「処罰の範囲」曖昧なまま…何が罪に?“国旗損壊罪”成立へ最終局面【報道特集】

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2026-07-14 06:30
「処罰の範囲」曖昧なまま…何が罪に?“国旗損壊罪”成立へ最終局面【報道特集】

与野党の攻防が最終局面を迎えている国会で、焦点の一つとなっているのが「国旗損壊罪」を制定する法案です。罰則の対象は何か、表現の自由は侵害されないのか、法案成立を前に懸念や不安の声も上がっています。

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“国旗損壊罪”成立へ最終局面

対立が解消し、9日ぶりに衆参両院で与野党そろっての審議が再開された国会。

焦点のひとつとなっているのが「国旗損壊罪の制定に向けた法案」。人に著しく不快感や嫌悪感を与える方法で公然と国旗を傷つけた場合に刑罰を科すものだ。

9日、参議院で実質的な審議に入った。

自民党 松川るい 参院議員
「なぜ本法律を今、成立させなければならないのかについて、国民の皆さまに分かりやすく説明していただけないでしょうか」

自民党 平沼正二郎 衆院議員(法案提出者)
「国旗を大切に思う国民感情を正面から保護し、現行法では対処できない領域をカバーするため、国旗損壊罪を制定する意義があると考えております」

何が罪に? 曖昧な処罰範囲に批判も

国旗損壊に関する法律の制定は、高市総理の長年の悲願だ。

高市早苗 総理 (2026年1月)
「日本国旗を損壊しても全くお沙汰なし。変じゃないですか。外国国旗を汚したり破ったら、2年拘禁刑を受けるかもしれない。でも日本の国旗はどう扱ってもいい。それはおかしい」

2004年、中国・北京で開かれたサッカーアジアカップ、日本対中国の決勝戦。反日感情の高まりから日本の勝利後、中国のサポーターが日の丸を焼くなどした。

当時の高市氏のコラムには…

2004年8月 高市氏HPコラムより(現在は削除)
「国外での出来事とは言え、少なくとも国旗を燃やされた件については、外交ルートで一発きつくかまして欲しいものです。加えて日本の刑法に『自国民による国旗侮辱罪』も規定すべきだと考えています」

日本でも2008年、靖国神社で中国国籍の男が、参拝客から奪った日の丸を踏み付け竿を折り、器物損壊などの容疑で逮捕された事例がある。

自民党の野党時代には、高市氏が中心となり、国旗損壊罪を盛り込んだ刑法改正案を国会に提出したが、廃案に。

高市氏が総理に就任する際の日本維新の会との連立合意には、国旗損壊罪の制定が盛り込まれた。

議員立法で作ろうとしているその中身は…

「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者は、二年以下の拘禁刑または二十万円以下の罰金に処する」

これに対し、処罰の範囲が曖昧だという批判が上がった。

中道改革連合 階猛 幹事長
「駅前広場など人通りの多い場所で、自ら持参した国旗を引き裂いたり燃やしたり切り刻んだりする行為、国旗損壊罪に反対の立場を鮮明にするため行為に及んだ場合、処罰対象になるか」

自民党 塩崎彰久 衆院議員(法案提出者)
「構成要件には該当しうる。個別の事情・事案ごとに総合的に判断し、適用されるもの」

中道改革連合 階猛 幹事長
「処罰範囲が不明確」

国会に提出された資料には、国旗損壊罪に該当しうる具体的な事例が挙げられていた。

「公園や公道などで、国旗を勢いよく踏み付けて泥だらけにする場合」
「自室で自ら国旗を切り刻んで燃やしている状況をスマホで撮影し、その動画をライブ配信する場合」

一方で、お子様ランチの旗や、アニメ・ゲーム、AIで作られた国旗は損壊しても罪にはならないという。

他にも、該当しないとされるのが…

「日の丸が描かれているゴルフボールをわざと池ポチャさせた場合」
「国旗を新品の靴で踏み、何ら不潔にすることがない場合」

立憲民主党 塩村文夏 参院議員
「国旗を新品の靴で踏みつけて、不潔にしていないのであれば大丈夫。一体何なんですか」

自民党 塩崎彰久 衆院議員(法案提出者)
「新しい靴で間違って国旗を踏んでしまったという場合『国旗がダメージを受けてつらいな』と皆さんが思うかどうか考えたときに、それぐらいはいいのかなと」

立憲民主党 塩村文夏 参院議員
「古い靴で汚れなかったらOKなのか、いろんな疑問が出てきて、もうちょっと整理した方がいい。刑罰を科すものだから」

法案に反対する野党議員は…

立憲民主党 鬼木誠 参院議員
「元々の法律の作り付けが曖昧だからこそ、具体的に説明しようとすると、曖昧さが分かってしまう、拡大してしまう」

今後、法案は共同提出した国民民主党や参政党など野党の一部も賛成し、今の国会で成立する公算が大きい。

共同通信の世論調査では、法案が「必要」と答えたのが49.7%。「必要ではない」の42.3%を上回った。

ただ慎重意見は自民党内からも…

自民党 西田昌司 参院議員
「国旗を大切にしよう、損壊することはダメだということは賛成なんですが、罰則をつけてやるということが、いかがなものかなと」

岩屋毅前外務大臣は、衆議院本会議の採決を棄権した。

自民党 岩屋毅 前外務大臣
「国旗を尊重する意識は、自然な形で育まれるべきものであり、刑罰で強制されるべきものではない」

国旗の扱い 海外では?

