道具が仕事や結果を左右するわけではないことを表現したことわざ、それが「弘法筆を選ばず」です。
しかし、そもそもこの言葉はどこから来たのでしょうか?
今回は「弘法筆を選ばず」の意味と併せて解説します。
「弘法筆を選ばず」とは
ここでは「弘法筆を選ばず」の意味を解説します。
「弘法筆を選ばず」の意味
「弘法筆を選ばず」は、真に一芸に長じた人はどんな道具を使用したとしても立派な仕事をすることの例えです。
ここでの「弘法」は弘法大師のことで、空海の名でも知られる人物です。
実際に弘法大師空海は筆の良し悪しを問題にしなかったとされています。
転じて一芸に秀でた人ほど道具に左右されないことを意味することわざとして「弘法筆を選ばず」という言葉が広まったとされています。
「弘法筆を選ばず」の用い方・例文
「弘法筆を選ばず」は、道具に関係なく立派な仕事ができる場面で使用します。
現代ではどのような状況であっても結果を出すのがプロであるという考え方を例えて使用するのが一般的となっています。
・例文1:あの書道家はどのような道具を使用したとしても常に最高の作品に仕上げてくる。まさに弘法筆を選ばずとは彼のためにあるような言葉だ。
・例文2:あの芸術家は小学生の頃から同じ絵の具セットを使用している。弘法筆を選ばずというように彼女にとって道具など関係ないのだ。
このように使用する道具に関係なく立派な仕事をこなす人に対して使用します。
ただし、自分自身に対して「道具のせいにすることのないように」という戒めの意味で使用することあるので注意しましょう。
・例文3:弘法筆を選ばずというように、立派な道具がなくとも結果を残すのが本当の意味でのプロというものだろう。
このように結果の良し悪しは道具で決まるわけではないというニュアンスで使用されることも珍しくありません。
「弘法筆を選ばず」の由来
ここからは「弘法筆を選ばず」の由来を解説します。
弘法こと「弘法大師」は書の達人!
「弘法筆を選ばず」の「弘法」は空海の名で知られる弘法大師のことを指します。
弘法大師は書の達人だったとされており、どのような筆を使用しても立派な書を書くことができたという言い伝えが残っています。
現代では技術のない者や下手な者が道具のせいにしていることに対して、結果の良し悪しは道具で決まるわけではないという意味合いで使用するのが特徴です。
実際に弘法大師はどのような筆であっても最高の書を残せた人物とされます。
転じて、現代では道具が結果を左右するわけではないという意味で「弘法筆を選ばず」という言葉が使用されています。
実際には筆にはこだわった弘法大師
「弘法筆を選ばず」ということわざは道具が仕事の良し悪しを左右するものではないという意味がありますが、実は弘法大師も筆にこだわっていたとされています。
実際に弘法大師は『性霊集』という漢詩文集にて「良工まずその刀を利くし、能書は必ず好筆を用う」という言葉を残しています。
これは「腕のある職人は何よりも先に道具を研ぎ、優れた書家は必ず良い筆を使用する」ということを指す言葉です。
つまり、名人ほど道具の手入れを欠かさず、良い道具を使用するということを言っているわけです。
そう考えると弘法大師はきちんと使用する道具を選んだ上で、しっかりと道具の手入れを行っていた人物ということがわかります。
「弘法も筆の誤り」との違い
ここからは「弘法も筆の誤り」との違いを解説します。
「弘法も筆の誤り」とは
「弘法も筆の誤り」は、その道の名人と呼ばれるような人間であっても失敗をすることはあるということを例えたことわざです。
この言葉は、書に優れている弘法大師であっても字を間違えることはあるということから生まれた言葉とされています。
そのため「弘法筆を選ばず」とは別物のことわざとなります。
なんという文字を間違えた?
弘法大師は、応天門の「応」の字を間違ったとされています。
実際に平安時代末期に成立したとされる『今昔物語集』には、勅命によって諸門の額を書くことになった弘法大師のエピソードが残されています。
その『今昔物語集』によると、弘法大師が応天門に額を打ち付けてから改めて見たところ「応」の字に点がないことに気づいたそうです。
そこで弘法大師は筆を投げて点を打ったのだとか。
この逸話から生まれたのが「弘法も筆の誤り」とされています。
まとめ
「弘法筆を選ばず」は、達人であれば道具の良し悪しに関係なく立派な仕事を成し遂げるものだということを例えたことわざです。
一芸を持つ人はどのような道具を使用しても結果を残すという意味で使用されます。
ただし「弘法も筆の誤り」とは異なる意味を持つので要注意です。
「弘法も筆の誤り」はどのような達人でも時には失敗することがあるということわざなので、別物として覚えておきましょう。
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