2025年最初のスポーツ日本一が決まるニューイヤー駅伝 in ぐんま(第69回全日本実業団対抗駅伝競走大会。群馬県庁発着の7区間100km)で、22、23年大会優勝のHondaがV奪回に燃えている。
10000mの伊藤達彦(26)、マラソンの小山直城(28)、3000m障害の青木涼真(27)の五輪代表経験選手3人に加え、今季は森凪也(25)が日本選手権5000m2位など日本トップレベルに成長した。新人の久保田徹(23)と中野翔太(23)も実業団で通用する。メンバー争いはチーム史上最高レベルという選手層の厚さになった。「#Hondaは走れ#いちばん前を」を合い言葉に3度目の優勝に狙いを定めた。
代表経験選手たちの出場区間は?
Hondaの区間配置で例年、最初に決まるのが青木の5区だった。入社1年目の21年大会から4年連続出場し、区間2位、2位、1位、4位という区間順位で走ってきた。22年の初優勝時には青木がトップを走るSUBARUとの差を縮め、6区の中山顕(27)が区間賞の走りで逆転した。
2連覇時には想定より早く4区(当時の最長区間)の小山でトップに立ったが、青木が区間賞で独走態勢に持ち込んだ。「難しいコースで安定した力を発揮できる青木の存在は大きい」と、小川智監督は2年前の取材で話していた。青木自身も今年12月の取材で、「5区は自分の場所という自負があります」と話した。「24年はニューイヤー駅伝で負けたところから始まりました。区間賞を目指していたのに(区間4位で)届かず悔しいスタートになりましたね。5区のリベンジは5区でしたい。プライドもあります」
7区間100kmのコース全体は変わらないが、前回から2区が最長区間になり、3区の距離も伸びた。外国人選手が出場できるインターナショナル区間が、2区から4区に。Hondaのレース展開は2連覇した23年大会までは、5区の青木でトップに立つか、優勝が見える位置まで進出する戦略だった。
だが2位と敗れた前回は、優勝したトヨタ自動車が2区の太田智樹(27)で一気に抜け出した。中継所を同タイムで出たHondaの中山は、区間3位だったにもかかわらず42秒も差をつけられた。トヨタ自動車は4区以降もトップを走り続け、5区の田中秀幸(34)と6区の西山雄介(30)も区間賞。トヨタ自動車の熊本剛監督は「理想に近い勝ち方だった」と話している。
Hondaの小川監督は青木の3区起用も示唆する。「前回から2~4区の距離が変わって、2、3区に速い2人を並べた方がいいのかもしれません。青木は2区の(2区の距離に対応する)スタミナがわからないので3区か5区か。あるいは(向かい風の強さを考えて)5、6、7区なのか」
マラソンパリオリンピック™代表だった小山が「2、3、5区」、伊藤は「2区か3区」を考えている。小山はパリ五輪後は控えめの練習をしていたが、「量も質も戻して甲佐10マイルが良く(約16km。46分25秒で2位)、その後も上がってきています」と小川監督。伊藤は6月の日本選手権5000mで優勝。12月1日の10000mは27分53秒89で、ペースメーカーとして先導しながら走り切った。「今はハーフマラソンの日本記録を目標にやっています」(伊藤)
前回2区の中山は、太田には引き離されたが「チーム状況が悪い中で2区を、苦しみながらもよくつないでくれた」と小川監督は評価している。小川監督は中山について「例年通り」という言い方をしたが、シーズン前半の故障が例年より少なく、マラソンも2月の大阪で2時間08分52秒の自己新、9月のシドニーでも2時間09分23秒と2本しっかり走った。
青木は5区を希望しているが、こうも付け加えていた。「他の区間でもいいので、ニューイヤー駅伝のリベンジはニューイヤー駅伝でしたい。4年間で色んな展開でタスキをもらう経験をしてきました。それを今回勝つためにつなげたい。どんな位置でもらっても、自分のところで優勝を決定づける走りをしたいです」Hondaの今回の主要区間は、ライバルチームに絶対に離されないことを狙っての配置になる。
森が日本選手権5000m2位に成長。有力な1区候補に。
