「VIVANT」で生成AIが使われたのはこのシーンだ!~TBSドラマ初の本格利用~【調査情報デジタル】

TBS NEWS DIG Powered by JNN
2026-08-08 09:00
「VIVANT」で生成AIが使われたのはこのシーンだ!~TBSドラマ初の本格利用~【調査情報デジタル】

3年ぶりに帰ってきた日曜劇場「VIVANT」。今回の第2シーズンでは、ところどころに生成AIを利用してつくられたシーンが登場する。生成AIの本格利用はTBSドラマとしては初となる。どういう経緯で導入され、そして実際にドラマ中のどんなシーンに用いたのか、関係者を取材した。

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TBSドラマ史上初のシーン

2023年夏に放送され、モンゴルでの長期間ロケなど、その圧倒的なスケール感で話題となったTBSテレビの日曜劇場「VIVANT」。その第2シーズンの放送が7月26日にスタートした。

26日の放送(第11話=第2シーズン第1話)は、実はTBSテレビにとって“歴史的な日”と言える。というのも「TBSドラマ」において、生成AIが特殊加工のために本格利用されてできた映像が史上初めてオンエアされた日だからだ。

まずは早速、本格利用第一号となった“生成AIシーン”を紹介しよう。

ドラマ開始から4分40秒過ぎ。愛知県の「半田総合病院」屋上の機械室が爆発したとされる以下のシーンがそれだ。わずか数秒のカットだが、カメラが移動して視点が動きつつある中でも“違和感のない爆発”に見える。 

さらに、開始から17分15秒過ぎ。防衛省近くの地下にあるとされる「AIハヤト」が何者かに連れ去られた別班のメンバーについて説明する際に、壁一面のディスプレーの中央部分に、「旭川共済病院」の監視カメラ映像として映し出した「ボイラー室爆発」の映像(以下の写真)も生成AIを利用して作られたものだ。こちらも“自然な燃え方”にしか見えず、精緻な出来栄えだ。

第11話ではこの2か所の他、「別班特別準備室のニュース映像の一部」や「ブルーウォーカー・太田梨歩の部屋のPCデスクトップ画面」などでも生成AIが使用されている。

生成AIツールを駆使して制作

これらの映像を実際に生成AIを使って制作したのがTBSアクト「ドラマ・映画VFX部」の小嶋一徹さんと大村正俊さんの2人だ。TBSアクトはTBSグループ企業のひとつで、テレビ番組などの技術・美術・CG業務を担っている。

「VIVANT」第2シーズンで、どのシーンに生成AIを使うかどうかは、小嶋さんが判断しているという。

「僕が現場に行って、監督からこのシーンをこうしたいというオーダーがあって、だったら生成AIが使えそうという判断を僕がして、大村さんにやってもらうという流れです。

特に爆発とか炎のシーンでいちからCGソフトを使うと、ものすごい時間とお金がかかります。1カットで数百万円とか。それが生成AIだと大村さん一人で、わずか数日で出来てしまいます」

では、具体的にどのような手順でこのシーンを制作したのだろうか。担当した大村さんは、意外な事実を明かしてくれた。Google(グーグル)の動画生成AIツールである「Veo3」を利用していると聞いていたが、実は、より精緻な映像を得るために静止画用生成AIの「Nano Banana」も併用しているという。

「『Veo3』で動画を生成しようとしても、自分がいっぱい持ってるサンプルの中から、それっぽいものを作ってくれるだけなので、知らないことはやりません。

あと僕らはVFXの専門家なので『こういう炎にしてくれ』っていう細かいディテールを、炎の燃料がどうだとか、温度がどうだとかをプロンプト(指示文)に混ぜ込んで命令しても、『Veo3』はわからないんですね。

なので、まずこっちの静止画用の『Nano Banana』の方で、細かいディテールをプロンプトに打ち込んで炎の画を作る。それから、『Veo3』に『この炎を見て、これを動かしてくれ』ってやるんです。『Veo3』は動かすのは得意なので」

“生成AIガチャ”

