バレー男子日本代表、小野寺太志「目立たなくていい」 勝利を支える見えない仕事への誇り【実況席から見える世界】

28年ロサンゼルス五輪出場の切符を懸け、バレーボール男子日本代表が、アジア選手権(9月4~13日)に挑む。日本代表に名を連ねるミドルブロッカーの小野寺太志(30)は、パリ五輪で届かなかった“あと1点”を胸に刻み、2年後を目指している。勝利のためなら「目立たなくていい」と、自身の役割に徹する小野寺。自身も中高でバレー部に所属(セッター)し、入社直後の98年から現場取材を重ねてきた新タ悦男TBSアナウンサーが、リポートする(第10回)。
パリ五輪のイタリア戦、届かなかった“あと1点”
“目立たなくていい”。その言葉を、これほど迷いなく口にする代表選手は多くない。
エースが決める1点。
観客が沸くその裏で、誰にも気づかれない1本のブロックタッチがある。
誰にも記録されない駆け引きがある。
実況席から見続けていると、勝敗を左右する選手は、必ずしも一番点を取る選手ではない。
小野寺太志は、その“見えない仕事”に誇りを持ってきた。
その“見えない仕事”は、パリ五輪で届かなかった“あと1点”と、決して切り離せない。
「“あと1点”は、本当に大きかった。イタリア戦、勝てたかもしれない試合で、最後の1点が取れなかった(2セット先取からの逆転負け)。その1点が取れないと、やはり結果は変わらない。オリンピックという特別な舞台で、それが出てしまったことは、自分の中でもすごく心残り」
「過去の出来事として割り切れるようなものではなくて、今も心に残っています。その悔しさを原動力にして、次のロス(五輪)に向けて日々取り組んでいます」
主役が決める1点。その1点を生み出すために、自分は何を積み重ねるのか。
「どんなに二段トスで難しい状況になったとしても、そこを自分の力で『無理に打ちにいかない』。空中で相手のブロックの付き方を冷静に見て、『リバウンド』を取ってマイボールにしてコンビをもう一回やり直す。あるいは、ブロックの間の“空いているコース”を的確に狙って鋭く打っている。それが結果的に大きな失点になっていない。これまでの代表やSVリーグの修羅場で培ってきた、自分の“経験”。『今のこの割れたパスの軌道なら、こういう風に手の面を当てて打てば、ボールはこういう風に相手コートに落ちるから大丈夫だ』みたいな、打つ手前の段階でハッキリとした成功のイメージを頭の中に持って、空中に跳び上がる瞬間に、色んな“攻撃のパターンの引き出し”を頭の中で持ちながらスパイクの助走に入っていっている。そのトスが上がってきたラリー中の状況に合わせて、空中で『瞬時に正しい判断』ができている」
「“報われたな”と心の底から思える」
ミドルの“本当の価値”を教えてくれた恩人がいる。
「より、ミドルとしての“専門性(プロとしての深い戦術)”、高い考えになったのは、社会人になって、フィリップ・ブラン(前代表監督)と一緒に代表でやってから」。そう振り返る。
「ブラン監督から“ミドルブロッカーとは一体どういうポジションなのか(ミドルとは何か)”という概念の深さを教えてもらった。それまでは、恵まれた体格に任せて“なんとなく”の直感でやってきたものを、ブランから“相手セッターの指先の癖、アタッカーの助走の角度、こちらのブロックの面の残し方”というのをミリ単位で叩き込まれてきた。そこから『コートの上ですごい頭を使って考えてプレーするように』なったかな、と思います」
ミドルブロッカーとして叩き込まれたのは“準備の大切さ”。
「僕は、試合前の相手の映像を見る量が圧倒的に多い。自分の頭の中に叩き込まなきゃいけないデータの量も一番多い。試合中の目まぐるしいラリーの中で、瞬時に判断(選択)をする必要があるから、頭を使って本当に必死に、必死にプレーして、ようやく1つの綺麗なブロックタッチになる。でも、そうやって僕らミドルが頭を必死に使ってワンタッチを取ったとしても、それが直接“自分の得点”になるわけじゃない。試合の中で一番多く派手に得点を奪うのは、サイドやオポジット選手たちなんで。観客やメディアの注目(スポットライト)が一番集まっていくのは、彼らサイドの選手たちなのが当たり前だと思う。ミドルブロッカーというポジションは、『コートの中で一番“報われない”ポジション』だと思うんですよ」
だからといって、そこに悲観的な思いはない。むしろ逆だ。
「今の日本代表チームは、僕らミドルブロッカーというポジションに対しても、キャプテンの(石川)祐希をはじめ、みんながもの凄く“リスペクト”を持って接してくれている。 『タイシ(小野寺)さん、今の真ん中のステイのブロック、めちゃくちゃ効いてたよ! ありがとう!』って。僕たちの見えないブロックの貢献や割り切りのところに関して、コートの中で深く分かって評価してくれる。そういう素晴らしいチームメイトとの“信頼関係”がコートの上でできた時に、目立つスタッツには残らない小さな積み重ねですけど、『あぁ、毎日居残りで頭を使って努力してきて良かったな』って思える」
「だから、僕個人としては、フロントで綺麗なキルブロックが1本できたとか、そういう目に見えるプレーももちろん嬉しいですけど、自分の見えない全てのプレーが、最終的にチームの“勝利”という形に繋がった時、その瞬間に、『僕はバレーボール選手として“報われたな!”って心の底から思える』んです」
「ミドルブロッカーの本当の価値って、一般のファンからしたら一番“伝わりにくいポジション”だと思う。結局のところ、プロの世界って、フロントのブロックが圧倒的に優れている選手や、ミドルでもスパイクでたくさん点が取れる選手、あるいは一発で流れを変えるサーブで直接得点が取れる選手という、目に見える分かりやすい“直接得点”に対して、評価が高くなるとはわかっている」
「でも、その華やかな得点力の中で、ミドルとして。『毎試合波を無くして安定したプレーを提示し続けること』もプロとしてもの凄く大事。『怪我をせずにワンシーズン全試合を戦い抜くこと』もプロとしてめちゃくちゃ大事。『そのチームの戦術に100%フィットすること』も何より大事だと思う」
あるべき姿がわかっているからこそ、晴れやかな笑顔で続ける。
「僕は、コートの上で一番目立つ『主役(ヒーロー)』にならなくていい」
『目立たなくていい』 それが小野寺の信念。
日本代表のミドルブロッカーとしての矜持。
「僕は、今ここにいるすべての選手たち、『一緒にバレーをやっていて楽しい奴らと、1日でも長く一緒に日の丸を背負ってバレーボールができれば、それで僕は一番幸せ』なんです」
「周りが活躍するための動きが僕はできればいい。僕は試合に勝って、『最高のメンバーの最高の笑顔』が見られればそれでいい。何よりそれだけで十分なんです」
仲間の最高の笑顔。
心から報われる瞬間。
そのためならば、すべての時間を彼らに捧げる。
見えない仕事を、誇りに変える。
それが、小野寺太志だ。