海外では国旗の扱いについて、どのように定められているのか。

2019年、民主派によるデモが広がった香港では、中国国旗が焼かれるなどの事態が相次いだ。

この翌年、中国では国旗の尊厳を守り、愛国主義精神を発揚するとした国旗法の改正案が可決され、国旗を逆さまに掲げることなど禁止事項が細かく規定された。

違反した場合は、刑法にもとづき、3年以下の懲役など罰則が科される可能性がある。

中国国民
「どの国の国民も自分の国の国旗を少しでも汚してはなりません。中国の国旗はなおさらです」

一方で、「国旗を焼く自由も守られるべきだ」と考える国もある。アメリカ東海岸にあるメリーランド州の住宅街には、いくつもの星条旗が掲げられていた。

アメリカ国民
「星条旗は私たちのルーツへの深い敬意を表しているんです」

しかし、そんなアメリカでも、国旗は時の政権への抗議などに使われてきた歴史がある。

2025年6月の世論調査では、国旗を燃やしたり、傷つけたりすることを「違法」と考える人は66%で、「合法」とする34%を大きく上回った。

こうした世論も味方に、トランプ大統領は、取り締まり強化を求める大統領令に署名した。

アメリカ トランプ大統領
「国旗を燃やせば、1年間刑務所行きだ。早期釈放はない」

しかし、署名から約1年たった今でも、取り締まりの強化は実現していない。

その背景にあるのが、国旗を焼く行為を憲法が守るべき表現のひとつだと認めた、1989年の最高裁判決だ。

アメリカ最高裁判決(1989年)
「社会が不快だとか容認しがたいと感じるだけで、政府は表現を禁じることはできない」

表現の自由について詳しいスピッツァー弁護士は、「不快」を理由に表現を制限することの危うさをこう指摘する。

アーサー・スピッツァー氏
「国旗を損壊することは賢明な方法だとは思いません。ただ、賢明かどうかは憲法の基準ではありません。人は愚かなことを言っても、不快なことをしても犯罪にはなりません」

過去には「寄せ書き日の丸」に論争も 日本人にとって「日の丸」とは

日本人にとって日の丸はどのような存在なのか。

国の重要文化財に指定されている奈良県五條市の堀家住宅。その堀家で代々受け継がれてきたものがある。

堀家29代当主 堀丈太さん
「『後醍醐天皇から頂いた大切なもの』と(伝えられてきた)」

日の丸の御旗。数百年の時を経て劣化が進み、旗を広げることはできない。

堀家29代当主 堀丈太さん
「『日の本の国』と言うぐらいですから、このデザインがけっこう昔からあったんじゃないのかな。何かあったときに団結する、この旗のもとに集まるということじゃないか」

