ドラマ『田鎖ブラザーズ』で描かれる“時効の現実”――警察監修・鳴海達之氏が語る現場の実感【ドラマTopics】

現在放送中のTBS金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』では、公訴時効が廃止されたわずか2日前に起こった事件の真相を主人公たちが追い続ける様子が描かれている。
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2010年4月27日の法改正(即日施行)により、殺人罪や強盗殺人罪など、人を死亡させた罪で法定刑の上限が死刑である犯罪の公訴時効が廃止された。これにより、1995年4月28日以降に発生した未解決事件は全て時効がなくなり、長期間経過後も捜査・起訴が可能となった。しかし、その裏側には法律だけでは割り切れない現実がある。
警察監修として、神奈川県警で強行犯係や捜査一課の検視官を務めた経歴を持つ鳴海達之氏が、本作を通して見る“時効のその先”とは何なのか。実体験をもとに話を聞いた。
「これでいいのか」――時効送致を経験した刑事の実感
刑事として長年捜査に携わってきた鳴海氏にとって、「時効」は制度であると同時に、割り切れない感情を伴う現実でもあるという。
「1件、時効送致(容疑者が特定されないまま、公訴時効を迎えて書類を検察に送ること)したことがあるんです。でも、これでいいのかと思っていました」
自身も、本作のテーマの一つである“時効”について最初に関心を持ったのは、数日の差で時効を迎えてしまった人たちの存在だったという。田鎖真(演:岡田将生)と稔(演:染谷将太)の兄弟がどのように犯人捜しを行い、犯人を見つけた時に何をするのかという設定に関心を持ち、監修を引き受けた。
多くの人が、犯人を見つけ真実を明らかにしたいと考えるだろう。しかし、制度として時効が成立すれば、それ以上は追うことができない。
「結局、捕まらなかったらそれで終わりなのか、という思いがありました」。時効は一つの区切りではあるが、現場の感覚として「終わり」ではない。その違和感が、捜査に関わった者として、今も残っている。
「時の経過では解決しない」被害者と遺族の時間
時効という制度を考える時、切り離せないのが被害者や遺族の存在だ。
鳴海氏は、その心情について「被害者や遺族は、ご本人たちがずっと亡くなる瞬間まで思い続けるものだと思います」と話す。
「時間が解決してくれる」というような一般的な見方に対しても、現場での経験から「年数が経てば気持ちが落ち着くという話もありますが、そんなことはないと思います」と疑問を抱く。
時効を迎えたとしても、「これで終わり」と受け止められることはなく、むしろ「なぜなのか」という問いは残り続ける。
「もし犯人がいるなら、自分たちで探したいと思うはずです」
事件によって止められた時間は、制度では区切れない――鳴海氏の言葉には、遺族らと向き合ってきた経験が深くにじむ。
“復讐”という選択をどう捉えるか
本作では、かつての被害者が加害者へと転じる構図も描かれる。
その描写について鳴海氏は、「非常に気を使って書かれている」と受け止めながらも、明確な一線を引く。
「気持ちは分からないでもないですが、復讐は良くないことです。被害者が刑事責任を問われる立場になってしまうことになりますから」
被害者であることと、加害行為が許されるかどうかは、当然別の問題だ。現実の世界では、多くの遺族が葛藤を抱えながらも法の枠組みの中で答えを求めている。
その中で「自ら裁く」という選択が持つ意味は重い。感情として理解できる部分があるからこそ、その線引きはより難しくなるが、「やってはいけないことだと思います」と言い切る。
田鎖兄弟の復讐が物語の軸として描かれている本作についても、「『やはり許されることではない』と受け止めてもらえれば」と、フィクションとリアルにはしっかりと線を引いている。
「最終的には、警察に任せてもらえればありがたいですね」と、元警察官らしい言葉で、被害者や遺族に寄り添う。
被害者が一転して加害者になり、逆に法で裁かれる立場に陥ってしまう危うさ。田鎖兄弟の切実な思いにどう向き合い受け止めるのかは、視聴者にも委ねられている。
変わる警察の現場――積み重ねが生む捜査力
警察の現場もまた、時代とともに変化していると語る鳴海氏。「今は書類作成が多くて、1日中パソコンとにらめっこしていることもあります」とこぼす。
かつては現場での聞き込みや足を使った捜査が中心だったが、現在は業務の比重が変わりつつある。それでも、捜査の“本質”は変わらないという。
「小さい事件を一つ一つまとめていくことが大事なんです」と言い、窃盗や暴行といった個別の案件をそれぞれ丁寧に処理する力が、やがて重大事件への対応力につながると説明する。
「逆に言えば、小さい事件がまとめられない人は、大きい事件もまとめられない」。日々の積み重ねが、捜査力を形づくる。現場では、その「基本」が何より重視されている。
表現の正確性はどこまで必要か――監修者が見た“リアル”の作り方
鳴海氏はこうした現場の感覚も踏まえ、本作の監修に携わった。
台本の段階から、捜査の流れや会話、動きに矛盾がないかを確認するほか、細部の調整も行った。印象的だったのは、画面にほとんど映らない書類にまでこだわる制作姿勢だった。
「『視聴者は画面を止めて見るから』という理由で、『この書類は違う』と言われないように細かいところまで作り込みました」と語る。
一方で、全てを現実通りに再現することが正解ではないという認識もある。「実際の警察の動きをそのままやっていたら、ドラマとしては成り立たないと思います」。
リアルと演出の間で、どこまでを正確に描くか。そのバランスを見極めることが重要になる。
「撮影現場では『リアルに近づけるため』に何度も撮り直しをしていて、そこまでやるんだと思いました」と、スタッフたちの撮影へのこだわりも目の当たりにした。
現実を知る立場として、全てに介入するのではなく、物語とのバランスを尊重する。その距離感も、監修という役割の一端といえる。
制度、感情、そして元警察官としての“現場”での経験。その全てを踏まえた上で本作の監修を引き受けた鳴海氏の言葉からは、鳴海氏が本作の“奥行き”を支えていることが伝わってくる。