46年ぶり可否同数の衝撃…高市総理阻んだ「参議院の壁」 予算成立の裏側に“参院のキーマン”の存在 総理の苦境は2031年まで?【edge23】

4月7日、2026年度予算がようやく成立した。ただ、政府・与党が当初目指していた「年度内成立」には間に合わない結果となった。衆院選で圧勝し、高い支持率を誇る高市総理でさえ、容易には乗り越えられなかった「参院の壁」。TBS政治部・佐藤浩太郎記者がその舞台裏と、その構造に由来する「独立性」について解説する。
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46年ぶり“可否同数” 高市総理が直面した「参院の壁」
4月7日の参議院予算委員会で、採決の際に賛成と反対が同数となる異例の事態が発生した。国会法第50条の規定に基づき、委員長がその可否を決するという、実に46年ぶりの展開だった。
その後の本会議では、与党に加えて日本保守党や無所属議員の賛成を取り付け、ようやく可決・成立に至った。TBS政治部で自民党を取材する佐藤浩太郎記者は「高市総理は今回、参院の壁に大きく跳ね返された」と解説する。
なぜ、「年度内成立」に至らなかったのか。佐藤記者によると、その背景として「参議院の議席数」を挙げた。
参議院は定数247(欠員1)で過半数は124議席。自民会派101に維新の19を加えても120議席にとどまり、過半数まで4議席足りない。衆院では予算委員会で9回にわたる「職権発動」で数の力を押し通せたが、少数与党の参院ではそうはいかない。本会議で予算案を可決するには、野党に理解を求めて賛成に回ってもらうか、無所属議員らと「多数派工作」を行うしかないのだ。
今回は最終的に、参院自民党の松山政司参院議員会長が日本保守党の百田尚樹代表に賛成を呼びかけ、百田代表が国民会議への参加などを条件に政府案に賛成。辛くも可決にこぎつけた。
“参院の実力者”が高市総理に示した「カレンダー」
今回の予算審議では、佐藤記者によると、参院自民党の石井準一幹事長が重要な役割を果たしたという。石井氏は与野党ともに人脈が豊富で国会運営を熟知する「参院の実力者」だ。
その石井幹事長が(国会対策の経験が少ない)高市総理側に対して示したのが、年度内成立のための「カレンダー」、すなわち日程案だった。
その内容は「“国民民主が賛成すれば” 3月13日に衆院通過で年度内成立が可能」というものだった。しかし、国民民主党との交渉は破談に終わった。国民民主側は3つの政策条件を提示し、採決日程についても「13日ではなく、16日」と主張。自民側は年度内成立に不可欠な13日を譲れず、協議は決裂した。
そして、高市総理は3月13日に衆院で採決を強行。しかし国民民主の賛成という前提条件が崩れた以上、参院での丁寧な審議は避けられなかった。結果、参院での審議時間は衆院と同じ59時間にまで積み上がった。通常、参院の審議時間は衆院の約8割とされる慣例からすれば、異例の水準だった。
年度内成立を断念することになった経緯に対し、官邸側は「かなり強く不満を持っている」と佐藤記者は明かす。
歴代長期政権が重視した「参院のキーマン」
高市総理の勢いを持っても超えられなかった「参院の壁」。そもそも、なぜ参院はこれほどの「独立性」を持つのか。
その理由としてまず挙げられるのが「任期」だ。参院議員の任期は6年で解散がなく、3年ごとに半数を改選する。そのため「そのときの世論に大きく左右されずにじっくり議論ができる」として「良識の府」と呼ばれてきた。また、参院自民党の会長・幹事長・国対委員長などの人事は参院の中で独自に決定され、総理の人事権が及ばない。与野党ともに幹部の入れ替わりが少なく、独特の人間関係が生きている世界だと佐藤記者は言う。
長期政権を築いた歴代総理は、この参院独自の世界を熟知していた。小泉政権では「参院のドン」と呼ばれた青木幹雄氏が、第2次安倍政権では吉田博美氏が、それぞれ参院の人事・運営を取り仕切り、官邸とコミュニケーションを取っていたと言われている。
そして高市政権では石井準一幹事長がその立場にあたるが、佐藤記者は「歴代の長期政権と比べると、高市さんと参院自民の間には少し距離ができてしまっている」と指摘する。
「参院の壁」は当分変わらない 構造的な問題点とは
この総理にとっての難局はいつ改善されるのか。佐藤記者によると、すぐには変わらない構造的な問題があるという。
次の参院選は2028年だが、そこでは2022年の参院選当選者が改選を迎える。2022年の参院選は安倍元総理への銃撃事件の2日後に投開票が行われた「弔い合戦」の様相を呈し、自民党が大勝した選挙だ。
大勝した議席が改選を迎えるため、仮に高市政権が高い支持率を維持したまま2028年の選挙を迎えたとしても、「もともと多かった」議席をそれ以上に積み増すことは難しい。
そして2025年の参院選では自民党は大きく議席を減らしている。この「芳しくなかった結果」の改選が訪れるのは2031年。ここで多くの議席を獲得できなければ、参議院全体で自民党の議席を増やすことにはならない。
佐藤記者は「この苦しい状況があと5年半続く」と分析する。つまり、自民党の総理大臣は2031年まで「参院の壁」と直面しながらの政権運営を強いられることになるというのだ。
「参院の独自性」とどう向き合う? 高市総理が向かう先は
風向きを変えるわけにもいかないのであれば、この参院の体制でどう向き合っていくのか。
佐藤記者によると。今回の予算審議について、立憲民主党の斎藤嘉隆国対委員長は「90点ぐらい」と評価し、参院自民の磯﨑仁彦国対委員長も「対決法案も含めて仕上げていくことを考えれば、参議院において(予算審議を)丁寧に進めてきたことは今後の国会運営にもプラスになると確信」と語ったという。
一方、参院幹部からは「予算の先のことも考えないといけない。『対決法案』も控えているし、なるべく対立せずに進めてほしいのが本音」という声も漏れる。
今後、インテリジェンス強化や再審制度の見直し、皇室典範改正など重要な法案が控えているからだ。
佐藤記者は高市総理が今後取りうる選択肢は2つあると指摘する。一つは石井幹事長をはじめとする参院自民との連携を強化し、情報共有やパイプを拡充していくこと。もう一つは、総理が参院へより強く影響力を行使できるよう、仕組みそのものを変えることだという。
ただし後者は「参院の独立性」に直接関わる問題であり、ハードルは極めて高い。身をもって「参院の壁」を経験した高市総理。今後も重要な「対決法案」の審議が控えている中、「良識の府」との向き合い方は、今後の政権の命運を左右するのではないだろうか。