぼる。しかし、明らかになっているのは氷山の一角だ。

そもそも小さな子どもは被害を訴えることが難しい。保護者や保育園の職員が目撃し、声をあげたとしても、証拠がないなどの理由で行政が動かないケースも少なからずあるという。

保育園を考える親の会 顧問 普光院亜紀さん
「難しいのは、やはり証拠がないと言われるところ。保育室は密室なので、こういう問題が起きた時、表に出にくい。保護者が『何かおかしい』と思っても、なかなか本当のことはわかりにくい」

「保育士を守ることにもつながる」カメラ7台設置

子どもの様子を、映像と音声で記録する取り組みを始めたのは、川崎市にある認可保育園「保育園キディ百合丘・川崎」。生後5か月から就学前までの園児72人が通っている。

子どもたちは元気いっぱいに動き回る。

園長の武田正志さん。2024年、園に防犯カメラを設置した。

保育園キディ百合丘・川崎 武田正志 園長
「0歳児クラスのお部屋。360度カメラで部屋全体を写す」

360度カメラで見た部屋の映像には、保育士と園児の動きが詳細に記録されている。映像は、事務室で後からでも確認できる。

カメラは全部で7台、入口から園児がいる部屋まで死角がないように設置された。音声もすべて記録される。

保育主任
「保育者の声ももちろん、けがをした時の衝撃音とかも、結構『ドン』と聞こえると、『これぐらいの衝撃だったんだ』とわかる」

「監視されているようだ」と保育士から反対の声があがり、一度は設置を断念したという。

保育園キディ百合丘・川崎 武田正志 園長
「『それは保育士を信頼していない。上が下を信頼してないよね』『保育士たちのモチベーションが下がっちゃうんじゃないの』とか」

それでも設置を決めたのは、不測の事態が起きたとき、保育士を守ることにもつながると考えたからだ。

保育園キディ百合丘・川崎 武田正志 園長
「我々も映像であったり、音声とかであったり、証拠を残していくということは、すごく必要だなと思って」

導入後、保育士の考えも変わってきたという。

子どもの腕に噛んだ跡 防犯カメラで確認すると…

2歳児クラスの担任保育士
「最初はマイナスの印象だったが、実際に保育室でけがが起きたときに、改めてけがの状況を、カメラを使って確認ができる。起きた情報を改めて把握して、知ったうえで保護者にも状況を伝えられる」

カメラ設置から1年半、むしろ積極的に活用するようになったと話す。

1歳児クラスの担任保育士
「カメラを確認して『こういうところがいけなかったから、こういう状況になってしまったんだ』と顧みて改善していくことで、意識も変わっていった。先生の配置とか関わり方、気を付けていこうみたいな意識がどんどん高まっていった」

カメラを導入する際、保護者にも説明した。なかには必要あるのかという意見もあったが、今では…

保護者
「子どもたちが大人の目を盗んだトラブルがあった。実際に映像で見てもらい、すぐに対処してもらった。すごく安心感になった」

帰宅した子どもの腕に噛んだ跡を見つけ、園に相談した保護者は。

保護者
「次の日お迎えに行ったところ、『防犯カメラの履歴を確認したんですが』と、先生の方から言ってくれた。結果的に息子が自分で噛んでしまっていたということだった。言えずにいるとモヤモヤが残ってしまい、保育園に安心して預けられなくなる。一個一個クリアにしてくださったので、非常にありがたいなと」

保育士向けのウェブメディアが行ったアンケート調査によると、保育室内の監視カメラについて「設置されている」と回答したのは全体の約3割だった。

不適切な保育への対応や、防犯対策などが理由としてあがっている。

保育園キディ百合丘・川崎 武田正志 園長
「防犯カメラは、あくまでも便利なツールの一つ。それがあるから、すべてが解決できるものではなく、これをどう使うか、どう活用するか。職員同士が助け合える職場環境をどう作っていくか。保育士一人一人も人であり、人間であり、感情を持っていて、ときにはイライラしたりもする。そういったときに助けてくれる仲間がいるかは、すごく大事なことだと思う」

