田中希実が女子5000m標準記録を突破しパリ五輪代表に内定 DL3連戦で過去最高の流れに乗り五輪初の陸上女子2種目入賞へ

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2024-06-05 11:55
田中希実が女子5000m標準記録を突破しパリ五輪代表に内定 DL3連戦で過去最高の流れに乗り五輪初の陸上女子2種目入賞へ

女子5000m日本記録保持者の田中希実(24、New Balance)がパリ五輪代表に内定した。5月25日のダイヤモンドリーグ(以下DL)・ユージーン大会で14分47秒69の11位。日本陸連のパリ五輪選考基準では昨年の世界陸上ブダペスト入賞者(田中は8位)は、24年に入ってからの五輪参加標準記録(女子5000mは14分52秒00)突破で五輪代表に内定する。田中はユージーンで選考基準をクリアした後も、5月30日のDLオスロ3000mで8分34秒09の日本新、6月2日のDLストックホルム1500mで4分02秒98と好タイムを連発。ストックホルム大会翌日に父親の田中健智コーチに取材した内容を中心に、ユージーン大会での標準記録突破の背景と、陸上競技女子初の2種目五輪入賞を目指す流れを紹介する。

ドーハの教訓を生かしユージーンで標準記録突破

ユージーンで標準記録を突破するために、田中コーチは直前の練習メニューを工夫した。田中の場合は短期的なトレーニングの流れが、試合の結果に影響する。

「ドーハの前にフィラデルフィアでやりたかったメニューを、ユージーンに出発する日に小野市の希望の丘陸上競技場でやったんです」

ドーハは中東カタールの首都で、フィラデルフィアは米国東海岸、小野市は兵庫県、そしてユージーンは米国西海岸。世界を股にかけて活躍する選手ならではのエピソードだが、ここまで世界各国を渡り歩く日本選手は田中だけである。

4月27日にフィラデルフィアで出場した1500mが、4分08秒32と良くなかった。田中が苦手とする低温のコンディションで、ペースメーカーも設定より遅いペースでしか走れなかったことが響いた。

米国からカタールに飛び、DLドーハ(5月10日)5000mに出場したが15分11秒21の11位。標準記録を切ることができなかった。前々日の練習を2000mの日本記録に近いタイムで行っていたが、その前のフィラデルフィアの練習が田中のメンタル面に悪影響を及ぼしたという。「予定していた内容を3、4回変更した」ことで、自信を持ってレースに臨めなかった。

田中コーチはスピードだけでなく、スタミナ的な要素も加えた練習計画を立てた。だが田中自身はスピード練習を多く行いたいと考えた。スピードとスタミナの両方を行うと、練習自体もハードな内容になる。そこから逃げた意識も頭の片隅に生じたのかもしれない。ドーハのレースはかなりのハイペースではあったが、レース中の位置取りの消極性に自信のなさが表れていた。

日本に帰国してGGP(ゴールデングランプリ。5月19日)の1500mに出場したが、4分07秒39の4位。シーズンベストではあったが、世界大会でもライバルとなるS.ビリングス(26)とG.グリフィス(27)の豪州勢らに後れをとった。GGP前も「過去一番かもしれない」というくらい練習ができたが、結果に結びつかなかった。

次のDLユージーン5000mではなんとか代表を決めたい。フィラデルフィアで行う予定だったメニューを行い自信を付けただけでなく、田中コーチはあえて厳しい言葉をかけたという。普段は自信を付けさせて試合に臨むことが多いが、今回は「背水の陣」のメンタルで臨む方がいいと判断した。
それが功を奏した。練習メニューと言葉をセットにして選手の力を引き出すところは、2人が積み上げてきた関係性があるからだろう。

過去最高レベルの3連戦で地力アップを証明

代表を決めたのはDLユージーン大会だが、パリ五輪に向けて好材料となったのはDL3連戦を通して好記録を出し続けられたことだ。
3連戦の戦績は以下の通りである。

◆5月25日(DLユージーン)
5000m11位 14分47秒69=パリ五輪標準記録突破
◆5月30日(DLオスロ)
3000m10位 8分34秒09=日本新
◆6月2日(DLストックホルム)
1500m9位 4分02秒98=国外日本人最高

3000mは五輪種目ではないので、実施頻度が1500mや5000mよりは少ない。だが観客がスピード感と駆け引きを楽しめることもあり、DLではよく行われる。8分34秒09は今季世界21位のタイム。1500mの39位、5000mの30位よりもレベルが高い。

1500mの4分02秒98は、パリ五輪標準記録の4分02秒50を惜しくも切ることができなかったが、東京五輪の予選(4分02秒33=当時日本新)、準決勝(3分59秒19=日本人初の3分台)、決勝(3分59秒95=8位。日本人初の入賞)を除けば最高タイムである。

21年は東京五輪前に7月のホクレンDistance Challengeを3000m、5000m、1500mと3連戦したことがあったし、昨年もホクレンDistance Challenge士別1500mとフィンランドの1500mと5000mを3連戦した。21年は1500mで当時の日本新、昨年は5000mで当時の自己2番目のタイムを出すなど、レベルはそれなりに高かった。
だが今回はそれを全試合DLと、単日開催では世界最高レベルの試合で行い、タイムも3試合とも意味のあるものだった。田中コーチは「この時期の流れとしては最高の3連戦」と高く評価をしている。

特に1500mは東京五輪以後、22年の世界陸上オレゴンが4分05秒30、昨年の世界陸上ブダペストが4分04秒36と、いくら頑張っても4分4秒を切ることができないで来た。地元五輪という特別な状況で、ある意味勢いで出した記録が“壁”になっていた。

「7割、8割ですが今までの水準を超えています。地力が上がっていることを示せたと思います」

日本選手権3種目出場とケニア合宿で着順を取るための仕上げ

田中の今季最大の目標は、パリ五輪の1500mと5000mの2種目で入賞することだ。女子選手で2種目入賞を成し遂げれば、五輪陸上競技では史上初の快挙となる。
5000mは昨年の世界陸上ブダペストで8位に入賞した。ジョグの距離などを増やしている近年の練習内容からも、それを再現する可能性は十分ある。1500mが東京五輪8位入賞後、前述のようにタイム的にも戦績的にも世界が遠のいていた。だがストックホルムの走りで再度、入賞できる可能性を示した。

今回の3連戦ではタイムに比べ着順が低めになったが、田中コーチは「レースの流れに食い下がってタイムを出すためのトレーニングはしてきましたが、着を取るためのトレーニングはまだしていない」と現状を説明する。

ストックホルムからケニアに飛び、ケニア選手と合同で「泥くさいトレーニング」を積む。そして6月27~30日の日本選手権(新潟)は3種目にエントリーした。大会初日に1500m予選、2日目に1500m決勝、3日目に5000m決勝と800m予選、最終4日目に800m決勝というハードスケジュールだ。

「800mは(日本人初の)1分台を意識した挑戦をしたいと思います。1500mはDLと違って独走になる可能性もありますが、その展開になっても標準記録を破って堂々と代表を決めることが目標です。5000mにもチャレンジして、パリ五輪本番を想定して(DL以上の)連戦を体に馴染ませたい」

日本選手権後はDLでもう1本5000mを走り、再びケニア合宿に入る。ケニア合宿→日本選手権→DL5000m→ケニア合宿という流れで、パリ五輪で着順を取るための仕上げを行っていく。女子中・長距離選手のパイオニアである田中のチャレンジは、2度目の五輪でも我々を興奮させてくれるはずだ。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

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