「猛暑の中でのスポーツ」熱中症によって命を落とす人や、重い後遺症を抱える人もいます。危険な暑さから子どもたちを守るにはどうしたらいいのでしょうか?熱中症で“意識不明”になった経験を持つ、元甲子園球児・京都大学硬式野球部監督の近田怜王さんと考えます。
【写真を見る】「簡単に休むと言えなかった」命の危険もある熱中症から子どもたちを守るには? 熱中症で“意識不明”になった元甲子園球児と考える【news23】
テニス部の練習中に熱中症で倒れ“寝たきり”に
兵庫県に住む栗岡梨沙さん(33)。2007年、高校2年生の時、テニス部の活動中に熱中症で倒れました。
父・栗岡正則さん
「倒れて17年になるけど、手足を動かすことも話すことも食べることも残念ながらできない。3時間休憩なしで練習した最後のランニング中に倒れてしまうわけなんです。倒れた時に顔面から倒れてしまった。熱中症からくる意識朦朧」
倒れた時、呼吸ができなくなった梨沙さん。搬送などの対応が遅れ、脳に酸素がいかなくなる「低酸素脳症」に。数か月後、意識は回復したものの重い障がいが残りました。
校外での練習でしたが、部活の顧問は立ち会わず、緊急時の対応についても決められていなかったといいます。
父・栗岡正則さん
「本当にね、死んでてもおかしくなかったんです。子どもの状況とか体調とか気温の変化はめまぐるしく変わっている。多くの知識をセットアップしていかないと、事故というのは防げないと思う」
家族は県を相手に裁判を起こし、2015年に賠償が認められました。
命の危険もある部活動中の熱中症。私たちJNNが「日本スポーツ振興センター」のデータを分析したところ、2005年度から2022年度の間に、学校現場での熱中症による死亡事故は合わせて28件。そのうち6割以上(18件)が「運動部活動中の高校生」だったことがわかりました。
どのように子どもたちを守ればいいのでしょうか?
熱中症から命を守る新たな取り組み
夏の甲子園で熱中症になった経験から、指導者として対策に取り組む人がいます。京都大学硬式野球部の近田怜王監督です。
高校2年生の夏、先発ピッチャーとして登板しますが、熱中症になり、足のけいれんで降板し、チームは敗北。数日後、体調が回復しないまま練習をしていた近田さんは、再び熱中症で倒れ、一時、意識不明になりました。
京都大学硬式野球部 近田怜王 監督
「当時はエースとして投げさせてもらっている中で、迷惑はかけられないとか、そういうのを色々考えて、(指導者に)言えないというのは現実にあった」
今は指導者として、新たな熱中症対策に取り組んでいます。
▼スライディングをしない日は、2024年からハーフパンツも可能に。▼すぐに水分補給できるように、水筒をグラウンドへ持ち込んでいます。
京都大学硬式野球部 近田怜王 監督
「思い切って勝ち負けをこえて、ひとつの命を守るという意味でも、指導者がちゃんとストップをかける勇気も必要かなと思う」
新たな熱中症対策は、8月1日に始まった「第46回全国スポーツ少年団軟式野球交流大会」でも。開会式が、初めて屋外ではなく体育館で行われました。
さらに2日からの試合で、気温、湿度、日射量による暑さ指数が基準の31を超えると、試合を中止にします。
日本スポーツ協会 菊地秀行さん
「まずは子どもたちの健康と安全を第一で実施していく」
夏の甲子園でも、2024年から暑い時間をさける取り組みを始めるなど、スポーツ界で様々な対策がとられていますが、専門家は、より抜本的な改革が必要だと言います。
早稲田大学 細川由梨 准教授
「目指すイベントが夏にある以上、そこに向け、チームの人たちは練習をしていく。夏期期間中のスケジューリングそのものをトップダウンで再検討していく必要がある」
熱中症で“意識不明”になった元甲子園球児に聞く「猛暑とスポーツ」
藤森祥平キャスター:
近田怜王さん(34)は、2007年の高校2年生の時に兵庫県代表(報徳学園)として、夏の甲子園大会に出場。初戦のマウンドに上がりましたが、熱中症でけいれんを起こし降板。大会後の練習中に倒れ、一時、意識不明になった経験をお持ちです。お話によると、県大会の終盤から風邪で体調が悪かったそうですね。
小川彩佳キャスター:
体調が悪くても練習を続けてしまったのはなぜなのでしょうか?
