![転職後に「居場所」がない?解消に大事な3要素 「人間関係良い」だけでは…居場所探す筆者が専門家に聞く](/assets/out/images/jnn/904121.jpg)
転職して4カ月がたつ筆者。ここだけの話、新しい職場で少し居場所のなさを感じています。みんな温かく迎えてくれ、良くしてくれているのに、なぜでしょう。居場所について調べてみると、いわゆる人間関係の良さだけでは作れない「職場における居場所」の特性が見えてきました。
【写真を見る】つらい現実…上がったり下がったりする「居場所感」 専門家が語る「第3の居場所」の重要性
意外となかった働く人の「居場所」研究 児童期や青年期と異なる要素
ふとした瞬間に襲ってくる「自分、役にたっているのかな」という寂しく、むなしい感覚。昨秋に現在の会社に入った筆者は、時間が経てばなくなる感覚だろうと気にしないよう努めてきましたが、4カ月たってもなくなるどころか、増大しています。
今年こそは居場所がほしい…。これまで自分がいなくても回っていた職場で、新年からの存在感をどのように出すか悩み中の筆者に、居場所について教えてくれたのは、筑波大学の「働く人への心理支援開発研究センター」で研究員として働く中村准子さんです。
中村さん自身、インテリア関連から住宅関連の業界に転職した経験を持ちます。働きながら修士号を取り、最終的には生涯発達科学の博士号まで取得しています。
──どんな研究をしているか教えてください。
中村准子さん
「働く人の居場所の研究をしています。私が研究を始めたころは、居場所について、児童期や青年期の研究は多くありましたが、成人期以降の働く人を対象とした研究はなく、働く人にとっての居場所とは何だろうと、実際にインタビューやアンケート調査などをしました」
──働く人の居場所は、児童期や青年期の居場所と違うのでしょうか?
「大事だとよく言われる『人間関係が良い』だけでは居場所があるとは感じにくいということが調査結果から見えてきました。児童期や青年期の居場所には『人から受け入れられている』という要素がありますが、働く人の場合、この要素が独立しては出てこなかったんです。
たしかに、かつて働いていた時の自分自身を考えても、『受け入れられている』という感覚だけで居場所があるとはなかなか思えませんでした。働くということは、お金をもらって何かしら能力を提供して『役に立っている』という感覚を持つことができて初めて、『受け入れられている』という感覚が得られるのではないかなと思います」
──まさに、私も同じような感じです。職場はほとんどが良い人ですが、それでも居場所がないと感じています。働く人が居場所があると感じるために必要な要素は何なのでしょうか?
「調査結果からは、『他者から頼りにされ役に立っている』(=役割感)、『自分らしくいられる』(=本来感)、『安心して落ち着いていられる』(=安心感)の3つが働く人の居場所の要素としてあることが分かりました」
──たしかに、どれも自分は自信が持てないところです。
「仕事で評価されているのか、やりがいを感じられるのか、仕事そのものに愛着を持てているかという感覚がないと、居場所があるという感覚はなかなか得にくいのではないかと思います。
さらに、調査結果を分析してみると、働く人の居場所の『ある・なし』に影響を与えている要因の一つに『会社が私を成長させようと思ってくれているのか』という感覚があることが分かりました。成長させようという思いを感じれば『ここにいていいんだ』となるし、そういった思いが感じられないと『自分はいなくてもいい人間なのかな』となってしまいます」
キャリアの段階で異なる居場所感 もし居場所感が下がったとしても
──となると、会社との関係性は居場所のある・なしに影響を与えているんですね。
「居場所のある・なしは、キャリアの段階によっても影響するものが変わります。
学校を卒業して会社に入ったばかりのキャリアの初期は、必死に働いてるため、『居場所のある・なしといったことは考えたことがない』という人が多かったです。
そこからキャリアを歩んで中期になると、自分らしい働き方、自分の経験を生かした働き方も大切になり、それを実感できないと、居場所がないという感覚になっていきます。評価はされても、やりがいを感じられない状態になり、『この仕事、意味あるの』『ここにいていいのかな、ここじゃないかもしれない』となることも。自分の仕事に向き合う時期だからこそ、仕事に対する意識が居場所感にも影響を与えることになります。
キャリア後期になると、会社のため・人のため・世のために役立ちたい、より自分の経験を生かしたいと思うようになる。そういった思いがある中で、会社に貢献できていない、貢献できるような仕事をさせてもらえていないと思うと、居場所がないとなってしまいます」
──となると、現在、職場で居場所があると思っている人でも、キャリアを歩む中で居場所がなくなることもあるということですか?
「今、職業人生は40年間かもっと長いですよね。その中で、居場所があるかどうかを指す『居場所感』は上がったり下がったりすることがあることが、40代後半から50代の人に『働き始めた20代からの職業人生』を振り返ってもらった調査結果で分かりました」
──その上下は、想像するだけで辛いです。どうにかなりませんか?
「居場所感が一度下がって上がるという経験をすると、下がっても上げられるという知恵につながると思います。そうするとポジティブになれるし、次に下がったとしても『こうすれば私は大丈夫』という考えになれるかと。また、下がった時は、苦しい状態ではありますが、その時に『自分はどんな職業生活を送りたいのか』などの内省をして自己理解が深まると、自ら居場所を作っていこう、自分に合う居場所を選んでいこうという考え方にもなります」
居場所感があると「自分は大丈夫」に 転職後は「あまり焦らないで」
──なるほど、居場所感の上下はネガティブに受け入れる必要はないんですね。
「さらに、調査結果で一つ特徴的だったのが、会社以外の居場所を感じられる場所を探索する、というものがありました。家庭でもいいですし、会社でも家庭でもない場所を『第3の居場所』として探す人も結構多かったです。そこで居場所があると感じることができれば、翻って、会社での居場所感も持ち直していくことがあります。
第3の居場所がある人とない人に対してアンケート調査をしたことがあります。はっきりと因果関係は分からないのですが、第3の居場所がある人の方が、仕事の満足度が圧倒的に高く、会社での居場所感も高いという結果になりました。
居場所感があると、自分を必要としてくれる場所があるということで自己肯定感が高まり、会社に戻っても、『自分は駄目じゃない、大丈夫』という感覚につながっていきます」
──私のように転職したばかりの人はどう居場所を見つければいいですか?
「転職した人の場合、誰も自分に仕事を教えてくれない、自分がどんな役割なのか明確にしてくれないといった『人的支援』がない環境だと、何をするのが正しいのか分からなくなり、『このままここで働いていいのかな』という迷いや悩みが出ると思います。ですから、人に支援を求めることも大切です。
転職者に関して言えば、『組織社会化』という概念があります。組織に馴染んでいく過程のことを指すのですが、転職したばかりの時は『もう駄目だ』と決断を急がず、まだ馴染むための過程にいるんだと考えることも大切です。だから私は『あまり焦らないで』と思います」
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取材:TBSテレビ デジタル編集部・影山遼