「泣けば終わりじゃねえよ」男性園長による暴言

不適切保育をどう防ぐのか。立ち上がった保育園の元職員がいる。

男性園長
「なにもしてねえのか、ここで。なんかしただろ。同じこと昨日も今日も言わすんじゃねえよ」

これは、東京都内の0歳児から5歳児までのクラスがある保育園で録音された音声。声の主は、男性園長だ。

園長「ちゃんとしゃべれって言ってるだけだろ。前に2回同じことやられてんだよ。言ったことも覚えてねえのかよ。覚えてねえの。もう一回聞くよ、覚えてないんですか」
園児「覚えてる」
園長「じゃあ、しゃべれよ。何した今日」

泣き出す子どもに向かって、さらに園長は…

園長
「好きなことだけやっとけ、じゃあ。毎回毎回(園児名)だけ怒られてんだぞ。じゃあ、泣いとけ」
「泣けば終わりじゃねえよ」

食事中の子どもに対しても。

園長
「しゃべんな。口閉めろ、口閉めろ。口の中を(園長名)に見せるな。汚ねえ」
「口閉めろ!」

そして、別の日にも。

園長「口ねーんか。手伝ってとも言えないんですか。ずっとやっとけよ、そこで」
園長「いい加減にしろよ」
園児「はい」
園長「やるときはやれよ」
園児「はい」
園長「なんの時間だ?手洗ったんか?トイレ行ったんか?じゃあ泣いとけそこで、ずっと。泣いとけよ」
園長「待たないといけねーんか、こっちが」

音声が録られたのは2025年9月。それまでも園長については、自治体などに通報されていた。しかし、証言だけでは事態は変わらなかった。

「児童育成協会」に通報も…真剣に取り合ってもらえず

通報した一人、村上さん(仮名)。2024年夏まで、この園で保育士のサポートをする子育て支援員として働いていた。

子育て支援員として当時勤務 村上さん(仮名)
「子どもが何かをすると、『おい』とか、唇を噛みしめて手を上げる。『うう』と怒りながらやったり、それを子どもに見せつける。子どもたちは恐怖、怖いというよりも恐怖、恐怖心でおびえてるという」

明らかにおかしいと思ったが、周りの保育士から声があがることはなかった。自分は保育士ではなく、初めての保育現場で、問題だとは訴えられなかったという。

子育て支援員として当時勤務 村上さん(仮名)
「保育士の資格もないし、ベテランの保育士さんたちも何も言わない。この園はそういう方針なのか」

我慢できず1年で退職。その直後、こども家庭庁からの委託を受けて指導・監督をする「児童育成協会」に匿名で電話をかけ、通報した。

子育て支援員として当時勤務 村上さん(仮名)
「監査もちゃんとしてくれるのかなとか、いろいろ改善すべきところは改善してくれるのかなと」

意を決した通報だったが、真剣に取り合ってもらえず、諦めざるを得なかった。

母親・元保育士も証言 それでも届かなかった通報

村上さんが再び動き出したのは、退職から半年以上経った2025年5月。

知人で、園に2歳の息子を通わせている母親から連絡が入った。「息子が園長から虐待されているのではないか」という内容だった。

息子が園に通っていた母親
「ずっと登園するまで泣いて、保育園に着いても『お母さん見てきて、(園長が)いるか見て』って言って、『いるよ』と伝えると泣いて怖がる。『お母さん怖い怖い、助けて助けて』と」

息子はおびえた様子で、園長から言われた言葉を伝えてくれたという。

息子が園に通っていた母親
「『言うことを聞くか』『早くご飯食べろ』『1から10数えて、口の中に詰め込む』とか。これは間違った保育が起きてると」

問題が続いていることを知った村上さんは。

子育て支援員として当時勤務 村上さん(仮名)
「最初聞いたときは、本当に申し訳ないことをしたなと。保護者さんに正直に話して、実際のことを言ってあげていれば。今の子たちが、つらい思いをしている。それを見ているので、こんなにつらいことさせてしまったんだなと」

