史上初のハードル2種目代表入りを狙う豊田兼 開幕前日会見で自信を見せつつ不確定要素にも言及【日本選手権プレビュー】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2024-06-27 06:00
史上初のハードル2種目代表入りを狙う豊田兼 開幕前日会見で自信を見せつつ不確定要素にも言及【日本選手権プレビュー】

豊田兼(21、慶大4年)が日本人初のハードル2種目五輪出場の偉業に挑む。豊田は陸上競技日本選手権(6月27~30日、新潟)の初日と2日目に、400mハードルの予選と決勝に出場。3日目には110mハードル予選と準決勝、最終4日目に決勝と、新潟のデンカビッグスワンスタジアムのトラックを駆け続ける。
400mハードルはすでに、パリ五輪参加標準記録の48秒70を突破済み。今大会に優勝すれば五輪代表に即時内定するし、3位以内に入れば7月上旬に代表に選考される。
問題は110mハードルで、豊田は標準記録の13秒27に0.02秒届いていない。今大会の予選、準決勝、決勝のどのラウンドでもいいので標準記録を突破できれば、優勝した時点で代表に内定する。2位でも7月上旬に代表に選考されるが、標準記録をクリアすることが前提条件だ。
開幕前日の6月26日に会見した内容から、豊田の自信を持っている部分と、不確定要素の部分を紹介する。

【写真を見る】史上初のハードル2種目代表入りを狙う豊田兼 開幕前日会見で自信を見せつつ不確定要素にも言及【日本選手権プレビュー】

GGPの成功で400mハードルへ自信

会見の冒頭で豊田は2種目への自信を明言した。
「練習は問題なく積んでこられています。あとは想定するレースプラン通り走りきれば、勝負にも勝てます。2種目に挑戦したい」

代表入りが有力なのが400mハードルである。5月のゴールデングランプリ(以下GGP)では48秒36の日本歴代5位で優勝した。黒川和樹(23、住友電工)が昨年の世界陸上で48秒58、筒江海斗(25、スポーツテクノ和広)も今年5月の木南記念で48秒58をマークしている。タイム差としては大きくないが、豊田の48秒36は07年以降では日本人最速タイムである。黒川が故障明けでシーズンベストが50秒を切っていないこともあり、豊田が優勝候補筆頭であることは衆目の一致するところだ。

「GGPは前半を少し抑えたレースをしましたが、(GGPよりも前半で)少し周りに付いて行って、最後引き離すレースを想定しています。1着をしっかり取って、タイムはGGPを越したい」

400mハードルに関してはGGPの快走をもとに、かなり具体的なレース展開がイメージできている。まずは先に行われる400mハードルで五輪代表を決めて、精神的なストレスを軽くした上で後半に行われる110mハードルに挑む予定だ。

やってみないとわからない部分

110mハードルの自己記録は13秒29。標準記録に0.02秒と迫っているが、400mハードルに比べて大きな試合に出ていないため、世界ランキングで出場資格を得ることは難しい状況だ。

「五輪標準記録を切らないと代表に届かないと思うので、(予選は別として)準決勝、決勝とタイムを狙います。13秒27を切る勢いで出場します」

だが110mハードルに向けては“やってみないとわからない”部分もある。
1つは体力的な部分で、故障のリスクを考えると練習では、試合と同等の負荷はかけられない。400mハードル終了後、あるいは110mハードルの予選や準決勝後の身体的なダメージは、実際にやってみないとわからない部分だ。ハードル種目を1試合で5本を走るケースは、大学の対校戦ではたまに見られる。豊田も大学2年時までは2種目に出場した。だが日本選手権でかかる負荷はインカレよりかなり大きい。

「どうなるかわからない部分がありますが、体力的にもギリギリ勝負できるかな、と思っています」

もう1つは両種目を動きの面、トレーニング面で両立させる部分だ。大学3年時以降は試合に出る時期も、練習で行う時期も、110mハードルと400mハードルを明確に分けていた。その方が練習中の課題を意識しやすかったし、レースでは特に、400mハードルの直後に110mハードルに出ると「ケガのリスク」があった。「今回は試合を連日で走ることになるので、少し脚がもつか心配はある」と、正直に話した。豊田はやみくもに自信があると話すのでなく、しっかりした根拠をもとに自信を述べている。

それでも2種目に挑戦する理由

成功する保証はないが、ハードル2種目に挑戦する理由を次のように話した。

「この日本選手権を見てもハードル2種目に出場する選手は少ないですし、(日本のトップレベルで)両立してやれるのは自分しかいません。新しいロールモデルを目指して2種目をやりたいと思って来ました。大学2年までは同じ大会でも1つに絞らず、2種目出場していました。そのままの流れでシンプルに、2種目を楽しんでやっていきたい思いもあります」

これは“やってみないとわからない”部分だが、豊田は今回の2種目挑戦のために、新しいトレーニングパターンにも挑戦してきた。

「GGPまでは400mハードルに比重を置いた練習をしてきましたが、この1カ月はラン中心のメニューと、ウエイト中心のメニューをやって、あとは110mハードル、400mハードルをほぼ均等にやって来ました」

慶大短距離ブロックの高野大樹コーチも、「両種目に並行して取り組んだ1、2年時と、分けて取り組んできた3年時以降の経験を総動員して練習を組み立てます。腕の見せどころです」とGGP後の取材で話していた。豊田は110mハードルの標準記録突破の手応えを質問されて、「上手くいけば13秒1台まで入れる」とコメントした。

GGPの400mハードルレース後には「1~2台目までを3.7秒で入った」と話していた。レース直後にハードル間タイムの数値を話すことなど、は聞いたことがなかった。高野コーチによれば、ハードル間の所要タイムを練習で繰り返し計測していたという。110mハードルでも同様の練習中のデータがあるのだろう。

最後に、種目を絞らないことの練習について、2つの見方ができることに言及した。

「この1か月の練習を均等に割り振ったとはいえ、片方に絞っていたらスキルの部分をもっと深く極められたかもしれません。その一方で2種目を両立させようとすることで、相乗効果で良い調整になったのかもしれません。今回の結果でそれがわかると思います」

自身の現状をしっかり把握している点が、豊田の2種目成功への可能性を高くしているのではないか。

(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)

×