森凪也が新しくメンバーに加わりそうだ。中大を卒業して3年目。過去2年間はニューイヤー駅伝に出場できなかったが、今年6月の日本選手権5000mでは13分16秒76で、先輩の伊藤に続いて2位に入った。「勝負勘がある。駅伝なら前半の1区とか3区とか」と、小川監督も期待する存在になった。
福岡大大濠高では全国大会には出場したが、入賞はなかった。中大で10000m28分22秒28を出し、3年時には箱根駅伝でエース区間の2区を任された。だがその2区で区間16位。4年時は箱根駅伝メンバーからも漏れてしまった。「4年生の時にHondaがニューイヤー駅伝で初優勝しました。(メンバーも充実していて)入るチームを間違えたかな」と言うほど、自信が持てなかった。「18歳で上京してから6年間、個人としては一度も納得のいく正月を過ごせていません。ニューイヤー駅伝は会社の熱量も高いので、ここで結果を出したい気持ち、駅伝にかける思いが強くなっています」
以前は強くなるためには、「これをやっておかないといけない」という取り組み方だった。しかし入社後は徐々に、「やるべきことが内側から出てきて、勝手に一日が埋まっていく感じ」だという。だから今季の躍進も何かをやったからではなく、日常を積み重ねた結果だと自身は捉えている。
おそらく周りの代表経験選手たちの取り組みも見て、やるべきことを自然と自覚してきたのだろう。来年の東京世界陸上5000m出場も視野に入れているが「それに向けて何か(特別なこと)をやっているわけじゃない」と言う。大卒入社3年目での初出場は遅咲きと言えるが、森の存在感はこの1年で格段に大きくなっている。
メンバー争いは過去最高レベル
森は過去2年、東日本実業団駅伝には出場してきた。1年目は5区、区間7位だったが、昨年は1区区間3位と好走した。5000mも当時13分28秒35まで上げていたが、ニューイヤー駅伝はメンバー入りできなかった。「メンバーが確約されているチームではありません。実績があっても選ばれるとは限らず、チーム内の競争を勝ち抜かないといけない。それがHondaが強い理由だと思います」
そのチームが今回、「過去一番厳しい」(小川監督)というメンバー争いになっている。主要区間候補の小山、伊藤、青木のメンバー入りは確実だが、それ以外の選手は最後まで状態を見て起用される。ここまで名前が挙がった中山、森以外にも、マラソンで活躍する足羽純実(29)、優勝メンバーだった川瀬翔矢(26)、新人の中野翔太(23)と久保田徹(23)がメンバー候補。
足羽は2時間07分54秒を持つマラソンで安定した戦績を残しているが、12月の甲佐10マイルで46分35秒の5位、小山にも10秒と迫った。中野は9月の全日本実業団陸上1500mで優勝し、チームスタッフを驚かせた。久保田は東日本実業団駅伝では最長区間の3区を任され、区間2位と好走した。
Hondaは以前、マラソン日本記録保持者だった設楽悠太(33、現西鉄)が絶対的なエースで、当時の最長区間だった4区で区間賞を何度も獲得した。しかし入社1年目に設楽とタスキをつないだ中山は、「メンバーは7人ぎりぎりだった」と感じていた。それが今は「7人目の争いが厳しくなっています。補欠候補の2~3人も含め、誰が走ってもいい」と話す状況にまでなっている。
森と中野は中大の後輩に当たるが、自分が何かをアドバイスしているわけではないという。「Hondaはトラックでもマラソンでも、身近なところにトップ選手がいます。そういった先輩選手に接したり、観察したりして、日々何かを吸収できる。どの種目でも強くなれるんです。森も伊藤の背中を追って、練習で切磋琢磨して日本選手権2位まで成長しました」
小山、青木、伊藤の代表経験選手たちの調子が少しでも落ちれば、メンバー争いを勝ち抜いた選手が3区や5区に出場する可能性もある。後半区間は誰が走っても区間賞候補だ。今回のHondaは、前回までの後半での逆転を想定した区間配置ではなく、前半で確実にトップ争いをする狙いで選手起用をする。だがトップに立つのは、初優勝時と同じように選手層の厚さが現れる後半区間になるかもしれない。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
*写真は左から、伊藤達彦選手、小山直城選手、青木涼真選手