ただ、生成AIツールならではの苦労があるという。

「こっから先は“ガチャ”になります。出てくる動画が毎回変わってしまうんです」

生成AIを用いた画像や動画の制作現場で言われ始めている“生成AIガチャ”。生成AIは、同じ指示でも毎回異なる結果を出す仕組みになっているのだ。そのため大村さんは、満足できる動画が出てくるまで試行錯誤を繰り返すという。

このように、生成AI単体では細かな調整が難しいため、最終的に目的に合った映像へ仕上げるには「やはりVFXやCGの確かな知見や技術が不可欠」と大村さんは強調する。

「VIVANT」への導入経緯

さて、そもそも「VIVANT」の第2シーズンで、生成AIが本格利用されることになったのには、どういった経緯があるのだろうか。この点について答えてくれたのは、TBSテレビでAIの積極的活用の旗振り役を務める、イノベーション推進部(マーケティング&戦略局)の宮崎慶太部長だ。

「私がリーダーを務めているTBSの『AI活用プロジェクト』で、以前からお付き合いのあったGoogle Cloudさんから『Veo3』をトライアルで使用させていただけるという話になりました。

そして『Veo3』の使いどころを探っていたところ、プロジェクトメンバーのひとりであるデザイナーの王怡文さんが『VIVANT』での活用を宮崎陽平監督に提案したのがきっかけです。

私の仕事としては、その活用アイディアをオンエアで実際に使える状態にするために、TBS内の生成AIガイドラインの改定(注)など、ガバナンス周りを整えていました」

(注)生成AIガイドライン改定の詳細は、1月の記事「テレビ局の制作現場でも始まった生成AIの本格活用~「泥臭いDX」を目指すTBSの取り組み~」を参照。 

2つの懸念の払しょくで決断

また、Google Cloudの規約の中で2つのリスクへの懸念が払しょくされたことも、生成AI活用を決断する上で大きかったという。そのひとつは、エンタープライズ契約によって、入力した社内のコンテンツや情報がAIの学習に使われることがなく、外部に流出するリスクがない環境を整えたこと。もうひとつは、生成された映像が結果的に第三者の著作物に似てしまった場合の著作権侵害リスクについて、対応の道筋をつけられたことだ。

特にこの2点目について、宮崎部長はこう説明する。

「規約上『AIに適切なプロンプトを入力していれば、仮に裁判を起こされたとしても、裁判費用はGoogle側が支払う』とされています。つまり『TBS側で意図的に似せて著作権侵害しようとしていない』という証拠があれば、法的責任を負うリスクはありません。そこで、『プロンプトのログは必ず残す』というルールを設けた上で活用することを決めました」 

「VIVANT」制作側の懸念とは… 

一方、「VIVANT」の制作側としては、生成AIの導入についてどう考えたのだろうか。「VIVANT」第2シーズンの監督陣(3人)のひとりで、最初にAI活用の提案を持ちかけられた宮崎陽平監督はこう明かす。

「ちょうどその頃、福澤克雄監督(原作・脚本・プロデュース)から『生成AIをドラマ内で使用できないか』と相談されていました。それから、飯田和孝プロデューサーやイノベーション推進部の宮崎部長にも連絡して、活用方法の模索が始まりました」

しかし、導入を決める前には、やはり制作者サイドなりの懸念もあったという。

「オンエアに耐えうるクオリティの映像ができるのかが第一の懸念でした。ただ、もう一点、それより重視したのは、AI使用作品に対する世間の風当たりの強さです。私自身もまだ向き合い方を考え切れていませんが、演出の方向性を確実にするための活用法を模索する上で、『VIVANT』という作品で導入が決まった以上、徹底的に試すチャンスだと捉えています」 

そして、実際に生成AIを利用し、「VIVANT」の1シーンとして仕上がってきた映像を見た感想は、「コストパフォーマンスも含めやってよかった」と納得しているという。

生成AIの実力発揮シーン

ドラマや映画での生成AI活用は今後ますます進んでいくと思われるが、生成AIがその実力を発揮するのは、やはり「爆発シーン」や、従来「マットペイント」と呼ばれる技法で作られていたシーンが中心となりそうだ。