今度こそ子どもたちを守ってほしいと、村上さんは母親とともに東京都に通報した。3月末に園を辞めたばかりの保育士も証言に加わった。

8月になり、母親のもとへ園から文書が届いた。そこには、東京都と児童育成協会の調査結果として、同じ表現でこう記されていた。

調査結果
「不適切保育については確認が出来なかった」

息子が園に通っていた母親
「息子が伝えてくれた事実、記録とか発言とかだけじゃなくて、(園に)直近までいた先生と証言が一致しているのに、確認出来なかったっていうこと、すべてに納得がいかなかったです」

「子どもの心に悪影響」保護者に頼み録音 音声を提出

「もう自分たちで音声を押さえるしかない」。母親は、子どもをすでに退園させていたため、まだ園に通う保護者に録音を頼んだ。すると…

園長
「同じこと昨日も今日も言わすんじゃねえよ、なあ。なにもしてねえのか、ここで」

園長の音声データは3日間、20時間以上にのぼった。録音した保護者も衝撃を受けた。

録音した保護者
「言葉が本当に攻撃的、威圧的ですし、子どもたちに対して虐待に近いような言動。常日頃からそういう言葉を言っていたので、ショックだった」

専門家に音声を聞いてもらった。

保育園を考える親の会 顧問 普光院亜紀さん
「泣いているお子さんに、ものすごい乱暴な言葉で追い詰めるようなところが、とても心が痛む。お子さんの心に悪影響を及ぼしていると思う。不適切な保育、今、虐待とも言うが、そうなっていると思う。子どもの成長を遅らせたり、先々のコンプレックスにつながったりする」

9月、母親は村上さんと東京都に音声を提出し、さらなる調査を求めた。

息子が園に通っていた母親
「起きてたことをなかったことにはさせたくない。その一言につきます。子どもたちの安全を守るために、認めてもらいたいです」

それから約2か月経った11月下旬、東京都は取材に対し、園に対する立入調査を行い、事実確認をしている段階だと説明した。

児童育成協会は、「新たに提出された音声データの提供を受け今後適切な対応を進める」としている。保育園側は取材に対し、代理人を通じて「不適切保育の有無については、行政の判断に委ねるべきと考える」と回答した。

「子どもを守ることを最優先に」始まった通報義務の課題

国は今、不適切保育や虐待を防ぐ新たな対策に乗り出している。

三原じゅん子 こども政策担当大臣(2025年7月・当時)
「職員による虐待の疑いがある場合には、速やかに自治体に通報していただきたい」

10月から保育園や幼稚園などの職員によって、虐待をされたと思われる子どもを発見した場合、自治体への通報が義務付けられた。

専門家は、通報を受ける自治体側は、子どもを守ることを最優先に動くべきだと指摘する。

保育を考える全国弁護士ネットワーク 川岸卓哉 弁護士
「証拠がないと動けないというような現場の対応。『これだけでは(証拠が)足りないから動けないよ』という姿勢は、行政にはよくあることではあるが、この分野では、そういった対応はとられるべきではないと考えている。基本は子どもを守るという目的の上でやっているわけなので、通報があった以上は、確実な証拠がなくても、まずは調査をする」

村上さんのケースは、音声を証拠として出したことでようやく事態が動き始めた。だが本当は、自分と母親が通報した段階で、子どもたちを守ってほしかったと話す。

子育て支援員として当時勤務 村上さん(仮名)
「子どもたちが、怖いから行きたくないと言うのは嘘じゃないと思う。園に言ったところで、園は『そんなことないですよ』と逃げる。だからこそ行政に言った。だけど、こんな結果になっている。一番の被害は子どもたち」

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