AIはコンサルタントの仕事を奪うのか? 激変するコンサル業界、3つの潮流と「人間の役割」

ビジネスパーソンの転職先として圧倒的な人気を維持しているコンサルティング業界。しかし、その実態はここ数年で劇的な変貌を遂げています。AI(人工知能)の急速な普及、複雑化する国際情勢、そしてこれまでの常識を覆す新興勢力の台頭——。10年前の「コンサル」のイメージでこの業界を捉えていては、本質を見誤るかもしれません。
株式会社コンコードエグゼクティブグループ代表取締役社長CEOの渡辺秀和さんに、コンサル業界を取り巻く「3つの潮流」と、テクノロジーが進化した先にある「人間ならではの価値」について詳しく伺いました。
東京ビジネスハブ
TBSラジオが制作する経済情報Podcast。注目すべきビジネストピックをナビゲーターの野村高文と、週替わりのプレゼンターが語り合います。今回は2026年3月9日の配信「今、コンサル業界を取り巻く“3つの潮流”とは?(渡辺秀和) 」 を抜粋してお届けします。
AIの発達による業務とニーズの劇変
野村:今、コンサル業界では何が起きているのでしょうか。
渡辺:大きく分けて「3つの潮流」があります。そのなかでも最も大きな、そして全ての土台となっている潮流は、やはり「AIによる激変」です。ここ3~4年、特に生成AIの登場以降、コンサルティングファームのあり方は根本から変わりつつあります。
野村:具体的にはどのような変化があるのでしょうか。
渡辺:変化には2つの側面があります。1つは「ファーム内部の業務効率化」です。例えば、営業用の提案資料を作成する際、AIに「ターゲット企業の課題に基づいた構成案を出してほしい」と指示すれば、数秒でパワーポイントの骨子が生成されるような仕組みを導入している大手ファームもあります。かつてジュニアコンサルタントが膨大な時間をかけていたリサーチや資料作成の多くが、AIに代替され始めています。
野村:もう1つの側面は、クライアントからの依頼内容の変化ですね。
渡辺:その通りで、「クライアントへの提供価値の変化」です。以前はAIというテーマ自体が少なかったのですが、今は「自社でAIをどう活用すべきか」という相談はもちろん、「AIを用いた新規事業の立ち上げ」といった、テクノロジーを前提とした経営戦略の策定が不可欠になっています。
野村:コンサルタント自身がAIを使いこなし、かつAIの専門家でなければならない時代になったのですね。
渡辺:さらに最近では「パランティア・モデル」と呼ばれる動きも注目されています。これは、AIを含む高度なシステムをクライアントの社内に導入し、データを活用した意思決定の仕組みを構築した上で、その運用やアップデートのためにコンサルタントが伴走し続けるという形態です。単なるアドバイザリーではなく、「AIと共に価値を創出する体制」を組み上げるスタイルが浸透し始めています。
地政学リスクへの対応と専門家の「内部化」
野村:「3つの潮流」の2つ目について教えてください。
渡辺:「地政学(ジオポリティクス)」というテーマの台頭です。10年前であれば、コンサルティングの現場で地政学が主要なテーマになることは稀でした。
しかし現在は、トランプ政権の動向、ロシア・ウクライナ情勢、米中の覇権争いといった不確実性が、企業のサプライチェーンや投資判断に直結するようになりました。これを無視して経営戦略を立てることは不可能です。
野村:それに対し、コンサルティングファームはどう対応しているのですか。
渡辺:興味深いことに、各ファームはマクロ経済や国際政治の「専門家」を自社で抱え始めています。かつては外部のエキスパートにインタビューして知見を得ていたものを、今は社内にエコノミストや技術専門家による専門チームを組織し、各プロジェクトに示唆を提供できる体制を整えています。
野村:まるで総合商社のような機能ですね。
渡辺:まさにその通りです。アクセンチュアやビッグ4(デロイト、PwC、KPMG、EY)のようなグローバルなネットワークを持つファームほど、膨大なデータを解析してリスクを予測し、具体的な対策を提言する能力を強化しています。日本企業のグローバル展開において、この地政学対応は今や不可欠な機能となっています。
日系グロースファームの台頭と「第三の道」
渡辺:そして3つ目の潮流が、「日系グロースファーム」の存在です。これは大手外資系ファームでパートナーやディレクターを務めていたような優秀な人材が独立し、20名~100名規模で立ち上げた「スタートアップ型」のコンサルティングファームのことです。ここ数年で急速に存在感を増しています。