「マットペイント」とは、実写映像にデジタルやアナログの絵画技術で製作した背景画を合成させ、すべてが実写のようにみせる技法のこと。「スター・ウォーズ」をはじめSF作品などには欠かせないものだ。

「マットペイント」を使うシーンの場合、ある程度の部分の実写撮影が必要となるが、これに生成AIを用いると、写真があれば同じようなシーンが出来てしまうという。TBSアクトの小嶋さんは改めてこう語る。

「コストダウンになります。だいぶ違いますね。マットペイントのために最低必要な実写素材を撮りに行くとなれば、カメラマンや照明も入れて行かなければいけなかったのが、AIを使うなら行かなくてよくなって、そこのスタッフの人件費が削減できてしまいます」

また、イノベーション推進部の宮崎部長も、生成AIを使うメリットについてこう強調する。

「生成AIで簡単にできるようになることで、もっとお金をかけなきゃいけないんだけど諦めていたところにお金をかけられるようになって、より“質”を上げることにもつながります」

導入決定から半年余り “プロ”のこだわり

ところで、今回の取材を通じて一番驚いたのは、TBSアクトの2人が生成AIツールを利用する環境を得てから、まだ半年余りしか経っていないということだ。

大村さんは、生成AIツールと日々格闘する中で、少しでも得られる映像の品質をあげるため、ある工夫にたどりついたという。

実は「Veo3」は日本語でのプロンプト指示が可能で、それが導入理由のひとつだったが、大村さんは今では英語による指示にこだわっていると話す。

「僕がもう意地でも英語でやってるのは、『Veo3』にかかる余分な計算力を減らすためなんですよ。『Veo3』は最終的に英語で考えるので、日本語で指示するとそこから英語に翻訳する時にどれくらいパワーを使ってるのか、わからないので」

そして生成AIのポテンシャルは認めつつ、こうも釘を刺す。

「AIがすべてやってくれたら楽なんですけどね。大事なのは、『AIではそこまでは難しい』という限界ラインを見極められることなんです。そして『AIがここまでやってくれるのなら、あとはじゃあ自分でやっちゃおう』という技術があるから品質を担保できるんですけれど、その技術がない人はAIで全部やり切らないといけないから、そうなってくると逆に時間もコストもかかると思います」

生成AIツールにも当然使った分だけの課金があり、“ガチャ”頼みでいたずらに出力を繰り返せば、逆にコスト高につながる可能性もある。「VFXのプロ」ならではの、言葉の重みがある。

“生成AIシーン”は今後も登場

TBSドラマ史上初のチャレンジとなった「VIVANT」第2シーズン。今回は異例の2クールという長丁場の放送となるが、今後も生成AI利用のシーンは、登場するのだろうか。宮崎陽平監督が教えてくれた。

「当初の予定よりもポスプロ(編集など仕上げの工程)段階で少し増えています。実景カットそのものをAIで作ったものもありますし、撮影時の小道具の段階でAIを利用したものもいくつかでてきます。ここまで堂々とAIを使える機会は滅多になかったので、『VIVANT』という作品を通じて、AIを使った表現力の可能性とそれを見た時の今後の世間の反応も探っていきたいと考えています。

ただし、『VIVANT』の世界観を構築する上で妥協は一切ありません。AIがなかった頃と同様の体制で、監督、助監督、VFXチームなど、スタッフ全員が納得したものだけを本編に組み込んでいきます」

リアルタイムでドラマを視聴している際は、生成AIを意識しない方が作品に没頭できるだろう。しかし、今や「TVer」でもすぐに見返せる時代。改めて、どのシーンに生成AIが使われているのか探し、想像しながら観るという楽しみ方もありそうだ。

「調査情報デジタル」編集部

【調査情報デジタル】
1958年創刊のTBSの情報誌「調査情報」を引き継いだデジタル版のWebマガジン(TBSメディア総研発行)。テレビ、メディア等に関する多彩な論考と情報を掲載。原則、毎週土曜日午前中に2本程度の記事を公開・配信している。

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