この夏の日本でよくみられる景色…夕方になると雷が鳴りゲリラ豪雨が降る。もうゲリラではなくレギュラー豪雨だ。それも毎回のように“今までに経験したことのない”という枕詞がつく。既に異常気象は異常ではなくなっていた…。
【写真を見る】日本を囲む水温30度の海、異変続出…将来は全国が危険地域に【報道1930】
「海面水温が高ければ高いほど豪雨になりやすい」
二酸化炭素の排出を減らそうと決めた京都議定書の1997年の夏よりも化石燃料をやめようと決めたパリ協定の2015年の夏よりも今年の夏のほうが暑い。
環境省が未来の「各地の気温」を発表している。「2100年8月21日、今日の各地の最高気温は…」によると、札幌40.5度、仙台41.1度、新潟43.8度、東京43.3度、大阪42.7度、福岡41.9度などなど軒並み40度を超えている。未来は40度が当たり前になっているようだ。
この日(2100年)全国で唯一40度を下回った場所があった。沖縄・那覇38.5度だ。沖縄は海に囲まれていることでかろうじて40度にはならないようだ。
“海に囲まれている”このことは気候の上でとても重要で、日本は海に囲まれていることで比較的穏やかな気候に恵まれてきた。ところが今、日本周辺の海に異変が起きている。
先日、東京23区では6年ぶりとなる「記録的短時間大雨情報」が発表されたが、この時の1時間に100ミリを超える猛烈な雨、これにも海の異変が関係しているという。
気候変動を研究している三重大学の立花教授に聞いた。
三重大学大学院 立花義裕 教授
「日本列島周辺の海面水温がどこもかしこも無茶苦茶上がってる。東京近辺であれば南岸、相模湾辺りや静岡県の辺りですね。平年に比べて2度とか3度とか…。場所によっては4度くらい高いところも…。(日本は)非常に高い水温に囲まれてるんです(中略)我々多くの研究者の一致した見解は、水温が28度を超えると急激に海水が蒸発し水蒸気がバーっと増えて非常に強い雲ができる。で、近年はその28度の“しきい値(=境界線)”を超えるような海域が日本近海で増えている。すると水蒸気が増えて、雲の厚みが増えて、何らかのきっかけで雨が降りさえすればバーンと降る。要するに海面水温が高ければ高いほど豪雨になりやすい。来年は今年より更に水温が上がって30度を超える海が日本の周りを広く囲むかもしれない。そうしたら九州でも北海道でも日本中どこで豪雨が降ってもおかしくない。(海面水温が)30度になってくると今まで安全だと思われていたところでも、より災害になりやすい」
「人間ってバカなんで…」
現在の海面水温を示した図を見ると…。
水温27度の線が、日本海側では秋田、太平洋側で宮城辺りにかかっている。つまり東北地方より南の海は全て境界線といわれる28度を超える海といえる。そして北緯35度以南の海域は殆ど30度を超えている。この状況は立花教授が言う“今まで安全だと思われていた場所が安全ではない”ことを表している。
「低炭素社会」の実現に取り組む環境問題のスペシャリスト藤野純一氏は言う。
地域環境戦略研究機関 藤野純一 上席研究員
「令和元年の(長野新幹線が水没した)台風19号、あれ10月の台風だったんだけど太平洋の水温が27~8度あった。だから今まで通ったことない長野や郡山まで行っちゃった。この前の山形とか秋田とか…、こんなところに豪雨降るかねってところだから、準備もできてないですよね。(ハザードマップが役に立たない)普通来ないところに来ちゃうと困っちゃう…。でもそれが普通になっているところが怖い」
全ては地球温暖化に起因するというのは国立環境研究所の上席主任研究員も務める江守教授だ。
東京大学未来ビジョン研究センター 江守正多 教授
「海面水温上昇は一部には今年の特徴で黒潮のコースが云々ということもありますが、長期的には地球温暖化であって我々の温室効果ガス排出が続く限りはこれはさらに上がっていくし、更に豪雨は増え、水害も増える。でもそれは止められることなんです」
ただ地球温暖化対策の問題は一朝一夕ではできない。とりあえずは豪雨による水害に備える…、といった対処療法に徹するほかないのが現実だ。
“脱成長コミュニズム”の思想家、斎藤幸平氏は「人間はバカだから」と一刀両断にする。
東京大学大学院 斎藤幸平 准教授
「人間ってバカなんで、じゃぁそこに高い堤防造ればいいじゃないって、“適応”になっちゃうんですね。本来やるべきはことは“緩和”。人間が出した二酸化炭素のせいなんだから二酸化炭素を減らすってことをやらないと本質的な解決にはならないのに…(中略)化石燃料をどう減らしていくかというところに政治や企業や市民の意識が向かっていかないってところに問題があって、ますます悪化していって、最終的には適応しきれない…」
「今世紀末、2メートルぐらい(海面上昇が)ある」
“ティッピングポイント”という言葉がある。ファッションなどの分野では、ある時点を突破すると一気にトレンドとなるといったポジティブな意味で使われるが、環境の分野では“転換点”“臨界点”と訳され平均気温の上昇があるレベルを超えると様々な自然現象が制御不能になるという危険なポイントだ。
一説には産業革命時の平均気温を1.5度上回った時を指すという。2023年の世界の平均気温は産業革命時より1.48度高かった。つまり地球環境のティッピングポイントはもうすぐだ。南極の氷が急速に溶け始めていることは、その象徴といわれている。
40年以上南極の氷河を研究するカリフォルニア大学アーバイン校のルグノット教授は南極の氷河が年間最大2キロも後退していることを観測、「これは最も急速な後退速度である」と語った。
江守教授は既にティッピングポイントに達しているとは思わないが、南極の氷床の溶解は深刻だと話す。
東京大学未来ビジョン研究センター 江守正多 教授
「(今のペースで南極の氷が解けると)今世紀末、2メートルぐらい(海面上昇が)ある…。沿岸の低い土地は(水没する)、サンゴ礁でできた小さい島は標高2メートルなんてところがありますから…」
ティッピングポイントは南極の氷の問題だけでなく、様々な自然現象に後戻りできない変化をもたらす。
東京大学大学院 斎藤幸平 准教授
「(ティッピングポイントが来れば)我々が今見ている気候変動よりも(様々な場面で)一気に悪化する可能性がある。例えば農作物も、何年もかけて品種改良してなんとか(環境に)適応させてきたのにできなくなってしまう。(環境変化が激しすぎて)追いつかなくなってしまう。とくに日本のように資源がなくて食料自給率が低い国は本当大変。飢えるとか…そういうことが決して誇張ではない事態に向かっているんじゃないか…」
夢のような解決策は見つかりそうもない。
一人一人が環境に意識を持つことから始めるしかないのかもしれない。
(BS-TBS『報道1930』8月8日放送より)