野村:なぜ今、そうした新興ファームが急成長しているのでしょうか。
渡辺:最大の特徴は「高水準の報酬」と「質の高いサービス」の両立です。外資系ファームの場合、グローバル本部への多額のロイヤリティを支払う必要がありますが、独立系の日系ファームにはそれがありません。その分、クライアントへの請求単価を抑えつつ、コンサルタント本人には外資系以上の報酬を支払えるという構造になっています。
野村:具体的にはどれくらいの年収水準なのですか。
渡辺:例えば、ロゴスパートナーズやリゾルブ・アンド・キャピタル、ライズ・コンサルティング・グループなど、急成長しているファームがいくつもありますが、中には「アナリストクラス(一番下の職位)で年収1,500万円」を提示するケースもあります。これは外資系戦略ファームのマネージャー手前に匹敵する驚異的な水準です。
野村:これは若手にとっても非常に魅力的ですね。
渡辺:さらに、スタートアップのようなスピード感のある環境で働けるという点も人気です。日系グロースファームは、コンサルとしての専門性と高い報酬を維持しながら、スタートアップ的な成長環境を享受できる「第三の道」として注目されています。
野村:クライアント側から見ても、大手に頼むよりコストを抑えられ、かつ優秀な個人の顔が見えるサービスが受けられるなら、選ぶ理由は十分ありますね。
AI時代の「ジュニア育成」と「教育のパラダイムシフト」
野村:業界全体が活性化している一方で、懸念もあります。AIがジュニアコンサルタントの仕事を代替してしまった場合、若手はどうやって育つのでしょうか。かつてのような「下積みの苦労」の中で学んでいた領域が消えてしまう気がします。
渡辺:それは非常に鋭く、かつ深刻な問題です。長期的には、5人でやっていた仕事をAIを使いこなす1人が担当するようになり、ピラミッド構造の下部は狭まっていくでしょう。
野村:育成の機会が奪われるということですね。
渡辺:ただ、私は「育成の形自体がAIによって進化する」という仮説を持っています。これまでは現場で失敗しながら覚えていた暗黙知の領域を、AIによる「仮想プロジェクト」やシミュレーション研修で代替できるようになるかもしれません。
野村:AIを教育ツールとして使うのですね。
渡辺:AIがクライアント役になり、コンサルタントの表情やコミュニケーション、提案内容を解析してフィードバックする。いわば、暗黙知を形式知化し、育成スピードを飛躍的に高める可能性を秘めています。
不完全な世界で、最後に問われる「人間の意思決定」
野村:お話を伺っていると、AIの進化によってコンサルタントの仕事はより高度な「意思決定のサポート」へと集約されていくように感じます。
渡辺:その通りです。ここで一つ、将棋界の例が参考になります。AIが提示する「最善手」が必ずしも人間に指しこなせるとは限りません。AIの手は「一歩間違えると奈落の底に落ちる」ような、非常にリスクの高い「崖の上の正解」であることも多いのです。
野村:ビジネスの世界でも同じことがいえそうですね。
渡辺:はい。AIは現時点の情報に基づいた「論理的な損得」を提示してくれますが、その答えに責任を取ってはくれません。また、その会社が大切にしている価値観や、組織の文脈に合っているかどうかも判断できません。
野村:不完全な情報の中で、最後に「こちらで行こう」と決断するのは人間であると。
渡辺:そうです。どれだけテクノロジーが進んでも、最終的な「責任」と「価値観に基づく決断」は人間に委ねられます。だからこそ、経営者は信頼できるパートナーである人間(コンサルタント)と対話し、悩みを共有したいというニーズを持ち続けるのです。
野村:AIの先を行くのではなく、AIが示す損得を理解した上で、自分たちの価値観に従って意思決定する。その橋渡しこそが、これからのコンサルタント、そしてビジネスリーダーに求められる役割なのですね。
渡辺:おっしゃる通りです。コンサル業界の変化は激しいですが、根底にある「人間ならではの役割」は、むしろその重要性を増していくのではないかと考えています。
<聞き手・野村高文>
Podcastプロデューサー・編集者。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て独立し、現在はPodcast Studio Chronicle代表。毎週月曜日の朝6時に配信しているTBS Podcast「東京ビジネスハブ」のパーソナリティを務める。