京都大学硬式野球部 近田怜王 監督:
エースとして投げさせてもらっていた中で、先輩のためにという思いもあり、簡単に「休ませてください」と言えなかったです。
小川キャスター:
言い出せない環境というのもあったんですね。
近田監督:
そうですね。甲子園に向けての練習があったので、エースとして不甲斐ない結果になっている時に抜けられない、チームに申し訳ないということで、簡単には休めなかったです。
藤森キャスター:
学校での熱中症による死亡事故の6割(28件中18件)が、運動部活動中の高校生。(2005年~2022年度)
やはり、子どもたちから言い出しにくいことも影響しているのでしょうか。
近田監督:
そうだと思います。
小川キャスター:
子どもたちが言い出しやすい環境を、大人たちがどのようにつくっていけるのかということになってきますね。
近田監督:
自分が練習を途中で抜けることで、他の子が一歩リードしてしまうという考えから「簡単に弱さを見せられない」という気持ちも、1つの要因としてあると考えられます。
「いろんな人の尽力があっての大会」「リスペクトを持ちつつ"再出発"を」
小川キャスター:
影山さんは、猛暑の中でのスポーツの環境作りで何が大事だと思われますか?
カフェ店主・元外資系コンサル 影山知明さん:
私自身もサッカーをやっていますが、暑い中でも喜んでやってしまう部分があります。126年間で初めての暑さであるということに、過去の記憶が追いついていないように感じます。サッカーでの配慮として、ハーフタイムとは別に試合中に給水タイムをとることがルールになっています。
また、真夏の公式戦の開催は避ける方向になってきていて、配慮はされてきているように感じています。
藤森キャスター:
夏の甲子園でも、昼間の時間帯を避け、午前と夕方に試合を行う「2部制」を一部の日程で導入するという対策も始まっています。
影山さんは、この対策をどう受け止めますか?
影山さん:
対策はあって当然ですよね。真夏の昼間に甲子園で開催するのは、もう難しいレベルだと思います。8月の夏の甲子園に対して思い入れがある中で、時間を変えるのは1つの手だと思います。
小川キャスター:
勉強との両立を考えると、夏休み以外に長い休みを取るのは難しいし、秋に移行すると、プロ野球の日程にも影響してきます。ドームに移しても他のイベントとの調整が必要ですし、一筋縄ではいかないですね。
近田監督:
いろんな人の尽力があっての大会なので、どこまで選手のことを一番に考えた運営ができるのかというのは、なかなか難しいところもあるかもしれませんが、そこを何とか、今回の取り組みなどで変えていこうという方向に進んでいるように感じます。ただ、まだ難しいかなと思います。
小川キャスター:
現時点で、現場ではどのような対策ができるのでしょうか。
近田監督:
自分たちでは大会の日程を変えることはできないので、暑さに慣れるということもしながら、朝の涼しい時間に練習をしたり、水分補給をこまめにしたりということは意識しています。
藤森キャスター:
それぞれの現場によって考え方も対策も違うと思いますが、自分たちの代では、「夏の大会で勝つためには、日ごろから夏の暑さに慣れないといけない」というイメージがありました。今はどうなのでしょうか?
近田監督:
そのようなイメージは若干残っていますし、現場でも「暑さに慣れていきたい」という話はしています。しかしその中でも、みんなで知識をしっかり蓄えて、練習前後の栄養面などでできることを対策しようとはしていますが、やはり暑さに慣れるというところは、まだまだ出来ていない部分はあります。
影山さん:
現場の監督や選手の方は、日程が決まった中でやっていかないといけません。そのために、暑さに慣れていく練習をするということを選ばざるを得ないと思います。
トップダウンで大会の開催形式を見直していくという判断を、どこかで勇気を出してやっていかないといけない部分はあると思います。
「夏の甲子園」というリスペクトや感謝を大いに感じながら敬意をはらいつつ、ニュアンス的には「再出発」として、今の高校球児にとってどのような大会が良いのかということを真剣に考えていく時期になっていると思います。
小川キャスター:
長い目で、抜本的な対策を考えていかなければならないですね。
近田監督:
トップダウンでしっかりと考えてもらって、現場としてもその考えを理解した上で、現場でやっていることに対して対策で変えられることは、上の方にお願いすることは重要だと感じています。
藤森キャスター:
社会全体で様々なところから協力の手が伸びていかないと、良い結論は導けないと思います。
『猛暑の中での屋外競技大会』について「みんなの声」は
NEWS DIGアプリでは『猛暑の中での屋外競技大会』について「みんなの声」を募集しました。
Q.猛暑の中、屋外での競技大会 どう思う?
「時期を移すべき」…73.2%
「場所を見直すべき」…14.2%
「時間帯で調整すべき」…9.5%
「変更の必要はない」…1.8%
「その他・わからない」…1.3%
※8月1日午後11時19分時点
※統計学的手法に基づく世論調査ではありません
※動画内で紹介したアンケートは2日午前8時で終了しました
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<プロフィール>
近田怜王さん
夏の甲子園で熱中症、数日後に意識不明に
京大野球部監督、元ソフトバンクホークス投手
影山知明さん
外資系コンサルティング会社出身のカフェ店主
出版業・地域通貨などにも取り組む