戦時中、出征する兵士には、家族や友人らが寄せ書きをした日の丸が渡された。しかし、この「寄せ書き日の丸」をめぐり、新聞の読者投稿欄で論争も起きた。

東京朝日新聞(1937年9月23日付)
「日本国民として、この尊い日の丸の国旗を墨汁や朱肉で汚すなどは以ての外である」

別の読者からは反論も。

東京朝日新聞(1937年9月25日付)
「『赤誠』(=まごころ)から発した行為が、国旗汚辱の行為と混同視されてたまるものか」

戦後、東京オリンピックが行われた1964年の政府の調査では、79%の人が自宅に日の丸の旗があると答えた。

日の丸が正式に国旗と定められたのは、1999年の国旗国歌法によるものだ。

当時の小渕総理は、「国旗の損壊を刑罰の対象とするか」と問われると…

小渕恵三 総理(当時・1999年の答弁書)
「国家の威信の保護の在り方として、刑罰をもって強制することが適当かという根本的な問題がある」

国旗をめぐってはこんな一幕もあった。2004年の園遊会、当時の天皇陛下と、東京都の教育委員を務めていた棋士の米長邦雄氏とのやりとりだ。

東京都教育委員 米長邦雄氏
「日本中の学校に国旗を揚げて国歌を斉唱させるのが私の仕事でございます」

天皇陛下(当時)
「強制になるということでないことが、望ましいこと」

東京都教育委員 米長邦雄氏
「素晴らしいお言葉をいただきまして、ありがとうございました」

天皇陛下(当時)
「どうぞ元気で」

天皇陛下が日の丸について言及するのは異例のことだった。

“国旗掲揚”日本一を目指した町

能登半島の中央に位置する、石川県中能登町。

人口約1万6000人のこの町は、かつて「日本一、日の丸を掲げる町」を目指した。

当時、町議だった作間七郎さん。2012年、町全体で国旗を掲揚しようと議会に提案した。

中能登町 作間七郎 元町議
「何か日本一のまちづくりをしたいという思いで、当局に日章旗を国民の祝日と祭日に掲げる日本一のまちづくりをしようと」

きっかけとなったのは、ロンドンオリンピック。日の丸を背負って戦った選手を見て、かつて日本は、多くの家で国旗が掲げられていたことを思い出したという。

この提案に賛同した当時の杉本栄蔵町長は、300万円の予算を計上。

家庭用国旗の購入者に対し、町内で利用できる1000円分の商品券を交付する制度をはじめた。

中能登町 杉本栄蔵 前町長
「掲げることによって、国も愛し町も愛する。そんなことになっていかんかなあと」

国旗の購入補助制度を利用したのは、10年間で住民の1割にも満たない、わずか231人にとどまった。

中能登町 杉本栄蔵 前町長
「何十年か経って、お年寄りが亡くなっていったら、だんだんあげない家も出てきた。本当に残念だなと思う」

中能登町の住人は…

中能登町の住民
「昔は隣も向かいも差していたけど、最近あんまりね。差さんようになりました」

ーー何故ですか?

中能登町の住民
「興味ないのかね。本当は差さないとと思いながら」

国旗損壊罪をめぐっては、罰則の適用や運用の不透明さを懸念している人もいる。

中能登町の住民
「はっきりしないで(法律を)成立させようと。これを口実に牢屋入れるとか、そういうことはあってほしくない」

杉本前町長は…

中能登町 杉本栄蔵 前町長
「自分らの国は自分らで守り愛し、その象徴として国旗がある。国旗を踏みつけたり壊したり、それは罰則受けるのは当然」

野党からは「愛国心の強要」と反発も

国旗損壊罪を制定することは、憲法が保障する「内心の自由」を侵害するものではないとされている。

しかし、法案提出者の一人からは矛盾するかのような答弁が…

日本維新の会 阿部圭史 衆院議員(法案提出者)
「本法案の成立を契機に国民が自国についての帰属意識・一体感を抱くことにより、今後一層国旗を大切にするという気持ちが醸成されていく。愛国心も醸成されていくのではないかと考えている」

これに野党は「内心の自由」に踏み込むものではないかと反発した。

公明党 窪田哲也 参院議員
「愛国心を強要することになるのではないか。あの答弁は間違いだった、撤回するということですか」

日本維新の会 阿部圭史 衆院議員(法案提出者)
「できるだけ多くの国民の皆様に国旗についての理解を深め、国旗を大切に取り扱うよう努めていただきたいということと、自国に自信と誇りを持つことは大切なことではないかと申し上げた」

公明党 窪田哲也 参院議員
「これは撤回されないと」

日本維新の会 阿部圭史 衆院議員(法案提出者)
「個人の内心に立ち入って、特定の思想・良心や行動を強いるものではない」

「法律として行き過ぎ」“法の番人”も疑問視

小泉政権で内閣法制局の長官を務めていた阪田雅裕氏。「今、この法案を必要とするような社会的な状況はない」と話す。

ーー法の番人という立場から見た法案の妥当性は?

元内閣法制局長官 阪田雅裕 弁護士
「本件はいったい何が問題なのか。何を守ろうとしているのかということが全くわかりません。差し迫って国旗がいっぱい壊されるとか、国民がものすごく不愉快に思うというような状態が近い将来あるという風にも思えない。いつかあるかもしれないことで、人を処罰することにしたり、人の権利を制限するということは、やっぱり法律としては行き過ぎだろうと思う」

阪田氏は、今回の法案にある「人に著しく不快または嫌悪の情を催させる方法」とする記述では、処罰対象が明確でないと指摘する。

元内閣法制局長官 阪田雅裕 弁護士
「例えば、人の物を盗るなんていうのは、みんな誰が盗られたって大変迷惑することは間違いない。人の物を盗ってはいけないと決めるわけです。Aさんが見ると『こんなことやっても大丈夫だ』、Bさんが見ると『それはダメだ』という争いが起きないように、しっかり(法案に)書かれているかどうか。人によって、随分受け止め方が違うということもある。また不快だと感じても、著しいかどうかになるとまた難しい。警察も検察庁も悩むと思う」

そして、国旗損壊罪法案を厳しい言葉でこう表現した。

元内閣法制局長官 阪田雅裕 弁護士
「極端に言うとしょうもない法律だと思う。国民が日の丸を大切にしようと思っている気持ちが害されるからと言うが、そういうことをする人に罰則を科してまで守らなきゃいけないものですか。そんなことをしなきゃ守られないような浅薄な思いでしょうか。法律の尊厳を傷つけるようなことになるのではないかと思う」

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